1回目のコラム「肥満症とは?肥満の定義とメカニズムを知る」では、肥満症についてご紹介しました。
今回のコラムでは、肥満症の中でも特徴を理解したい「高度肥満症」「小児肥満症」「高齢者肥満症」についてご紹介します。
高度肥満症の定義と関連する健康障害とは?
▶高度肥満症とは
BMI≧35の肥満を高度肥満と定義し、さらに肥満に起因ないし関連し減量を要する健康障害、または内臓脂肪蓄積を伴う場合を高度肥満症と診断されます。(参照:表1)
高度肥満では、心不全、呼吸不全、静脈血栓、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)、肥満低換気症候群(OHS)、運動器疾患も合併しやすく、健康障害が顕著に出ている場合が多くみられます。
▶高度肥満症で注意するべき6つの健康障害
①閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)、肥満低換気症候群(OHS)、呼吸不全
OSASの有病率は高く、慢性的になると、低酸素血症による多血症、高血圧、(冠攣縮性)狭心症、心不全、肺高血圧症の原因となり、さらにOHSとの合併により重篤な心不全を誘発する恐れがあります。
②心不全
原因として冠動脈疾患、高血圧、OSAS、心筋症などがあげられますが、特徴として、肥満心筋症が多くみられます。これは心筋組織内に脂肪が蓄積することにより、心筋の収縮力が落ちた病態と考えられています。
③肥満関連腎臓病
肥満に合併する糖尿病や高血圧などに関連する腎障害と、肥満が直接の原因となる腎障害(肥満関連腎臓病)に分けられます。高度肥満が将来の透析導入に関与する可能性も示唆されています。
④静脈血栓
腹腔内圧の上昇による静脈還流速度の低下、活動性の低下などが血栓形成を促進し発症します。発症1時間以内の突然死に至るケースが多く、予防対策が重要です。
⑤運動器疾患
変形性膝関節症は、膝関節や股関節への荷重に加え、加齢や筋力低下などが影響し、関節軟骨や骨に変形や炎症が起こり発症します。また、膝関節や股関節だけでなく、手指のような自重がかからない部位でも起こるケースがあり、炎症性サイトカインとの関連が示唆されています。
⑥皮膚疾患
偽性黒色表皮腫や摩擦疹がみられます。偽性黒色表皮腫は、頸部や脇の下、鼠径部、肛門周囲などに黒褐色色素沈着や角質増殖が生じる病態を示します。この原因は、摩擦のほか、耐糖能異常を伴う高インスリン血症の関与も示唆されています。
小児肥満症の定義と関連する健康障害とは?
▶小児肥満症の定義とは
小児肥満症の定義は、「肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併するか、その合併が予測される場合で、医学的に肥満を軽減する必要がある状態をいい、疾患単位として取り扱う」となっています。小児は成長において体重増加が必要であり、身長が伸びれば肥満度も低下することから、下線部の表現が成人肥満症の定義とは異なります。
▶小児肥満の判定法
成人の肥満判定には、BMI(体重kg÷身長m²)が用いられますが、小児肥満の判定には、学校保健安全法に基づき、肥満度(肥満度={(実測体重-標準体重)/標準体重}×100)が用いられます。判定基準については、表2を参照してください。
標準体重は、性別・年齢に応じて設定された身長を基に算出されます。これらを評価する方法として、成長曲線が多く用いられています。
▶小児肥満に伴う健康障害
1 高血圧
2 睡眠時無呼吸症候群などの換気障害
3 2型糖尿病・耐糖能障害
4 内臓脂肪型肥満
成人では、内臓脂肪面積が100m²以上が判定基準となっていますが、小児の場合は、60m²以上の場合に内臓脂肪型肥満と判定されます。
5 早期動脈硬化
肥満があり、上記の項目を1つ以上有すると、小児肥満症と診断されます。
その他、肥満と関連が深い代謝異常には、以下のような疾患があります。
1 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
2 高インスリン血症 かつ/または 黒色表皮症
3 高コレステロール血症 かつ/または 高non HDL-C血症
4 高トリグリセライド血症 かつ/または 低HDL-C血症
5 高尿酸血症
肥満度が+50%以上で上記疾患の内1つ以上を満たすか、肥満度+50%未満で上記疾患を2つ以上満たすと小児肥満症と診断されます。
高齢者の肥満症の定義と特徴とは?
▶高齢者の肥満症の定義とは
高齢者の肥満症の定義は、成人の肥満症の定義と同じです。(「肥満症とは?肥満の定義とメカニズムを知る」コラム参照)
しかし、身長が減少するため、実際のBMIが高値となる場合があります。また、低栄養、心不全、腎不全が合併し、浮腫を合併するためにBMIが体脂肪量を正確に反映しない場合があるので注意が必要です。
▶高齢者の肥満症の特徴
①心血管疾患や死亡との関連が弱い
高齢者では、BMIが高いと死亡リスクがむしろ減少するという肥満パラドックス(obesity paradox)が見られます。
②フレイル、ADL低下、転倒と関連する
高齢者の肥満症は、歩行などの移動能力低下や身体機能低下、疼痛、姿勢保持の障害、バランス能力の障害、および歩行時の揺れによる転倒などリスク要因になります。
③認知症発症と関連する
これまでの研究では、70歳以下の内臓脂肪型肥満は、認知症発症リスクをあげることが認められています。また、高齢者の肥満症における体重減少も認知症発症リスクをとなります。
④サルコペニア肥満が増える
サルコペニア肥満の診断基準はまだ確立されていませんが、サルコペニア(筋肉量の減少と筋力低下)と肥満が重なるとADL低下、フレイル、転倒、死亡を来しやすいとされています。
まとめ
「高度肥満」「小児肥満」「高齢者の肥満」は、特徴が違いますので、それぞれに合わせた介入が必要です。いよいよ最終回では、肥満症の食事療法についてご紹介します。
参考文献
・肥満症診療ガイドライン2022
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/2/107_262/_pdf/-char/en (閲覧日:2024年2月)
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