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今回は多くの途上国が、栄養改善を含む保健政策全般に取り入れている「プライマリー・ヘルス・ケア」という理念について紹介したいと思います。この、プライマリー・ヘルス・ケアという言葉は、栄養士課程のカリキュラムの中では、公衆衛生の授業で少し触れられる程度かもしれませんが、その考え方は日本の地域開発と重なる部分があります。

プライマリー・ヘルス・ケア(Primary Health Care)とは

すべての人にとって健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において住民の主体的な参加や自己決定権を保証する理念です。地域住民を主体とし、人々の最も重要なニーズに応え、問題を住民自らの力で総合的、かつ平等に解決していく方法論・アプローチと定義されています。

プライマリー・ヘルス・ケアの実施においては、以下の5つの原則があると言われています。
①住民のニーズに基づくこと
②地域資源の有効活用
③住民参加
④農業、教育、通信、建設・水利など他分野間の協調と統合
⑤適正技術の使用
※⑤が②に含まれ4つの原則と言われることもある。

歴史的な宣言が下地

この理念は、1978年に旧ソビエト連邦カザフ共和国の首都アルマ・アタ(現アルマトイ)で開かれた世界保健機構と国際連合児童基金による合同会議にて宣言された「アルマ・アタ宣言」で、初めて定義づけられました。

主役が専門家から地域住民へ

栄養改善に限らず、医療や健康増進に関する「答え」は、教科書または専門家の中に見い出されてきた時代があり、地域に限らず個人に対して医療者や専門家主導の「指導」がなされてきました。
しかし、このアルマ・アタ宣言を受け、プライマリー・ヘルス・ケアの理念が少しずつ浸透してきた今日では、地域の食の営みや価値観・文化のことを一番わかっているのは、その地域の住民であり、地域やその住民の将来を自分事として一番捉えられるのも住民自身である、ということを前提に、現在は「住民参加型」の開発体制がとられるのが主流になりました。

2017年の現在では、「住民参加」よりも「住民主体」という言葉の方がよく聞かれるようになっています。「答え」が教科書の中に明記されなくなった今、我々専門家のヒアリング能力・洞察力・提案力といった、求められるスキルの幅は、確実に広がってきている気がします。
ここで強調して伝えたいことは、栄養士の難易度が高まっているということではなく、逆を言えば少しくらい化学や料理や解剖学が苦手だとしても、コミュニケーション能力に自信があるという方、人と話をするのが好きという方は、それだけでも栄養士に向いていると言えるのだということです。
次回からは、プライマリー・ヘルス・ケアを取り入れた栄養改善プロジェクトの事例をあげながら、途上国での栄養改善事業展開のポイントなどを紹介していきたいと思います。

・『栄養士の国際支援 – 駐在型支援とシャトル型支援』
・『国際支援 – 青年海外協力隊の経験を通して考えたこと』
・『国際支援 - 強化したい6つの力』

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みんなのコメント( 4

    • 太田 旭
    • 太田 旭
      19日前

      >>大倉先生>>
      いつもありがとうございます。国際栄養といいつつも、日本も世界地図の中にありますものね。仰ぐように、宗教色やベジタリアン食が日本ではあまりニーズが大きくないなど、各国・各地域でニーズが異なりますものね。私も大倉先生から勉強させていただくこと多いです。今後ともよろしくお願い致します!

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    • 大倉 あやこ
    • 大倉 あやこ
      19日前

      本当にその通りです。
      食べる人とその課題があってこその専門家ですもんね!
      日本では宗教食や各ベジタリアン食にさほど神経を使わなくてもいいですが、やはり海外では注意しないといけないことも多いですし、中国だけの経験しかない私には、とても勉強になります。
      国内で活躍されている栄養士さんが経験できない分野の情報を発信していただけて本当にありがたいです!!

      2

    • 太田 旭
    • 太田 旭
      19日前

      >>道盛さん>>
      コメントありがとうございます。国内で働いていた際も住民の方のニーズによっては、口腔ケア実施・義歯調整依頼・嚥下リハなどなど歯科と一緒に応えるべく計画に繋がることも多くありました。おっしゃる通りだと思います、各プロが専門性をいかしながら多面的包括的に価値を出していけたらと思います。

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    • 道盛 法子
    • 道盛 法子
      23日前

      地域住民が主役、その通りだと思います、日本国内で地域活動を行う場合でも同じことが言えますね。地域の方から、その地域の歴史や文化を聞き、思いに寄り添って、一緒に考える。その中で、栄養士は食や栄養を切り口にどんな価値を出していくかだと感じています。次回のコラムも楽しみにしております!

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WRITER

地域開発・食事相談時に思い出したい「プライマリー・ヘルス・ケア」の理念とは

太田 旭

在宅型ホスピス、認可保育園、離島での僻地医療に従事した後、青年海外協力隊としてグアテマラへ渡りました。帰国後はアライアンス・フォーラム財団へ入団し、途上国での慢性栄養不良改善・貧困削減を目指して活動しています。途上国へ進出したい日本企業向けコンサルティング、途上国での栄養改善・人材育成事業を担当する栄養士です。

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