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メキシコの首都メキシコシティは、アステカ神話のHutzilopochtli(ウィツィロポチトリ)神の神託により、アステカの民が200年かけて探し当てた「サボテンの上で蛇を食らう鷲がいる土地」であるという伝説があります。今回ご紹介するNopal(ノパル・ウチワサボテン)は、鷲の止まり木としてメキシコ国旗の中央に描かれています。

メキシコはサボテンの主要生産国

メキシコにサボテンのイメージを重ねる方は多いのではないでしょうか。そのイメージ通り、メキシコは年間降雨量が少なく温暖で乾燥した土地なので、サボテンの生育に適していて、1400種類ほどあるサボテン科のうち670種類が生息しています。食用としても一般的なノパルは、日常的に食卓に上がる野菜です。ノパルの太いトゲは販売時にはきれいにそぎ落とされ、ツルンとしています。食感は茎わかめに似て少し粘り気があり、少し酸味があるので肉やチーズ料理など、脂の多い素材と相性が良いように思います。慣れるととてもおいしいです。

週一回開かれるTianguis(青空市場)では、トゲを綺麗に取ったノパルが袋詰めで売られています。左下のノパルは、すぐ調理できるよう棒状にカットされています。

健康食としてのノパル

ノパルは古くから民間療法的に胃腸薬、便秘薬、利尿促進剤、寄生虫駆除剤として用いられてきました。近年多くの研究から、脂質代謝異常や食後高血糖を改善し、糖尿病の予防に効果が高いことが証明されています。メキシコの人々にも健康増進に効果が高い野菜として認識されており、味の面からサラダ、肉料理の付け合わせ、ソテー、ソースやスープ、タコスの具などに使われ、メキシコ料理に欠かせない素材です。

ノパルのサラダはとても一般的なメキシコ料理です。人参、玉ねぎ、パクチー、とうもろこし、乾燥唐辛子など様々な野菜と組み合わせされます。
肉を紙などで包み込んで蒸し煮にする料理、Mixote(ミショーテ)を販売する屋台。
トルティーヤに包んで提供され、胡瓜や玉ねぎ、ノパルなど右下に移っている野菜類は好みで自由に取って食べることができます。

地球環境保護、サステイナブル な素材としての利用

近年、動物愛護の観点から毛皮や革製品の利用を避ける人々が増えています。代用される合成皮革はプラスチック成分を含み、微生物による生体分解がされないことが問題になっていました。そんな中ノパルの線維を主成分とする革製品は、耐性・弾力性・通気性がある上、有害成分を含まないので、合成皮革の代用として財布や車の座席シートなどに商品化されています。
また、ノパルに含まれる粘液はコンクリートに混ぜることで従来よりも機械的強度が高まり、この硬化力によりセメントの使用量を減らし、温室効果ガスの排出量を削減できるそうです。今後、環境に配慮したグリーンコンクリートへの需要はますます増えそうですね。

美容・健康維持のための材料としての利用

ノパルの粘り成分は、保湿や余分な油脂を減らす目的で、多くのクリームやシャンプー、日焼け止めの材料として利用されています。また、ビタミンACEを豊富に含むので、抗酸化作用も期待できます。
ノパルの上に冠のようになるノパルの実はTuna(トゥナ)と呼ばれ、こちらも果物として食べられます。みずみずしくりんごのような爽やかな味ですが、かなり固い種が入っているので、そのまま食べるほか、ミキサーにかけて種を取り除きジュースにすることも多いようです。トゥナも脂質異常症の改善やダイエットに効果が高い果物として、人々に認識されています。ノパルは一年中市場で見かけますが、トゥナは著者が生活するメキシコシティでは9月頃に出回るようです。

街で見かけたノパルの木。
葉のてっぺんを覆うように花が咲き、実(トゥナ)がなります。

メキシコで生活していて感じること

2023年1月から7回に分けてメキシコの食材や食文化の紹介をさせていただきました。
2014年からメキシコで生活をスタートし、メキシコ在住10年になりました。このコラムの執筆に際し色々なことを調べていくうち、普段何気なく見て知っているような気になっていた食材にも、まだまだ知らないことが山ほどあるということを改めて知る機会になりました。メキシコは広大で、さまざまな意味でとても豊かな国です。今回ご紹介したサボテンのほか、昆虫食や薬草など、今後私たちの食にも大きく関わる可能性のある要素を沢山含んでいるように感じます。
このコラムが、少しでもメキシコに興味を持っていただくきっかけになれば幸いです。ありがとうございました。

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      282日前

      宮内千奈美さんにご紹介いただくメキシコの食材シリーズ、最終回となる今回は「サボテン」をご紹介いただきます。日本では食べる機会がほとんどないかと思いますので、貴重なお話です!

      拍手 0

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WRITER

Nopal(うちわサボテン)とTuna(うちわサボテンの実)の紹介

宮内 千奈美

2004年-2006年まで中米ホンジュラスで栄養士隊員として活動し、日本では主に病院を中心に臨床栄養に携わってきました。 現在はメキシコシティの恵光日本文化館(恵光寺)に勤務しながら、心も身体も健やかに保てるような食と栄養に関わる情報発信を継続しています。

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