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連載の最後となる第4回は、実際に国際栄養士を含む保健管轄スタッフが行う「家族計画研修」について、バングラデシュ共和国を例に紹介していきます。

保健ポストの役割

私がスタッフとして活動した多くの国には、保健ポストと呼ばれる保健省傘下の組織がありました。保健ポストは、税金や助成金によって運営されていることから、所得はもちろんのこと、年齢や性別、学歴や宗教を問わず、地域住民の誰でもが、無償で保健情報の提供や教育が受けられる唯一の公的機関として、予防接種や健康診断などを行っています。また、健康・栄養の教育、避妊の方法や妊娠の仕組みについての情報も発信できるよう努めています。

 

ターゲットの設定

世界人口白書2019によると、現在、世界の2億人以上の女性が、避妊を望みながらも現代的な避妊方法に関する情報やサービスに、アクセスできていないそうです。その多くは、少数民族・若者・未婚者・LGBTI(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・インターセックスの方々)・障がい者・農村部/都市の貧困層の人々とされています。支援するターゲットの設定の際はこういった状況を、マクロな視点からよりミクロな視点に落としむことが大切です。

ターゲットの設定は、担当の国・州・県・地域にどんな文化や価値観があり、どんな方々にどんな情報やサービスが届いていないのか、理解が浅いのかなどを把握し、その地域ならではの土着のルールを十分に尊重した事業計画を立てながら行います。ここで気を付けたいのは、統計調査の結果や政府・団体の報告内容にとらわれ過ぎないことです。地域がマクロになればなるほど、思い込みやバイアスが本質を見えにくくさせてしまう恐れがあるからです。

 

バングラデシュの事例

栄養改善プロジェクトを立ち上げるにあたり、事前調査の際には、政府文書では統計的に男性から女性への家庭内暴力や性的暴力、児童労働や女児の児童婚及び若年出産の課題を抱えるとされ、閉鎖的な空間で忍耐を強いられる女性が多くいるということを確認していました。

現地を訪れて受けた印象は、「女性は神秘的であるため、大切に家の中でひっそりと守られているべきもの」とされ、女性は閉鎖的空間の中で内向的である一方、男性はあらゆる場面で外交的で優位というものでした。決定権の多くは男性が握っており、一般的に女性が外出する際にも、男性の許可が必要となっているため、保健ポストで開催される研修への参加も、男性の許可を得られなければいけないという独自のルールがありました。

このような文化の中で「妊娠計画について考える研修に参加を!」と女性達に声をかけて歩いても、当然誰も集まらないことは安易に予想できました。ですので「料理について学びましょう。家族で美味しい料理を食べられるようになりますよ!」と男女問わずに声をかけると、男性から許可を得た女性達が、続々と研修を受けに集まることができたのです。

 

調理実習を活用した家族計画

そこで私は栄養士として教育実習プログラムの開発を行うと共に、衛生指導や家族計画教育を盛り込んだ料理教室を企画し実施しました。生理周期や妊娠周期が理解できるよう、カレンダーの見方や数の数え方を伝えたり、料理教室でできた食事を試食する際にも、もしも子ども3人で分けるとしたら一人当たりどれくらい食べられるか、それが6人だったらどれくらいに減ってしまうのか、3人の時と6人の時、お腹をいっぱいにしたり、栄養が充足するためにはどちらを選ぶのがより良いのかなど、実際に食べ物を使って十分な食分配が予測できるようシミュレーションを行ったり、避妊方法とそのメリットデメリットを伝えるにとどまらない家族計画教育を展開していました。

参加してくれていた女性達は、家庭の悩みを誰かに共有する文化がなかなか無いので、プライバシーの保護に関わる仕組み作りや、話しやすい雰囲気作りは常に心掛けていました。そして、家庭内暴力やリプロダクトライツに関わるSOSを受け取った際には、速やかに専門の相談員を紹介し解決へと努めていました。

 

途上国でメジャーな避妊アイテム

海外の多くの国では、男性の協力が無くても実施可能で、日々の管理が簡単であり、保健ポストですぐに処置が可能な「Implants」という避妊アイテムが多く使われてきました。これはマッチ棒サイズのホルモンを放出するスティックであり、女性の二の腕などの皮下に埋め込み、埋め込んでいる間の有効期間(約3年程)避妊ができるというものです。

1998年以降にヨーロッパを中心に使われるようになり、2006年にはアメリカでも認可されている避妊具ですが、日本ではまだ認可されていないため認知度は低い状況です。希望者へのコンドーム無料配布も多くの国で導入されている対策ではありますが、男性の理解と協力が得られる場合しか活用できないためハードルが高く、なかなか普及していない場合も多いようです。

家族計画は、国際保健・栄養教育従事者には、必ず業務の範囲に入るトピックなので、この仕事に携わることになった際には、事前に家族計画ガイドラインなどで予習し、各避妊具の特徴や取り扱いなどを調べておくことをお勧めします。

 

連載を振り返る

第1回 リプロダクティブ・ライツ(=性と生殖に関する健康・権利)
第2回 若年出産や多産が起因する栄養不良の悪循環
第3回 国際栄養士が担う家族計画教育とは
第4回 第4回 『家族計画』教育実習の事例報告

 

参考文献
①太田さんが担当した栄養改善プロジェクト成果報告動画
https://www.youtube.com/watch?v=-Z5IT9GMdHs
②家族計画ガイドライン 2018年発刊第3訂
https://www.fphandbook.org/sites/default/files/global-handbook-2018-full-web.pdf

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みんなのコメント( 3

    • 太田 旭
    • 太田 旭
      4日前

      川口さん
      いつもありがとうございます。まさに商品名やパッケージをどのようにすると商品を手に取ってもらえるかを考えるマーケティング人材と同じで、我々もターゲットの方々がどうやってら来ていただけるのか、実はよく考えていることと思っていました。そう考えると、栄養士もマーケターですね!

      拍手 1

    • 川口 由美子
    • 川口 由美子
      5日前

      どうやったら女性が家からでてくるのか・・・というところで、ふつうは挫折しそうですが、料理教室という名目で呼び出すとは、すばらしいなと思いました。日本の普段の栄養指導などでも、少し理由は違いますがこのようなアプローチは大切かなと改めて考えさせられました。(例えば お弁当の作り方だと誰も必要性を感じてくれないけど、強いからだをつくる教室にするなど...少し違いますが、、、なんとなく改めて思いました)

      また、避妊薬についても知らなかったので勉強になりました。

      拍手 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      5日前

      Eatreat 編集部です。シリーズ最終回の本日は、バングラデシュ共和国の実際の取り組みを御紹介しています。

      拍手 0

WRITER

第4回 『家族計画』教育実習の事例報告

太田 旭

【国際栄養・母子保健】途上国へ進出したい日本企業向けコンサルティング、途上国での栄養改善・人材育成事業を担当する栄養士です。2004年~出身地である宮城県にて在宅型ホスピス、認可保育園、離島での僻地医療、災害支援(東日本大震災)に従事した。2012年青年海外協力隊としてグアテマラに派遣。2015年アライアンス・フォーラム財団へ入団し、途上国での慢性栄養不良改善・貧困削減を目指して活動中。

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