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加藤知子さんがお伝えする「胃を手術したあとの食事の工夫」の第4回目です。

退院後は自分のペースで食事をしていき、少しずつ日常生活に慣れるようにしていきます。退院してから1週間前後は、入院中の食事量くらいで続けてみて、ダンピング症候群などの不快な症状が起こらず、排便も順調であれば量を少しずつ増やしていきます。

退院後の食べ方の工夫
・少しずつ、よく口で噛んで食べることを継続する
・早食い習慣があった人は、ゆっくり食べる習慣に変える
・大食いの習慣があった場合は、1回量を少なくすることを心がける

ゆっくり時間をかけて食べるために、使用する食器や食具を大きいものから小さいものに変えてみるのも工夫の一つです。(カレースプーンから小さなスプーンなどに変えてみる、など)なくなった胃の代わりに、口の中で噛み砕いてお腹に送る、というイメージで食事をするとうまくいきやすいです。

胃を切った後の後遺症との付き合い方

胃を切除したあとの胃の機能喪失、消化管を手術したことによる障害を、胃切除後症候群といいます。前回のコラムで紹介したダンピング症候群もそのひとつです。

他にも、胃切除後症候群には、以下のような症状があります。
① 体重減少・低栄養
胃を手術した後は、食欲促進ホルモンであるグレリンの分泌がされなくなり食欲不振になるうえ、満腹感をすぐに感じやすくなります。それらの原因から、1日の食事摂取量が不十分であったり、消化吸収障害があるために疲労感を感じやすくなったり、低栄養状態に陥りやすくなります。手術後3~6か月後で体重減少が落ち着き、個人差はありますが1年前後で体重の下がり止まりになり、その後は変わらないことが多くみられます。しかし、さらに体重減少が続くような場合、食事の方法や内容の見直しが必要になります。
まずは、1日の必要栄養量を、ダンピングをおこさずに摂取することを目標とし、手術後3~4ヶ月頃に、1日の食事回数が3回になることを目安にします。個人差があるので、決して焦らないことが大切です。

② 術後逆流性食道炎
症状には胸やけなどがあります。噴門、幽門の機能を失ったことにより、胃酸、膵液、胆汁の逆流が起こると、苦みを感じることもあります。逆流は食道の位置が低くなる、あおむけで寝たときに起こりやすくなります。逆流を防ぐために、食後だけでなく就寝時も上体をやや挙上(体を起こし気味にする)した体勢をとる、就寝直前の飲食を避ける、過食を避けるようにします。

③ ダンピング症候群
前回のコラムを参考にしてください。

④ 小胃症候群
胃の容量が減ることで、食後の膨満感、胸やけ、圧迫感が生じます。
食事回数を増やして1回量を少なくするなど、一度にたくさん食べ過ぎないようにすると改善しやすくなります。

⑤ 消化吸収障害(下痢)
食物がそのまま小腸に一度に送られることが、下痢をきたす原因となります。胃がないことから、消化液の分泌が減少、または失われるため、脂質の消化・吸収が障害されるのも一因です。
また、幽門を切除することで、胃の中に送られていた空気が腸内に送られることにより、ガスがでやすくなります。

⑥ 骨代謝障害
カルシウムは胃液によりイオン化されて、小腸で吸収されます。そのため、胃切除後は、食物中に含まれるカルシウムは吸収されにくくなり、不足するカルシウムを補うために骨のカルシウムが溶け、体内で利用されるようになります。長期にわたると骨軟化症や骨粗しょう症となることがあります。

⑦ 貧血
胃を切ったあとに起こる貧血には、鉄欠乏性貧血と、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)の2種類があります。

鉄欠乏性貧血
貧血は、血液中のヘモグロビンの減少により起こります。ヘモグロビンの材料となるのが鉄で、鉄欠乏性貧血は鉄が不足することにより起こります。鉄は食品中に含まれていますが、胃の手術後に全体の食事量が減ると、自然と食事由来の鉄の摂取量が減ります。また、食品中の鉄は三価鉄という状態で、胃から分泌される塩酸によって吸収されやすい二価鉄となり、小腸で吸収されています。しかし、胃全摘出術の場合には塩酸が分泌されず、部分切除術の場合は分泌が減るので、鉄が手術前よりも吸収されにくくなります。このため、鉄欠乏性貧血が起こりやすくなります。

巨赤芽球性貧血(悪性貧血)
ビタミンB12は、赤血球が作られるときにヘモグロビンが合成するのを助ける働きがあります。胃の壁細胞からキャッスル内因子という物質が分泌され、ビタミンB12と結合し、回腸の末端で吸収されます。ビタミンB12は、肝臓に4~5年分の貯蔵があるため、貧血は術後4~5年経てから出現することがあります。巨赤芽球性貧血を予防するために、ビタミンB12を補給します。特に、胃全摘出術の場合は、500µg/日を経口で摂取すると血中濃度が改善すると言われています。

鉄やビタミンB12が足りているか、不足していないかというのは、手術後の定期受診にて血清鉄や血中ビタミンB12の値をモニタリングします。不足しているときは、適切な鉄剤やビタミンB12を経口投与することが重要です。また、効果が得られにくい場合は、注射を行うこともあります。


⑧ 糖尿病、耐糖能異常
胃切除術後は、糖尿病または耐糖能異常になりやすいと言われています。メカニズムとしては、胃を切除した人が食事をすると、食物中の糖質が一気に小腸へと入り、吸収された糖質が血糖値の急上昇を起こし、膵臓からインスリンが大量に分泌されます。食後高血糖になりやすいことで、血糖コントロールが悪くなる方もいます。1日5~6回の食事にして1回量を少なくし、食後高血糖を防ぐような食事療法を行ったり、血糖降下薬を内服して食後高血糖を予防するなどの対策があります。

患者さん・ご家族へ

医療機関には管理栄養士や、がん治療に特化し専門的な知識と技術を持ったがん病態栄養専門管理栄養士がいるので、患者さんの栄養管理や栄養食事指導、相談にのってもらうことができます。かかりつけ医療機関の主治医にご相談ください。

 

参考文献
1)最新版・胃を切った人を元気いっぱいにする食事160、主婦の友社
2)日本栄養士会 https://www.eiyou.or.jp/certif/cancer.html

 

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      56日前

      胃を手術したあとの食事の工夫のコラム最終回です。今回のコラムでは退院後の食事の工夫と、胃を切除した後に起こることがある胃切除後症候群についてを加藤さんが解説しています。

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WRITER

第4回 胃を手術したあとの食事の工夫 体重管理と栄養障害

加藤 知子

イートリートアカデミー本気で特定保健指導したい人向け講座【知識編】の講師。 仙台白百合女子大学卒業。 総合病院勤務、人間ドック・健診機関勤務を経て、現在一般社団法人食サポートオフィス代表。 生活習慣病を予防するための生活・食事相談から疾病により食事療法を必要とする方への食事相談など広範囲にわたって食生活をサポートしている。 特定保健指導制度の開始とともに特定保健指導室の立ち上げや特定保健指導に従事。 現在はWEBサイト・雑誌・書籍への掲載やレシピ提案、特定保健指導や外来栄養食事指導に従事する管理栄養士へのトレーニングを行っている。 【所有資格】 管理栄養士、看護師 日本糖尿病療養指導士、病態栄養認定管理栄養士

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