1回目のコラム では、血圧が上がるメカニズムについてご紹介しました。
今回のコラムでは、曖昧になりがちな高血圧の診断基準と分類についてご紹介します。
高血圧症の診断基準
高血圧治療ガイドライン2019では、診察室血圧120/80mmHg未満を正常血圧と定義しています。120~139/80~89mmHgは、将来高血圧へ移行する確率が高く正常血圧とは言い難いという理由から、下図の通りそれぞれ「正常高値血圧」、「高値血圧」に分類されています。
また、家庭血圧は、世界のガイドラインと同様、欧米や日本での研究を含めたIDHOCO(International Database of Home blood pressure in relation to
CardiovascularOutcome)のメタ解析の結果と、日本国内の大迫研究などの結果を根拠に分類されています。これは、朝・晩それぞれの測定値7日間(少なくとも5日間)の平均値を用いて評価され、朝の家庭血圧平均値、晩の家庭血圧平均値のいずれか、あるいはどちらも当てはまる場合の基準です。
白衣高血圧と仮面高血圧の違いとは?
上述の通り高血圧症は、診察室血圧と家庭血圧で評価されることが一般的ですが、必要に応じてABPM(24時間自由行動下血圧測定)などの測定方法により評価されることもあります。また、測定方法と血圧値より4種類に分類されます。
診察室血圧が高く (140mmHgかつ/または90mmHg以上)で家庭血圧が低い 場合(135mmHg未満かつ拡張期血圧85mmHg未満)を「白衣高血圧 」といいます。
逆に、診察室血圧が低く (140mmHg未満かつ90mmHg未満)で家庭血圧が高い 場合(135mmHg以上かつ/または85mmHg以上)を「仮面高血圧 」といいます。
「白衣高血圧 」は、診察室血圧も家庭血圧も高い「持続性高血圧」と比較すると将来的な脳心血管病イベントのリスクが低いとされていますが、非高血圧(正常血圧、正常高値血圧、高値血圧)と比較するとリスクが高いため家庭血圧で評価し、必要に応じてABPM(24時間自由行動下血圧測定)で確認し、白衣効果を伴う高血圧なのかが評価されます。
「仮面高血圧 」は、心血管病イベントのリスクは「持続性高血圧」と同程度とされており、特にリスクが高い対象者 ※1 には、積極的な家庭血圧の測定やABPMを測定することが重要です。
※1 仮面高血圧の高リスク群
・降圧療法中のすべての高血圧患者
・高値血圧(130-139/80-89mmHg)
・喫煙者
・アルコール多飲者
・精神的ストレス(職場、家庭)が多い者
・身体活動度が高い者
・心拍数の多い者
・起立性血圧変動異常者(起立性高血圧、起立性低血圧)
・肥満・メタボリックシンドロームや糖尿病を有する患者
・臓器障害(特に左室肥大)や心血管疾患の合併例
家庭血圧はいつ何回測定するのが正解?
家庭血圧は、診察室血圧よりも信頼性・再現性が高く、脳心血管疾患などとの関連も強いことが示唆されています。家庭血圧を測定する際「何回測定すればよいのか」「いつ測定するのがよいのか」など疑問に思うことも多いですよね。高血圧診療ガイドライン2019で推奨されている家庭血圧測定方法を以下にまとめました。
▶装置
上腕カフ・オシロメトリック法 ※2 に基づく装置
※2 オシロメトリック法:動脈拍動に伴いカフ内に発生する微小圧振動を検出する方法
《カフを巻く際の注意事項》
・厚手のシャツ、上着の上からカフを巻かない
・厚地のシャツをたくし上げて上腕を圧迫しないようにする
・カフは緩くなく、きつくもなく、指が1~2本入る程度の余裕をもって巻く必要がある
▶測定条件
朝:起床後1時間以内、排尿後、朝の服薬前、朝食前、座位1~2分安静後
晩:就床前、座位1~2分安静後
▶測定回数
原則2回測定し、その平均値をとる
1回のみ測定した場合は、1回のみの血圧値を用いる
まとめ
高血圧症の診断基準は、世界や日本国内の大規模研究で得られた結果を根拠に定められています。家庭血圧を測定することでより正しい診断や治療につながります。
最近では、腕時計のように装着できるウェアラブルタイプのカフレス血圧計も種類が豊富になってきました。持ち運びしやすく、寝ている間も測定できるなどメリットも多いですが、医療機器として使用できるものは限られており、その精度に課題が残っています。
最終回では、食事療法と運動療法についてご紹介します。
参考文献
・日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf (閲覧日:2024年5月)
・田村俊世他 「カフレス血圧計の国際標準化動向と医療機器承認についてー戦略的国際標準化推進委員会報告」生体医工学、2021、59(2・3)76-79
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmbe/59/2-3/59_76/_pdf/-char/ja (閲覧日:2024年5月)
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