肥満症診療ガイドライン2022年版の改訂ポイントについて解説するコラムの後編です。
前編はこちらをご覧ください。
後半はガイドラインで新設された小児の肥満、高齢者の肥満、そして治療薬の章を解説していきます。
小児の肥満と肥満症
小児の肥満は成人のようにBMIではなく、肥満度を用いて判定します。また、小児は成長過程にあることが最大の特徴であるため、成長曲線を用いて経時的変化を確認することが求められます。小児の肥満症診断基準には、肥満に起因する不登校やいじめなどの生活面への配慮も記載されています。
そして「小児肥満の治療原則は、正常な発育を妨げず、肥満に起因した健康障害の程度や数を改善すること」とされています。食事療法では成長期であることを配慮し、強いエネルギー制限は行わず、食事の時間や食行動に関する部分の指導を行います。行動療法では本人や保護者に治療経過が数値で見えるようにし、改善の兆しがあればタイミングよく褒めることも効果的と記されています。
高齢者の肥満と肥満症
高齢者の肥満症は、移動能力低下やADL低下のリスクとなります。尿失禁や変形性関節症、サルコペニアとも関連して、QOLを著しく低下させる可能性があります。特にサルコペニア肥満は単なる肥満と比べてフレイルや転倒、死亡を来しやすいといわれています。高齢者では低栄養や心不全、腎不全が合併し、浮腫がある場合はBMIが体脂肪量を正確に反映しない場合があるので、既往や身体の状態を確認することが大切です。その上で減量治療が必要な高齢者を適切に選びだすことが求められています。また、フレイル予防および健康障害発症予防の両者に配慮して、目標BMIは22~25の範囲とすることが記載されており成人期と異なることも特徴の一つです。
肥満症の治療薬
体重減少のためには生活習慣改善が必要ですが、個人の努力だけでは減量目標を達成することが困難な患者も存在し、それにより健康障害や疾病を引き起こしています。薬物療法は安全に減量を加速させ、健康障害の改善とたくさんの薬剤の併用を抑制することが狙いとされています。
近年、肥満症の治療薬は、さまざまなコンセプトで開発されていますが、臨床開発を円滑に進め、有効な薬剤をいち早く患者に届けるために、ガイドラインでは適応基準や評価基準を提案しています。
肥満・肥満症の予防と介入
肥満・肥満症の発症や生活習慣病予防のためには、早期にスクリーニングを行い該当者に効果的な介入が必要です。肥満症の指導は、対面による個別指導単体と比較して、オンラインサポートやスマートフォン上のアプリケーションを使用したセルフモニタリングを追加した介入の方が、より減量効果が高いとする報告が多いとされています。対象者のライフステージや生活環境を把握し、より効果的な治療や指導を実施することが生活習慣病や健康障害の予防のために重要です。
肥満が従来、国際的にも脂肪蓄積の代替指標であるBMIのみで定義されてきたなかで、「肥満症」の概念を確立したことは極めて先駆的です。健康支援において、切っても切れない関係の肥満・肥満症について理解を深め、管理栄養士としての役割を果たすことが求められています。
参考文献
・日本肥満学会:「肥満症診療ガイドライン2022」、ライフサイエンス出版、(2022)
関連コラム
・肥満症診療ガイドライン2022 改訂のポイント~前編~
・改訂ポイントを解説!食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022~前編~