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1944年にイギリスで発祥した菜食主義「Vegan(ヴィーガン)」※1 や「Vegetarian(ベジタリアン)」※2 人口を表す一つの指標とされている「Vega-nuary(ヴィーガニュアリー)」※3
では、毎年1月からひと月ヴィーガン食への切り替えを呼びかけ参加者を募っています。
初年度3300人だった参加者は、年々メキシコを含む多くの国々を巻き込み、発足10年目の2024年1月には2500万人に達しているそうです。

※1 ヴィーガン…動物性の食品や製品を全て避ける生活
※2 ベジタリアン…動物性食品の一部は摂るが、菜食中心の食生活
※3 ヴィーガニュアリー…veganとJanuaryを掛け合わせた造語・2014年にイギリスのNPOが立ち上げたサイト


メキシコの肉食の歴史

ヒスパニック以前のメキシコの主なたんぱく源は、狩猟で得た昆虫や魚、野生の野ウサギ、鹿、ウズラで、家畜化した鶏、七面鳥、犬などの動物は特別なお祭りでのみ消費されていました。牛・馬・羊・豚などの家畜はスペインの植民地であった1521年以降300年間にメキシコに持ち込まれて労働力や食用として人々の生活に浸透し、今ではメキシコ料理に欠かせない食材の一つになっています。

日本の肉食の歴史

675年に天武天皇が発布した肉食禁止令に象徴されるように、日本には古くから肉食を排除してきた歴史があります。稲作の障害になるという観念から肉食を抑制することで豊作を願う殺生禁断令と考える説もあり、私たち日本人の祖先は潜在的に肉食を避ける意識が強かったことがうかがえます。
そして平安末期頃、中国で禅宗を学んだ僧侶たちにより「肉食禁忌」の戒律が厳しい精進料理が伝えられ、修行中の僧侶から素食を好む武士や一般市民の食生活にも浸透していきました。旨味を補うだし汁や醤油、味噌などの発酵調味料、豆腐などの大豆加工食品を駆使して日本独自の発展を遂げ、懐石料理の源流となったといわれています。

世界の動向

2019年1月にLancet(ランセット)※4 が発表した「Planetary healthydiet」では、地球と人、双方の健康を永続的に守るため、動物由来の食品摂取の割合を減らし、穀物・豆類・野菜、果物などの植物由来の食品からエネルギー量を摂取することを奨めています。そして、同じタイミングで改定されたカナダの食事バランスガイドでも、大幅に動物由来の食品の割合を減らし、植物由来の豆類やミルクからたんぱく質を摂取することを推奨しています。
一方で地球環境保護、動物愛護の目的とは別に、日本と比較して超肥満者の割合が高いメキシコでは、肥満の原因となりやすい動物性食品由来の飽和脂肪酸の摂取量を減らす目的で、ヴィーガンやベジタリアンの食事に切り替える人も多いようです。

※4 ランセット…週刊で刊行される査読制の医学雑誌

「Planetary healthy diet」
肉類や乳製品などの動物性由来の食品の割合が大幅に減り、穀類・豆類・種実類・野菜、果物など植物由来の食品からエネルギーやたんぱく質を確保する指針が示されている。

メキシコのヴィーガン

前述のVega-nuary(ヴィーガニュアリー) の2023年12月の発表によると、メキシコには中南米で最も多い2469件のヴィーガン・ベジタリアンレストランがあるそうです。(個人的には玉石混合と感じますが)
また、スーパーでも植物性ミルクのための大きなスペースが確保され、スクランブルエッグの代用に使われることが多い豆腐は、メキシコではQueso de soya(大豆のチーズ)と呼ばれチーズコーナーに並べられています。
しかし、ヴィーガン・ベジタリアン産業に参画する企業が増えると同時に肉や魚、卵などの味に近づけるために植物性食材に多種類の添加物や着色料を駆使した「超加工食品」も増え、植物性由来の食品は全て健康的、と盲目的に選ぶことはできない状況でもあります。

メキシコで豆腐はQueso de soya(大豆のチーズ)と呼ばれ、一般食品スーパーではチーズコーナーで販売されています。
乳製品が並ぶ商品棚に、植物性ミルクやヨーグルトも陳列されています。
写真の中央に並んでいるのはカシューナッツのヨーグルト。倍以上の価格の上、試食してみましたが…かなり違和感のある味でした。

健康食としてのヴィーガン

そんな中、ブームに先駆けて2011年メキシコシティにオープンしたヴィーガンレストラン「Los loosers」では、メキシコのOaxaca(オアハカ)地方で採取したきのこを、にんにくや生姜などを加えて発酵させ独自に開発した「Carne de hongo(きのこの肉)」中心のメニューを展開しています。肉類とチーズの組み合わせが当たり前のメキシコタコスにもきのこの肉が駆使され、ヴィーガンではない人々も好んで訪れる人気のレストランです。オーナーシェフのMariana Blanco(マリアナ・ブランコ)さんが少し前から注目しているのは日本の発酵食品。中でも納豆には大きな可能性を感じているそうです。
精進料理にも用いられる大豆加工食品、麹菌による発酵食品中心の和食材は、今後も健康的な食生活を目指す人々の注目が集まりそうです。

沢山の植物に囲まれたレストランLos loosers(ロス ルーセルス)。
食事中、頻繁に小鳥やりすなどの小動物と遭遇します。
Yakitori de hongo(きのこの焼き鳥)
見た目も味も、本物の焼き鳥のようでした。

参考文献
・原田信男:「和食とはなにか 旨みの文化をさぐる」、 株式会社KADOKAWA 平成26年6月15日発行
・メキシコプレヒスパニック系の人々の食事と栄養
La alimentación y nutrición en el México prehispánico - INVDES
・VEGANUARY Campaign reports Veganuary's Campaign Reports | About Us | Veganuary
・Planetary Health More than a diet - The Lancet Planetary Health
・Canada‘s food guide Canada's Food Guide
・ラテンアメリカ各国のヴィーガンレストラン数ランキング
Ranking 2023 Veganuary y HappyCow 2023 LATAM
・ヴィーガン、ベジタリアン用の超加工食品は、見た目通り健康的?
BBC Radio 4 - Radio 4 in Four - Ultra-processed vegan and vegetarian foods: are they as healthy as they look?





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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      18日前

      メキシコのヴィーガンに多用される和食材について管理栄養士の宮内千奈美さんにご紹介していただきました。

      拍手 0

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WRITER

メキシコのヴィーガンに多用される和食材

宮内 千奈美

2004年-2006年まで中米ホンジュラスで栄養士隊員として活動し、日本では主に病院を中心に臨床栄養に携わってきました。 現在はメキシコシティの恵光日本文化館(恵光寺)に勤務しながら、心も身体も健やかに保てるような食と栄養に関わる情報発信を継続しています。

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