これまで2回にわたり、高血圧症についてご紹介しました。
最終回では、血圧管理のための食事療法についてご紹介します。
血圧管理のための生活習慣改善のポイント
特定保健指導第4期(令和6年4月~)での受診勧奨判定値を超えるレベルの対応について、〔140mmHg≦収縮期血圧<160mmHgまたは90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg〕では、
生活習慣改善に取り組んだ上で、数値が改善しないなら医療機関を受診することを勧めています。これは、「高血圧治療ガイドライン2019」で示されている考え方も同様です。
【血圧管理のための生活習慣改善のポイント】
1 減塩:減塩目標は1日6g未満
2 食事パターン:野菜・果物を積極的に摂取し、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控える。多価不飽和脂肪酸・低脂肪乳製品の積極的摂取を推奨する(DASH食)
3 節酒:純アルコール量を男性20~30mL/日以下、女性10mL/日以下に制限する
4 運動:軽強度の有酸素運動(動的および静的筋肉負荷運動)を毎日30分、または週180分以上行う
5 禁煙:受動喫煙も含む
そのほか、適正体重(BMI25未満)の維持や防寒、ストレス管理などを含めた生活習慣改善は、複合的に行うことが効果的です。
食事療法は減塩だけではない ナトカリ比にも注目
上述の生活習慣改善のポイント①減塩と②DASH食を組み合わせて行う「DASHーsodium食」は、高い降圧効果が得られることが分かっています。
これは、塩分摂取量を減らしてカリウム摂取量を増やす食事法です。わかりやすく評価する指標として、最近では「ナトカリ比」が用いられるようになっています。
▶ナトカリ比とは?
「ナトカリ比」とは、摂取したカリウムに対してナトリウムをどれくらいとっているかのバランスを数値化したものです。
食事に含まれるナトリウムとカリウムで算出する場合もありますが、医療分野では、尿中のナトリウム濃度とカリウム濃度を計算式に当てはめて「尿ナトカリ比」を算出します。
これまでの研究で、尿ナトカリ比が低いほど脳心血管リスクが低いことが示されています。
保健機能食品は降圧効果がある!?
最近は「高めの血圧を下げる」「血圧が高めの方に適する」などが表示された食品もよく見かけます。
これらの保健機能食品には、消費者庁が個別に許可をする「特定保健用食品(トクホ)」や、事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性を表示した「機能性表示食品」、食品表示基準に基づく自己認証による「栄養機能食品」があります。
▶特定保健用食品「血圧が高めの方に適する」など
対象:高値血圧~Ⅰ度高血圧
特定保健用食品は、高めの血圧の人を対象に臨床試験が行われ、比較的短い期間で少ない対象者で得られた結果をもとに作られています。関与成分は、サーディンペプチド、ラクトトリペプチド、カゼインドデカペプチド、イワシペプチド、わかめペプチド、γ‐アミノ酪酸(GABA)などがあります。
▶機能性表示食品「高めの血圧を下げる」など
事業者の責任で、安全性、機能性の根拠に関する情報などを消費者庁に届け出るものの、臨床試験などによる個別の許可を受けたものではありません。客観的な信頼性については課題があり、高血圧治療ガイドライン2019では、降圧を目的とした摂取を推奨していません。
▶栄養機能食品 「正常な血圧を保つのに必要な栄養素である」
すでに科学的根拠が確認された栄養成分を一定の基準量含んでいれば、栄養成分の機能を表示できます。血圧に関係する栄養成分としては「カリウム」があり、「カリウムは、正常な血圧を保つのに必要な栄養素です。」と記載できます。
注意喚起としては「本品は多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進したりするものではなく、1日の摂取目安量をまもること」「腎機能が低下している方は本品の摂取を避けること」が表示されています。
特定保健用食品や機能性表示食品は、降圧薬のような代替品にはならず、十分な降圧効果が期待できるとは言い切れません。生活習慣改善を行った上で補助的な摂取にとどめることが大切です。
まとめ
血圧管理のための食事療法では「減塩」が強調されますが、最近では「カリウム」をとる食事法を推奨し、「ナトカリ比」を下げる考え方も広まっています。
また、血圧管理には生活習慣改善が基本であり、Ⅱ度高血圧まではすぐに受診をするよりも、生活習慣改善に1カ月取り組んだ後に受診をすることが推奨されています。
参考文献
・日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf (閲覧日:2024年6月)
・消費者庁 栄養機能食品について
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_nutrient_function_claims/
(閲覧日:2024年6月)
・国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所、「健康食品」の安全性・有効性情報
https://hfnet.nibiohn.go.jp/specific-health-food/good-use5/ (閲覧日:2024年6月)
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