前回のコラムでは、私たちにとって最も身近な貧血が鉄欠乏性貧血であることをご紹介しました。鉄欠乏性貧血の予防や改善に欠かせないのが食事です。
今回は、鉄欠乏性貧血の食事療法についてご紹介します。
まずは貧血の症状をチェックしてみましょう
貧血の症状は、酸素不足によるものと鉄欠乏によるものとがあります。
<酸素不足による症状>
✅倦怠感を感じる
✅すぐ息切れを起こす
✅めまいや立ち眩みがよくある
✅耳鳴りがある
✅頭痛がある
✅足がむくむ
✅顔が青白い
✅眼瞼結膜蒼白(がんけんけつまくそうはく):あかんべえをしたときのまぶたの下側が白い
<鉄欠乏による症状>
✅爪が割れやすい、そり返っている
✅口角炎※や舌炎を起こしやすい
✅嚥下障害(ものが飲み込みにくい)
✅異食症(氷などを無性に食べたくなる)
※口角炎:口角(唇の端)に亀裂ができ、腫れたり、皮がむけたりする症状のこと
鉄欠乏性貧血の食事療法のポイント
鉄欠乏性貧血は、鉄欠乏によってヘモグロビン合成が低下して起こります。その主な原因となっているのが、月経や子宮筋腫、胃潰瘍などの消化管出血などの慢性的な出血です。その他、極端なダイエットや偏食も鉄欠乏性貧血の原因となります。
消化管出血などが原因の場合は、原因となる疾患に対する食事療法が基本となります。
偏食など栄養不良による鉄欠乏性貧血の場合は、以下のポイントを参考にします。
① 栄養バランスの整った食事をとる
炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルといった5大栄養素が整った食事が基本です。食物繊維をとることも大切です。
② 十分なエネルギーを補給する
極端なダイエットや偏食によって必要以上に体重が落ちている場合は、エネルギーが不足している証拠です。エネルギー源となるのは、炭水化物、たんぱく質、脂質です。特にたんぱく質は、造血に不可欠な栄養素ですので、十分補います。
③ 十分な鉄を補給する
日本人の食事摂取基準2020年版では、18歳以上の鉄の推奨量は、男性7.5㎎/日、女性6.5㎎/日(月経ありの場合、10.5~11㎎/日)です。
「推奨量」とは、摂取不足の回避を目的として設定された量ですので、激しい運動や月経などによる損失が多い場合は、それ以上の補給が必要です。
また、日ごろから鉄を多く含む食品をとることを心がけることも大切です。
<鉄を多く含む食品5選>
1. 赤身魚(マグロ、カツオ、サバ、サンマ、イワシなど)
きはだマグロ(生)2.0㎎/かつお(生)1.9㎎/まいわし(生)2.1㎎/
まさば(生)1.2㎎/さんま(皮付き)1.4㎎
2. 貝類(アサリ、牡蠣、はまぐりなど)
アサリ(生)3.8㎎/牡蠣(生)2.1mg/はまぐり(生)2.1㎎
3. レバー、牛赤身肉
豚レバー(生)13.0㎎/牛レバー(生)4.0㎎/鶏レバー(生)9.0㎎/
和牛ランプ(生)2.9mg
4. 大豆・大豆製品
木綿豆腐1.5㎎/絹ごし豆腐1.2㎎/糸引き納豆3.3㎎/黄大豆(ゆで)2.2㎎/
黒大豆(ゆで)2.6㎎/おから(生)1.3㎎/豆乳1.2㎎
5. 青菜(小松菜、ほうれん草、青梗菜、水菜など)
小松菜(生)2.8㎎/ほうれん草(生)2.0㎎/青梗菜(生)1.1㎎/水菜(生)2.1㎎
出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
※可食部100g当たり
鉄を効率よくとるコツ
★ビタミンCと一緒にとる
鉄には、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類あります。動物性食品に含まれるのが「ヘム鉄」、植物性食品に含まれる鉄は「非ヘム鉄」です。非ヘム鉄は、体内でビタミンCや酵素によって還元されて吸収されます。ビタミンCを多く含む新鮮な野菜や果物などと一緒にとることで吸収率が上がります。青菜は、鉄もビタミンCもとれる食品なので、積極的にとりたいですね。
★鉄製調理器具を使う
鉄を効率よくとるためには、鉄製の調理器具を活用することも対策の一つです。
鉄製調理器具からの鉄溶出量は、pHが低く、食塩の量が多い方が大きく、油の使用により溶出量が抑えられる傾向があります。また、加熱時間や放置時間が長い方が、溶出量が増加すると考えられています。
鉄製調理器具を使用して鉄を効率よくとるためには、pHの低い「お酢」、pHが比較的低く食塩を含む「味噌」や「しょうゆ」、「ケチャップ」などの調味料を使うとよいでしょう。
また、ビーフシチューのような煮込み料理やお味噌汁を、鉄鍋で作り置きしておくことも鉄を効率よくとる工夫の一つです。
まとめ
鉄欠乏性貧血の予防や改善に食事療法はとても重要です。苦手な食材が多く、鉄を十分にとれない場合は、鉄製の調理器具を使うことも一つの対策になります。また、鉄を十分とってもエネルギーが不足していたり、造血に欠かせないビタミンB群(ビタミンB₂、B₆、B₁₂、葉酸)が不足していたりすると症状が改善しないことがあります。
まずは食事バランスを整え、必要に応じてサプリメントの活用も検討しましょう。
参考文献
・中村 丁次:「栄養食事療法必携」第4版、医歯薬出版株式会社、(2022)
・萩原 將太郎:「やさしくわかる貧血の診かた」株式会社金芳堂、(2020)
・調理中に鉄なべから溶出する鉄量の変化
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/36/1/36_39/_pdf"https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/36/1/36_39/_pdf
・文部科学省:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
関連コラム
・貧血とは?3つの分類と鉄欠乏性貧血
・貧血とは?原因と検査数値について解説します