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- 病気(症例別)と栄養
- 2025.09.05
新たな症候群「FUS(女性の低体重/低栄養症候群)」を解説!~前編~
2025年4月に日本肥満学会から発表された、新たな症候群「FUS(女性の低体重/低栄養症候群)」についてご紹介します。
前編は、定義や背景、健康リスクについての解説です。
FUSの定義
主な疾患や状態は以下です。
・BMI<18.5kg/m²以下
・低筋肉量・筋力低下
・ビタミンDや鉄などの栄養素不足
・貧血
・月経周期異常
・低骨密度
・耐糖能異常
・徐脈、低血圧
・抑うつや認知機能低下などの精神症状
・冷え性や便秘などの身体症状
・身体活動低下
FUS発表の背景
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①痩せの割合増加
20代の低体重の割合は増加傾向であり、1990年代以降は20~25%程度で推移しています。 -
②痩せ=美の価値観
SNSなどの影響により、理想体重への設定が低く、強い痩せ願望を持つ傾向があると分かっています。 -
③GLP-1受容体作動薬の適応外使用
GLP-1受容体作動薬は糖尿病や肥満症の治療薬ですが「容易な痩身薬」として認知が広まり、オンライン診療などを通じて簡単に購入・使用できる状況が社会問題となっています。
特定保健指導などの肥満に対する制度は整っていますが、低体重や低栄養に対するアプローチは不十分であり、この問題を解決するには社会構造への働きかけが必要です。このような背景から、日本肥満学会は日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループを立ち上げ、新たな症候群としてFUSが位置づけられました。
低体重および低栄養による健康リスクや症状
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▶骨量低下および骨粗鬆症
女性の骨密度は10代後半でピークに達しますが、この骨密度のピークを迎える最重要時期に低栄養、エストロゲンの低下、低体重による過重負荷の低下が骨形成を阻害し、将来的な骨粗鬆症のリスクを高めると考えられます。 -
▶月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク
低栄養や極端な体重減少は月経不順や排卵障害を招きやすく、長期的には不妊や妊娠合併症リスクの上昇が懸念されます。また、妊娠前の低栄養状態により、切迫早産や低出生体重児の増加など児の健康にも影響を及ぼす可能性があります。 -
▶微量元素やビタミン不足による健康障害
複数のビタミン・ミネラルの不足が生じやすく、特に鉄・亜鉛・ビタミンB12、ビタミンD、カルシウム不足がみられ、貧血や免疫機能の低下、骨密度の低下など、さまざまな健康障害を引き起こしやすい状態です。 -
▶代謝異常
日本人の若年女性の低体重では、耐糖能異常のリスクが高いことが最近の研究で明らかにされています。また、極端なエネルギー制限により、低T3症候群やLDLコレステロール上昇も懸念されます。 -
▶サルコペニア様状態
高齢者だけでなく、若年女性の筋量や筋力低下も将来的なロコモティブシンドロームやフレイルにつながる可能性があります。 -
▶摂食障害
理想的な痩せボディイメージや、メディアを含む社会からの圧力が加わり、食行動の異常を促進し、摂食障害へと発展するケースもあります。 -
▶精神・神経・全身症状
低体重や低栄養状態は、倦怠感、睡眠障害、低血圧、頭痛、便秘、冷え性、肌質・髪質の低下などの身体症状や抑うつ、不安、集中力低下、認知機能低下などの神経精神症状が認められます。
まとめ
GLP-1受容体作動薬は、糖尿病専門クリニックに痩身目的での購入電話が寄せられるなど、痩せ薬としての認知が広まっていると感じました。FUSについて、理解が進められるよう早急に取り組む必要がありそうです。
次回は、FUSの原因、対処法、方向性についてご紹介します。
・一般社団法人 日本肥満学会 「学術情報 女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome)(FUS)ステートメント(2025年4月17日公開)」
https://www.jasso.or.jp/contents/Introduction/academic-information.html(閲覧日:2025年7月1日)
みんなのコメント( 1 )
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- Eatreat 編集部
- 2日前
今年新たに発表されたFUS(女性の低体重/低栄養症候群)について、管理栄養士の石坂 貴子さんに解説していただきます。
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WRITER
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石坂 貴子
大学を卒業後、食品メーカーに入社し、病院、介護施設向けの栄養補助食品の営業をしていました。その後、急性期・回復期病院にて7年間勤務。栄養相談を通して、もっと食の正しい知識の普及、悩みに寄り添いたい、という思いから、フリーランスに転向。 現在は糖尿病を始めとした生活習慣病の栄養指導、ダイエットの相談、コラム執筆などにて活動中です。
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