7回にわたりお届けしてきた「メキシコ食材コラム」に引き続き、メキシコにおける「日本食」にテーマを代えて継続していくことになりました。
パンデミックを機に世界中の人々の健康意識の高まりを見せる中、筆者が生活しているメキシコシティで日本食…中でも「Sushi」と「Ramen」のお店は年々数が増え、人気もレベルも上がり続けています。
日本の寿司とメキシコのSushi
Sushiは、日本と同じように「にぎり」「手巻き」「太巻き」に分かれています。その中で「太巻き」だけが「Rollo de sushi(ロジョ デ スシ)」と呼ばれ、飛びぬけて独自の進化を続けています。
酸味を好まず、魚介類を生食する習慣のないメキシコ人の嗜好に合わせ、酢飯ではない白飯に調理済の魚介類や肉類、マンゴーやバナナなどのフルーツ、アボカドやクリームチーズ、えびや野菜のかき揚げなど脂質と甘みたっぷりの具材が巻かれ、唐辛子入りのマヨネーズやナッツなどが添えられると一気にメキシカンな雰囲気に仕上がります。
最近はチェーン店やバイキングのレストランも増えているので、以前のような高級なイメージは少しずつ緩和され、学生が気軽にランチで食べられるファストフードのイメージも定着しつつあるようです。
日本では主食でもメキシコでは副菜やデザートの材料
白飯にマンゴーやバナナ、ジャムなど甘みのある素材を組み合わせたロール寿司に抵抗を感じる日本人は少なくないと思うのですが、なぜメキシコ人には抵抗がないのか……個人的にはメキシコ人の主食が「米」ではないからだと考えます。
メキシコ料理の主食は小麦粉やトウモロコシの粉を練って丸めて薄く延ばし、鉄板で焼いた薄いパンのような「Tortilla(トルティージャ)」で「米」はトマトなどの野菜と共に炒めて味付けした「副菜」として提供されます。
メキシコ人に聞くと、メキシコ人がトルティーヤにジャムを塗ることと日本人がご飯にジャムをかける感覚は、少し似ているようです。
新しい味の開拓には、固定観念を捨てることが必要なのかもしれません。
日本語がそのまま使われる食材や料理名
メキシコシティでは、年々ローマ字表記の日本語が増えています。ロール寿司の名称も「SUMO」「SAMURAI」「NINNJA」などさまざまで、材料名にある「TANUKI」は揚げ玉を指します。これには、なるほど!面白いなと思いました。
「Izakaya」もその一つで、最近は日本食の小皿料理とアルコール類を提供する店と認識され「Izakaya sushi」と称するチェーン店も見かけるようになりました。2019年頃からはコンビニで「Oishi
Onigiri」も販売され、韓国食材店やレストランでは「キンパ」もよく見かけます。白飯と海苔に共通点のあるこれらがメキシコ人にはどう見えているのか聞いてみたところ、全て「Sushi」の仲間と思っている方が多いようです。
進化を続ける「すし」
歴史を辿ると「すし」は東南アジアの山間部で塩漬けの川魚を穀類で漬け込み自然発酵させた保存食の熟れずし(なれずし)が起源で、日本へは奈良時代(710~794年)に中国から伝わりました。
そして、江戸時代後期になると数年~数カ月の熟成期間に乳酸発酵によって生じる酸味(乳酸菌)と旨みを、白飯に米酢(酢酸菌)を混ぜて再現した酢飯に、江戸前の生魚を乗せて握ったインスタント寿司が「江戸前寿司」がとして広まりました。
「すし」のはしりは屋台で素早く食べられるファストフードと知ると、ビジュアルや味に違いはあっても日本とメキシコの「Sushi」には共通点が多そうです。
進化を続ける「すし」から目が離せません。
参考文献
・小泉武夫著:「発酵」、中公新書
関連コラム
・Nopal(うちわサボテン)とTuna(うちわサボテンの実)の紹介
・メキシコの食材紹介~唐辛子~ 前編