前回、貧血の原因と関連する検査数値についてご紹介しました。
今回は、貧血の分類と鉄代謝からみる鉄欠乏貧血について分かりやすく解説します。
貧血の3つの分類
貧血は、赤血球1個当たりの大きさを示すMCV(平均赤血球容積)の数値により3つに分類されます。
◆小球性貧血
赤血球が通常よりも小さくなります。鉄欠乏による「鉄欠乏性貧血」、慢性疾患に伴う貧血や先天性の貧血でヘモグロビンの合成が低下し赤血球が壊れやすくなる「サラセミア」、先天性や鉛、アルコール中毒、ビタミンB6欠乏などによってヘム合成に異常が起こる「鉄芽球性貧血」などがあります。
◆正球性貧血
赤血球の大きさは正常です。出血や溶血で赤血球が失われたり、心不全や妊娠などで血液が薄まったり、腎不全などによる造血機能の異常、肝障害などにより起こります。
◆大球性貧血
赤血球の大きさが通常よりも大きくなります。アルコールの多飲や低栄養、胃切除後のビタミンB12の吸収障害によるビタミンB12欠乏や葉酸欠乏によるDNA合成障害、急性貧血による網赤血球(造られたばかりの赤血球)の増加などにより起こります。
鉄欠乏性貧血は最も多くみられる小球性貧血
私たちにとって最も身近な貧血が「小球性貧血」です。
その中でも「鉄欠乏性貧血」が最も頻繁に見られる貧血で、血清鉄や血清フェリチン※1低値、TIBC※2高値を伴います。
特に、血清フェリチン低値とTSAT※320%未満が見られる場合は、鉄欠乏が強く疑われます。
※1:血清フェリチン
フェリチンとは、体内の貯蔵鉄のこと。食物から吸収された鉄と古くなった赤血球が分解されて生じた鉄の一部は、貯蔵鉄(フェリチン)として肝臓や脾臓に蓄えられ、新たに赤血球が造られる際に使われます。そのため、血清フェリチンは、貯蔵鉄の量を反映します。
※2:TIBC(total iron binding capacity;総鉄結合能)
鉄の輸送タンパクであるトランスフェリンの総量を示します。
※3:TSAT(transferrin saturation;トランスフェリン飽和率)
<血清鉄÷TIBC(%)>で算出でき、鉄と結合したトランスフェリンの比率を示します。
食事などからとる鉄が不足すると、鉄を運搬するトランスフェリンは多くなり、トランスフェリンと鉄が結合した血清鉄は少なくなります。
その飽和度を示すTSATが、鉄欠乏性貧血では低値になるのも理解できますね。
スポーツ選手にも見られる溶血性貧血とは?
溶血性貧血は、赤血球の産生を上回る速度で赤血球が壊れるために起きる貧血を言います。MCVは、小球性、正球性、大球性いずれの場合にも当てはまります。
スポーツ選手に見られる溶血性貧血は、足底への繰り返す衝撃が原因で赤血球破砕が亢進して起こると考えられています。稀に、ヘモグロビンが尿中に排泄され、肉眼的血尿が見られることもあり、行軍後の兵士によく認められたことから「行軍ヘモグロビン尿症候群」といわれています。
軽度の溶血の場合、溶血が起こっても鉄は体内を循環し肝臓で再利用されるため、臨床上問題ないとされることが多いようです。
溶血性貧血は、網赤血球の増加、ビリルビン値高値、LDH(Lactate dehydrogenase)高値、ハプトグロビン低値が見られます。
まとめ
「貧血」はとても身近なものですが、実際詳しく知るとさまざまな貧血があります。
私たちがまず知っておきたいのが小球性貧血に分類される「鉄欠乏性貧血」です。鉄欠乏性貧血の場合、鉄欠乏が起こっている理由を知ることが大切です。
次回は、食事療法を含めた対応策についてご紹介します。
参考文献
・西岡里香ほか 尿細管への鉄沈着を認めた剣道行軍ヘモグロビン尿症候群の1例 日内会誌106:1191-1198、2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/6/106_1191/_pdf ( 閲覧日:2023年8月27日)
・萩原 將太郎:「やさしくわかる 貧血の診かた」、株式会社金芳堂、(2020年)
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