加藤知子さんがお伝えする「胃を手術したあとの食事の工夫」の第3回目です。
胃の手術後、入院中はやわらかく消化の良い食材や調理法で作られた食事が提供されます。胃の機能の代わりに、「よく噛んで口の中で細かくして食べる」「ゆっくり食べることで、食べ物を時間をかけて体内に送る」というイメージを持つと良いでしょう。
この表の消化に良い食材であっても、「どれだけ食べても大丈夫」というわけではありません。一度に大量に食べたり、早食いをすればトラブルが起こりやすくなります。逆に、少量ずつ始めたい食材は、決して避けるべき食材という意味ではなく、少量ずつゆっくり食べれば問題なく食べることができる食材です。色々な食材を試して、自信をつけていきましょう。
胃切除術後の合併症~ダンピング症候群
胃を摘出した人が起こしやすい合併症が、ダンピング症候群です。早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群があります。
通常、1回に食べた食事の内容物が胃内にとどまっているのは約3~6時間と言われます。胃の幽門は開いたり閉じたりを繰り返しながら、十二指腸へ少量ずつ食物を送り出しています。胃切除後の患者さんでは、幽門部がなくなることで、食べたものがそのまま急速に小腸へと入っていくことになります。ダンピング症候群とは、このように食物が一気に小腸内に入ることにより起こります。
食べ方の工夫でダンピング症候群は予防することができるので、栄養士からの食べ方の指導と、患者さんの新しい食べ方の習得はとても大切なことなのです。
早期ダンピング症候群
起こる時期:食事中や食後すぐ、あるいは食後20~30分以内
症状:動悸、発汗、めまい、眠気、脱力感、おなかがゴロゴロする、下痢など
原因:糖質の多い食物を早く食べたことにより、糖質の浸透圧を調整するために腸液が分泌され、循環血液量が
減少して血圧の低下が起こる。消化管ホルモンが過剰に分泌されたり、小腸の運動が活発になり膨らむなど
の原因も考えられている。
早期ダンピング症候群が起きたときは、安静にしていると改善します。完全に横になると、食べたものが逆流しやすいので注意します。
早期ダンピング症候群の予防と対策としては、以下の2つが挙げられます。
① 食べる早さをゆっくりにして、良く噛んで食べる
ゆっくり時間をかけて食べる方でも、お茶や水をごくごくと飲むと、食物が腸へ押し流されてダンピングが起こることもあります。
② 一度にたくさん食べ過ぎない(大食いは控える)
1回の食事量が多いようであれば2回にわけるなど、1回量を減らして食事回数を増やします。1日3回食でダンピングが起こりやすい場合、5~6回食にするとダンピングが起こりにくくなります。
早期ダンピング症候群は、比較的術後早期に強く表れる症状で、次第に軽快していくことが多いです。
後期ダンピング症候群
起こる時期:食後2~3時間
症状:冷や汗、頻脈、めまい、失神、脱力、手指のふるえ、全身の倦怠感
原因:血糖値が下がりすぎたことによる。本来は少しずつ胃から小腸へ送られて吸収されるはずの糖質が、急激
に消化・吸収されるため血糖値が急に上昇する。それに反応し血糖値を下げるインスリンというホルモン
が過剰に分泌されるが、すでに糖質は吸収されたあとのため、分泌されたインスリンは多過ぎて必要以上
に血糖値が下がってしまう。
後期ダンピング症候群が起きたときは、下がりすぎた血糖値を上昇させるために、糖質を含むものをとる、飴玉をなめるなどをします。
後期ダンピング症候群の予防と対策としては、食後2時間後に軽食などを食べます。症状の対処のために、糖質を含むあめ、ビスケットなどを携帯すると良いです。
ダンピング症状の観察
先述したように、ダンピング症状は一度にたくさんの食事を摂取したときや、早食いになったときに症状が表れやすいと言われています。
ダンピング症状を起こした場合、食事に対して恐怖心や不安を強く抱くようになり、食事摂取量が減少したり、食べる意欲を失うことがあります。
管理栄養士は、患者さんの入院前の食生活や習慣について情報収集し、食事にかける時間や好みの料理・食品など聞いておくと良いでしょう。
症状が表れたときは、食事にかけた時間、食べた料理の内容、食品、量、症状を記録してもらいます。また、食後の吐き気や嘔吐の有無、気分不快感や腹部の症状、食事中の体位、自覚症状の出現時期などを伺います。合わせて、それらの症状がどうして起こったのか、本人の受け止め方や捉え方など聞き、予防策を考えます。
参考文献
1)最新版・胃を切った人を元気いっぱいにする食事160、主婦の友社
2)日本栄養士会 https://www.eiyou.or.jp/certif/cancer.html
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