これまで2回にわたり肥満症の定義やメカニズム、さまざまな肥満症についてご紹介しました。最終回では、食事療法についてご紹介します。
減量は肥満症に合併する健康障害を予防・改善するための手段
肥満症は、「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される場合で、医学的に減量を必要とする疾患」です。
肥満に基づく健康障害を予防・改善することが治療の目的であり、減量はそのための手段の一つです。肥満症診療ガイドライン2016以降では、現体重の3%の減量目標が設定されています。高度肥満症の場合は、現体重の5~10%の減量目標が設定されています。
食事療法の摂取エネルギー量の設定
食事療法は、健康障害の原因となる内臓脂肪を減少し、健康障害を改善するための基本療法です。減量のためには、摂取エネルギーを制限することがもっとも有効で確立された方法です。目安となる摂取エネルギー量の設定は以下の通りです。
当初の指示エネルギーで減量が得られなかった場合は、さらに低い摂取エネルギー量を再設定します。また、十分な減量が得られない場合は、600kcal/日以下の超低エネルギー食(very low-calorie diet : VLCD)も検討します。
上記の計算式から得られる摂取エネルギー量が、実際の摂取エネルギー量と大きく乖離している場合は、「500~750kcal/日減らす」「30%減らす」など個々の肥満症患者に適した摂取エネルギー量を選択することも必要です。
フォーミュラ食とは?低エネルギー食(LCD)と超低エネルギー食(VLCD)
摂取エネルギー量を制限することが、肥満症の食事療法の基本となりますが、1000kcal/日未満の食事療法では、たんぱく質、ビタミン、ミネラルが不足しがちです。エネルギー制限を行った上で、筋肉量の減少を防ぐためには、必須アミノ酸を含むたんぱく質とビタミン、ミネラルを食事から補わなければいけません。
このような場合に多く用いられるのが「フォーミュラ食(約180kcal/袋)」です。
フォーミュラ食は、糖質と脂質が少なく、たんぱく質を1袋あたり約20g摂取でき、ビタミンやミネラルも含まれ、1食を置き換えるなどの低エネルギー食(low-calorie diet : LCD)を簡便に行う方法として有用とされています。
600kcal/日以下の超低エネルギー食(VLCD)では、フォーミュラ食を1日3~4袋利用すれば栄養学的にも問題ないとされており、1日約300g、1か月で5~10㎏の減量効果が期待できます。重度の睡眠時無呼吸症候群や肥満外科手術前など短期間の急速な減量が必要な際に適応になります。しかし、長期的な維持が難しく、リバウンドに注意しなければいけません。VLCD療法を中止する場合は、1袋ずつ減らし、低エネルギー食(LCD)に徐々に戻していきます。
人工甘味料は肥満症の食事療法に有用?
エネルギー制限を行う上で、嗜好品の制限は避けられません。患者の負担を減らすために砂糖を人工甘味料に置き換える方法を検討する機会も多いのではないでしょうか?
これに関して、2023年5月にWHO(世界保健機関)は、「体重のコントロールや非感染性疾患(NCDs)のリスク低減のために非糖質系甘味料(NSS)の使用を推奨しない」という内容のガイドラインを発表しました。非糖質系甘味料(NSS)とは、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン、スクラロース、ネオテームなどの人工甘味料を指し、エネルギーを抑えた砂糖代替甘味料として、食品や飲料にも多く使われています。
これは、さまざまな研究で減量効果が示された報告もあれば、逆に体重増加や腹囲の増大リスク、肥満、高血圧、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管イベントのリスクが上昇するといった報告も得られており、一様の結果ではないことが理由です。
“肥満症診療ガイドライン2022”でも「積極的な人工甘味料の使用は推奨しない」と記載されています。
甘い飲み物の一部を置き換えるなど、肥満症患者の嗜好や個別性を考慮した上で使用を検討しましょう。
まとめ
肥満症に合併する健康障害を予防・改善するためにも食事療法は有用です。食事療法では、リバウンドが起こらないよう長期に継続できる方法であることも大切です。特に高齢者肥満の場合は、サルコペニア・フレイル予防のためにも食事療法だけでなく運動療法との併用も検討しましょう。
参考文献
・WHO、「WHO advises not to use non-sugar sweeteners for weight control in newly released guideline」、NEWS 、https://www.who.int/news/item/15-05-2023-who-advises-not-to-use-non-sugar-sweeteners-for-weight-control-in-newly-released-guideline (閲覧日:2024年3月)
・肥満症診療ガイドライン2022、「第5章 肥満症の治療と管理」、http://www.jasso.or.jp/data/magazine/pdf/medicareguide2022_09.pdf
(閲覧日:2024年3月)
・藤城緑、「肥満症の食事療法とその管理」、日大医学雑誌、2019 年 78 巻 4 号 p. 223-229、https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/78/4/78_223/_pdf (閲覧日:2024年3月)
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