立ち眩みやめまいなど「貧血かな?」と思う症状がある人や自覚症状は全くないのに、健康診断で貧血と言われた人など、貧血はとても身近です。
今回は、知っているようで意外と知らない貧血について3回に分けて詳しくご紹介します。
貧血とは?
貧血は「赤血球あるいは赤血球に含まれるヘモグロビン(Hb)の量が減った状態」を言います。
赤血球は、血液中に含まれ酸素を全身に運ぶ役割をしています。
ヘモグロビンは赤血球を構成する成分の一つで、赤い色素のことです。ヘモグロビンは、酸素と結びついて、全身に酸素を運びます。
赤血球が減少したり、赤血球の色素であるヘモグロビンが減少したりすると、全身に十分な酸素を運ぶことができなくなり、息切れや動悸、めまいなどの貧血症状が現れます。
貧血の原因は?4つに分けて考える
貧血の原因は大きく4つに分けて考えることができます。
① 過剰な出血(出る)
・月経・出産・外傷・胃潰瘍や大腸がんなどによる消化管出血など
② 溶血(壊れる)
・赤血球やヘモグロビンの構造の異常により赤血球が通常より早く壊されてしまう自己免疫性溶血性貧血(AIHA;指定難病61)など
③ 造血不全(造れない)
・材料不足(鉄欠乏、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏など)
・造血ホルモンの不足(腎不全によるエリスロポエチン※1 低下、甲状腺機能低下、副腎皮質ホルモン低下)
・造血の抑制(キャッスルマン病;指定難病331、悪性リンパ腫など)
・骨髄機能異常(再生不良性貧血;指定難病60、急性白血病など)
④ 体液貯留(薄まる)
・心不全や妊娠により血液量が増加し赤血球濃度が希釈されて起こる
※1 エリスロポエチン:赤血球の産生を促すホルモンのこと
貧血の検査と数値
貧血かどうかの判断は、まずヘモグロビン値を参考にしますが、ヘマトクリット値(Ht)や赤血球数(RBC)、MCVなど複数の血清データから考えます。
◆ヘモグロビン値(Hb)
WHOでは、貧血と判断するヘモグロビン濃度を以下のように定めています。
男性(15歳以上)13g/dl未満
女性(15歳以上、妊娠していない)12g/dl未満
乳幼児、妊娠中の女性、高齢者 11g/dl未満
◆ヘマトクリット値(Ht)
血液に占める赤血球の割合を示します。
<基準値>
成人男性:40~50%
成人女性:35~45%
基準値より低値の場合、貧血が疑われます。
◆赤血球数(RBC)
<基準値>
男性:400~550万/μl
女性:350~500万/μl
基準値より低値の場合、貧血が疑われます。
◆MCV(mean corpuscular volume;平均赤血球容積)
赤血球1個あたりの大きさを示します。
<基準値>
80~100fL
計算式
MCV(fL;フェムリットル)=Ht(%)÷RBC(万/μl)×1000
貧血は、「小球性」「正球性」「大球性」の3つのタイプに分けられます。その分類にはMCVの値が使われます。
80fL未満:小球性
80~100fL:正球性
100fLより多い:大球性
この分類については、次回詳しく説明します。
◆MCH(mean corpuscular hemoglobin;平均赤血球ヘモグロビン量)
赤血球1個あたりのヘモグロビン量を表します。
<基準値>
30~35pg(ピコグラム)
基準値より低値の場合、貧血が疑われます。
計算式
MCH(pg)=Hb(g/dL)÷RBC(万/μl)×1000
◆MCHC(mean corpuscular hemoglobin concentration;平均赤血球ヘモグロビン濃度)
赤血球の単位体積あたりのヘモグロビン量(濃度)を表します。
<基準値>
30~35%
基準値より低値の場合、貧血が疑われます。
計算式
MCHC(%)=Hb(g/dL)÷Ht(%)×100
※基準値は、検査機関により若干異なります。実際には、各所属機関の数値を参考にしましょう。
まとめ
貧血は、赤血球やヘモグロビンが少なくなり身体が酸素不足になることから起こります。
今回は、貧血の基本的な考え方から原因、診断の際に使われる数値についてご紹介しました。
検査数値の基準値については、検査機関、医療機関によってばらつきがありますので、実際には、所属機関の数値を参考にしてください。
次回は、貧血の分類について詳しくご紹介します。
【参考文献】
・難病情報センターHP
https://www.nanbyou.or.jp/(閲覧日:2023年7月28日)
・日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf(閲覧日:2023年7月28日)
・日内会誌 成田美和子 貧血の分類と診断の進め方
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/7/104_1375/_pdf(閲覧日:2023年7月28日)
・厚生労働省 e-ヘルスネット ヘマトクリット値
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-075.html#:~:text=Ht%20%2F%20%E3%83%98%E3%83%9E%E3%83%88%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%88%E5%80%A4%20 (閲覧日:2023年7月28日)
・萩原 將太郎:「やさしくわかる 貧血の診かた」、株式会社金芳堂、(2020年)
関連コラム
・肥満症診療ガイドライン2022 改訂のポイント~前編~
・疾患別血液検査データの見方
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松岡 喜美子
循環器病予防療養指導士 かがわ糖尿病療養指導士,ベーシックインストラクター(JCCA)、貯筋運動指導者、歯科栄養アドバイザー2級
大学卒業後、糖尿病クリニックでの栄養指導に従事しながら健康運動指導士を取得。
2008年よりフリーとしての活動を開始。
特定保健指導の立ち上げからスタッフ育成などにも携わり、これまでの指導件数は1万件以上。
生活習慣病予防セミナーの講師や企業やスポーツクラブでの運動指導なども行っている。
その他、企業HPのコラム執筆なども担当し、健康情報の発信や商品マーケティングなども行っている。
「栄養不良の二重負荷」という問題に対して、世界に貢献できる管理栄養士を目指しています。
★2023年7月~ 訪問栄養指導をスタートしました。
プラダ―ウィリー症候群(PWS)の症例に関わられたご経験がある方、情報共有できたらうれしいです。
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