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肥満症診療ガイドラインが6年ぶりに改訂されました。本コラムでは前編・後編に分けて改訂点とそのポイントについて解説します。

肥満症ガイドライン2022改訂のポイント

肥満症診療ガイドラインは2006年に発表後、2016年に改訂され、肥満症の診療を取り巻くさまざまな進歩を踏まえ2022年に再び改訂されました。肥満の治療対象をBMIだけで定義するのではなく、健康障害の合併や内臓脂肪蓄積に基づいて適切に治療が必要な「肥満症」を抽出することが求められています。
2022年版では、「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」を冒頭に明言しています。そして、「高度肥満症」「小児の肥満」「高齢者の肥満」「肥満症の治療薬」の章が新設され、最新の知見に基づいて内容の充実が図られました。本稿では一つずつ解説していきます。

肥満症に対する正しい認知の拡大を目指す

第1章では肥満症治療の目標と学会が目指すものが記され、「肥満へのスティグマ」について触れられています。スティグマとは、個人や集団に対する間違った認識や差別、偏見のことを指します。肥満は個人の自己管理能力の欠如と偏見されることが多く、遺伝や体質によるものと、環境によるものの両方があり、生育や発達での要因、社会的な要因も影響しているので、個人の努力だけでは対応できなくなる恐れもあります。しかし、そのスティグマの影響で適切な治療の機会や治療の継続が困難になることが危惧されています。社会的観点からのアプローチと広い領域、職種の連携が重要とガイドラインでは記されています。

肥満症とは

肥満症とは、「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併症が予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態」と定義されています。治療の目的は体重を大きく減量することではなく、減量によって健康障害を予防・改善することと記されています。特に内臓脂肪を減少させることは複数の健康障害の改善に有効とされています。減量目標は3~6カ月で現体重の3%と設定されていますが、減量は肥満症治療の目的ではなく手段であるため、極端な制限でどんどん減量させることがないよう食事療法等の指導にも配慮が必要です。

高度肥満症の治療

高度肥満症とは、「BMI35以上で肥満に起因ないし関連し減量を要する健康障害、または内臓脂肪蓄積を伴う場合」を指しています。高度肥満症は健康障害が顕著なことに加え、食事療法、運動療法、行動療法に抵抗性があり、薬物療法や外科手術も選択肢として考慮する必要があるとされています。心身両面に関与する難治性の疾患で「リバウンドする病気」との認識をもって多職種で一体となって十分な尊厳と敬意をもって治療を行う必要があると記されています。
治療目標として、初期は3~6カ月を目安に5~10%の減量に設定し、食事、運動、行動療法を開始。食事療法では20~25kcal/kg×目標体重/日以下の低エネルギー食(LCD)から開始し、目標が達成できない場合は600kcal/日以下の超低エネルギー食(VLCD)を検討するとされています。

後編のコラムでは、高齢者の肥満、小児の肥満、肥満症の治療薬について触れていきます。

参考文献
・日本肥満学会:「肥満症診療ガイドライン2022」、ライフサイエンス出版、(2022)

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      356日前

      6年ぶりに改訂された肥満症診療ガイドラインについて、改訂点とそのポイントを管理栄養士の沼倉真宝子さんに解説していただきます。

      拍手 1

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WRITER

肥満症診療ガイドライン2022 改訂のポイント~前編~

沼倉 真宝子

1日3回、1年で1000回 ​栄養を摂るためだけの食事ではなく、 日常に密着した食生活を一緒に考える。 気軽に相談できる場を創りたい。 個々に合ったライフステージごとの食事を提案します。 病院管理栄養士として14年勤務。総合病院、療養型病院、リハビリ病院、産婦人科病院を経験し様々なライフステージや臨床栄養を習得。栄養管理、給食管理、NST、在宅訪問栄養指導など幅広い業務経験あり。延べ3000人以上の栄養指導を実施。また、離乳食教室を8年主宰し、3500人以上の離乳食相談の経験を積む。指導媒体の作成や、セミナー講師も経験豊富。 プライベートでは、小学生の姉妹を育てるママ。自身の手術、癌で家族を亡くしたこともあり、「育児・闘病・自宅で家族を看る」当事者として同じ目線で、頑張り過ぎない方法を一緒に考えられるのではないか…。そんな経験から、疾病・介護予防や日常の食生活を共に考えられる仕事がしたいと思い2021年夏 独立。 フリーランスとして食育、栄養相談、在宅訪問、料理教室、SNS発信、地域活動など身近な栄養士として活動しています。 気軽に相談ができる場を創り、充実した食生活を送るお手伝いをします。 肩の力を抜きながら、無理なく続けられる食事。一緒に考えてみませんか?

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