糖尿病の合併症を予防するためには、食事療法と運動療法が基本です。後編では、混乱しがちなたんぱく質摂取量の考え方から基本的な運動療法と薬物療法について、2本に渡りご紹介します。
たんぱく質摂取量の考え方
最近、糖質をたんぱく質に置き換える食事療法が広まっています。しかし現時点では、糖尿病患者におけるたんぱく質の摂取量と、その有用性や安全性を明確に示すエビデンスはありません。
たんぱく質摂取量は、総エネルギーの20%以下が妥当と考えられており、それ以上を超えた場合の安全性は確認されていません。さらに、置き換えるたんぱく質が、肉などの動物性であると糖尿病発症リスクや心血管疾患や脳卒中の発症リスクが増大し、大豆やナッツのような植物性であるとリスクが減少することが示唆されています。
エネルギー摂取量から栄養素別に考える場合は、炭水化物40~60%、たんぱく質20%以下、残りが脂質となります。脂質が25%を超える場合は、多価不飽和脂肪酸を増やすなど脂肪酸の構成に配慮すれば、一定の目安としてよいとされています。
<たんぱく質摂取量の算出方法>
たんぱく質摂取量(g)=1.3g※1/目標体重(kg)※2/日未満
<低たんぱく質食を実施する場合の算出方法>
たんぱく質摂取量(g)=0.6-0.8g/目標体重(kg)※2/日
末期腎不全への進展リスクが高いと考えられる症例※³には、低たんぱく質食が検討されます。高齢者、特にサルコペニア、フレイルやそのリスクがある場合や75歳以上の高齢者では、原則として0.8g/目標体重(kg)/日を下回らないようにします。
※1サルコペニア、フレイルやそのリスクがある場合は、1.5gまで許容できます。
※2目標体重は、前回コラム「エネルギー摂取量の考え方」を参照してください。
※3顕性アルブミン尿を有し、GFR<45mL /分/1.73m²かつ進行性に腎機能低下(-3~5ml/min/1,73m²/年以上)が見られる症例を示します。
糖尿病の運動療法
▶運動療法の8つの効果
1. 運動の急性効果として、ブドウ糖、脂肪酸の利用が促進され、血糖値が低下する
2. 運動の慢性効果として、インスリン抵抗性が改善する
3. エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、減量効果が期待できる
4. 加齢や運動不足による筋萎縮や骨粗しょう症の予防に有効である
5. 高血圧や脂質異常症の改善に有効である
6. 心肺機能が向上する
7. 運動能力が向上する
8. 爽快感、活動気分など日常生活のQOLを高める効果も期待できる
▶運動の種類とポイント
運動の種類は、ウォーキング、ジョギング、自転車、水泳のような「有酸素運動」と腹筋、スクワット、ダンベルのような「レジスタンス運動」に分けられます。
【有酸素運動のポイント】
・時間:週150分以上、1回20分以上持続した運動を行うことが望ましい。
・頻度:少なくとも運動しない日が2日以上続かないようにして、週3日以上行う。
・強度:中強度(3メッツ)からやや強い強度(4~6メッツ)が望ましい。運動導入時は、「楽である」と感じる強度から始め、対象者に合わせて徐々に負荷を上げることを検討する。
【レジスタンス運動のポイント】
・種目:上半身、下半身の筋肉を含んだ8~10種類のレジスタンス運動を行う。
・頻度:連続しない日程で週2~3日(2日以上間隔を空けない)行う。
・強度:10~15回繰り返すことのできる強度で、まずは1セット行うことから始め、徐々に8~12回を1~3セット行うことが目標となる。
2型糖尿病の場合「有酸素運動」と「レジスタンス運動」は、どちらか単独の運動で合併症予防のために重要な指標となるHbA1cの改善だけでなく、心血管疾患のリスクファクターとなる肥満やインスリン抵抗性、脂質異常症、高血圧症の改善にも有効です。特に、両方の運動を併用することでさらに効果が高まるとされています。
1型糖尿病の場合、長期的な運動による血糖コントロールの改善効果は十分示されていませんが、心血管疾患のリスクファクターを改善し、QOLの改善に有効です。
薬物療法については「糖尿病とは?合併症予防のための食事療法と運動療法~後編②~」でご紹介します。
参考文献
・山内敏正他 日本糖尿病学会会誌63巻3号 糖尿病患者の栄養食事指導
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/63/3/63_91/_pdf/-char/ja (閲覧日:2023年12月)
・糖尿病診療ガイドライン2019 食事療法
https://fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/gl/GL2019-03.pdf ( 閲覧日:2023年12月)
・糖尿病診療ガイドライン2019 運動療法
https://fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/gl/GL2019-04.pdf ( 閲覧日:2023年12月)
・日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023、文光堂、2022年
関連コラム
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・糖尿病とは? 原因についてわかりやすく解説します