前回のコラムでは、1999年に発刊された世界人口白書世界にある9項目について詳しく解説しました。今回は、発展途上国での人口爆発がもたらす影響を踏まえ、国際栄養士が実施する「家族計画」とは何か、家族計画が実施できない原因などをお届けしたいと思います。
家族計画とは
日本では「家族計画」について、1958年度の厚生白書にて、以下のように明記されています。
「われわれが健康にして文化的な生活を営むためには、自分の手で家族設計すなわち適当な家族構成を考えていくことが必要となる。家族計画とは、このような自主的計画的な家族設計のことをいう。」
自主的計画的ではない原因
先進国と比較して、多くの発展途上国では多産であり、自主的計画的な家族設計が行えない原因は多様です。ここでは多産となる原因について、いくつか思いつくままに挙げてみたいと思います。
【1】子どもの数が多いほど、子孫繁栄力が高いと称えられる文化や宗教の影響を受け、あらゆる場合も子どもをたくさん作ることが、人として地位の高いという価値観が根付いている。
【2】子どもの数が多いということが、所有している資源や食料の一人当たりの分配量を少なくする要因になり得るということと紐づけられず、子ども一人一人が生きるために必要な資源や食料を十分確保できる範囲で、出産を計画するという発想が持てない。
【3】子どもは家庭が所有する労働力という認識を持ち、貧困に悩む家庭程、子どもをたくさん持つことで家庭の経済が豊かになると考えている。
【4】性教育が普及しておらず、妊娠の仕組み/避妊の方法などを知らずに望まない妊娠が生じる。
【5】性欲の高さを自己でコントロールするのが難しい場合、そのような人に対する公共サービス/仕組みがない。
【6】強姦などの犯罪が社会的に正当化されている状況があり、対策がなされず強姦が防ぎにくい。
【7】中絶手術を安全に実施できる医療者が不足しており、望まない妊娠でも出産するしか手段がない。
【8】国によって中絶を法律で認めていないため、望まない妊娠でも出産するしか手段がない。
家族計画が求められる理由
1950年代以降、世界ではアジアを中心に食糧や資源が不足し、深刻な栄養不良状態に陥る人々が多くおりました。その原因として指摘されたのが、公正な分配の仕組みが確立できていないことと、人口の急激な増加でした。発展途上国で人口が爆発的に増加すると、労働者による経済活動には変動がなく、一人当たりの所得水準や食料の取得量は低くなり、貧困や飢餓状態に陥る人々が増えると言われます。そのため、世界では人口増加に対する政策として、家族計画の必要性が叫ばれてきたのです。
家族計画の現在の潮流
1994年の国際人口開発会議(ICPD)では、人口統計を優先させた国家の人口政策というマクロの視点から、個々の健康や生活というミクロの視点へ重点を移すべきと発表されました。つまり、日本の様に、少子化にある国や地域もあれば、前述のように多産が課題とされる国や地域であっても、その原因は多様であることから、単に出産数をコントロールしようとするのではなく、個人ごとに安全で快適な出産・育児が実現できるよう支援することが求められてきたということです。
次回予告
第1回~3回で紹介した通り、リプロダクト・ヘルス/ライツを踏まえた人口政策には、食や栄養に関する事項や対策が親密に含まれています。連載最後となる第4回は、実際に国際栄養士を含む保健管轄スタッフが行う「家族計画研修」について、バングラデシュ共和国を例に紹介していきたいと思います。
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