前回のコラムでは「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」の概要をご紹介しました。新たに3部構成となり、医療従事者だけでなく患者も含めた幅広い層にとって活用しやすい内容となっています。
今回は、その中でも管理栄養士・栄養士が特に注目すべき改定ポイントについてご紹介します。
改定ポイント① 75歳以上の降圧目標の厳格化
年齢、既往などの背景に関わらず、原則として降圧目標が以下のように一律に定められました。この背景には、一律にすることで誰にとっても分かりやすい指針とする工夫が込められています。ただし、やみくもに降圧するのではなく、有害事象に注意しながら個別に降圧目標を設定することが求められます。
<降圧目標>
診察室血圧:130/80 mmHg未満
家庭血圧:125/75 mmHg未満
※高値血圧(診察室血圧130~139/80~89 mmHg)で脳心血管病の既往や糖尿病を伴わないような低・中等リスクの場合、医療経済的な観点を考慮して、生活習慣の改善を強化する。
※めまい・ふらつき・立ちくらみ・倦怠感・失神などの症候性低血圧、起立性低血圧、急性腎障害、高カリウム血症などの電解質異常といった有害事象の発症に注意しながら降圧を進める。
※高血圧患者で収縮期血圧120 mmHg未満に降圧した場合には、死亡、脳卒中、腎機能低下の増加が認められている。このような過降圧の場合の有害事象に注意しながら、個々に判断を行う。
◆JSH2019との比較
「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」では、年齢や合併症の有無に応じた降圧目標が設定されていました。
<降圧目標>
・75歳未満の成人:診察室血圧130/80 mmHg未満※1
・75歳以上の高齢者:診察室血圧140/90 mmHg未満※2
・家庭血圧の降圧目標:診察室血圧より5 mmHg低い値
75歳未満:125/75 mmHg未満
75歳以上:135/85 mmHg未満
※1 脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉鎖なし)・冠動脈疾患患者・CKD患者(尿蛋白陽性:随時尿0.15 g/gCr以上)・糖尿病患者・抗血栓薬服用中の場合を含む。
※2 脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉鎖あり、または未評価)・CKD患者(尿蛋白陰性; 随時尿0.15 g/gCr未満)の場合を含む。
なお、今回の改定での診断基準は、診察室血圧140/90 mmHg以上、家庭血圧135/85 mmHg以上のままで据え置かれています。
改定ポイント② 行動変容を促す内容へシフト
■食塩制限:減塩目標6 g/日未満
高齢者にも減塩は有効だが、必要エネルギーや栄養素の摂取不足にならないような配慮が必要であり、6 g/日未満にこだわらず、体格、栄養状態、身体活動量などを考慮して適宜調整を行うことが望ましい。
■Na以外の栄養素と食事パターン
カリウムを多く含む野菜・果物、低脂肪牛乳・乳製品などを積極的に摂取する。Na/K比の低下に努める。
■運動
有酸素運動とともにレジスタンス運動や複合運動が推奨される。
■デジタル技術の活用
ICTを活用した遠隔医療・保健指導、尿Na/K比、食事/尿中Na濃度を測定するデバイスを活用が食塩摂取量の低下や降圧に有用であることが示されている。
■節酒、禁煙、その他の生活習慣
加熱式タバコによる血圧上昇、脈拍増加や動脈弾性低下、酸化ストレスの亢進や血管内皮機能障害などの健康被害も懸念されており、加熱式タバコを含めた禁煙が推奨される。また、寒冷環境や睡眠、便秘、ストレスなども血圧上昇を引き起こす要因となり得る。
まとめ
JSH2019では触れられていなかった加熱式タバコの影響や、スマートフォンアプリなどのデジタル技術の活用、さらに減塩に加えNa/K比の重要性といった新たな視点も盛り込まれ、より実践的かつ包括的な内容へと改定されました。私たち管理栄養士・栄養士にとっても活用しやすいものとなっています。
参考文献
・日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン 2025」、ライフサイエンス出版株式会社(2025)
関連コラム
・高血圧症とは? 定義とメカニズムを知る
・【概要編】高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)