メキシコの昼食時間(14:00~16:00)に提供される外食は、大きく分けて日本の立ち食いラーメンやそばに該当する「屋台料理(タコスやケサディージャなど)」と日本の定食のような「Comida
corrida(コミダコリダ)」に分けられ、どちらにもQuelites(ケリーテス)と呼ばれる香草が各所に用いられます。ケリーテスはメキシコ料理に味の奥行きを与えます。
ケリーテスとは?
ケリーテスとは、以前の記事 でご紹介したMilpa(ミルパ)の周囲で自生する、いわゆる雑草の中から選別された500種類を超える食用植物(柔らかい花や葉、ハーブ)の総称で、ヒスパニック以前から利用されているメキシコ料理には欠かせない食材の一つです。ケリーテスは一般的に鉄、食物繊維、オメガ3、抗酸化物質、ビタミンC・D、カリウムなど人々の健康増進・維持を助ける栄養成分や薬効を含みます。そして独特の香りや味を生かして料理に風味をつけたり、薬味や野菜として調理されたり、さまざまに活用されています。ほんの一部ですが、日本でも馴染みのある野菜も多いので順番にご紹介します。
メキシコで主に使われているQelites
ケリーテスの活用:生の食材として
Pápalo(パッパロ)は、ナワトル語で蝶を意味する「パパロトル」が語源となるケリーテスのひとつで、タコス屋のカウンターの端に花瓶のような容器に刺して置いてあります。客がタコスを食べながら自由に取って食べている光景は、メキシコに来たばかりの頃にとても関心を引かれました。パッパロには独特の苦みと強い香りがあるので最近の若者には好まれないそうですが、抗酸化成分を始めとする多くの優れた栄養成分を含んでいることから、肉やチーズが具のメインであるタコスと組み合わせる伝統的な意味があるのだと想像します。
屋台のタコス屋で見かけるPápalo(パッパロ)
客は自由に取って食べることができます。
ケリーテスの活用:香草として
アボガドのメキシコ料理は「ワカモレ」が有名ですが、メキシコではアボガドの葉、Hoja de
aguacate(オハ・デ・アグアカテ)は煮だしてお茶にして飲むほど健康効果が高く、料理では、主にMixote(ミショーテ)の香りづけとして用いられます。またEpazote(エパソテ:アタリソウ)は独特の強い香りを持ち、Frijoles
negro(フリーホーレス・ネグロ:黒いいんげん豆)を煮る際に欠かせない香草です。ナワトル語の「Epatli
エパートリ」が語源となっていることから、古くから香りづけだけでなく、豆を食べた時の腹部膨満感を緩和する薬効と併せて活用されてきたといわれています。著者もエパソテの香りがしないフリーホーレスは物足りなく感じるほど、インパクトのある香りがします。
Hoja de aguacate(オハ・デ・アグアカテ:アボガドの葉)
Mixote(ミショーテ)鶏肉、豚肉、羊肉をソースと共にオイルペーパーに包んで蒸した料理。
ケリーテスの活用:食材として
メキシコではズッキーニの実と共に花も、花の鮮やかな黄色が完全に消えるほど炒めて主にQuesadilla(ケサディージャ)の具として活用されています。チーズととても相性がよく、クセになる食感があります。
日本では雑草扱いのスベルリナも、メキシコではVerdolaga(ベルドラガ)と呼ばれ、サラダの具材や緑のソースと煮込んだ付け合わせとしてメイン料理に登場します。若干の酸味とぬめりがメキシコ料理と好相性です。
Flor de calabaza(フロール・デ・カラバサ:ズッキーニの花)
Queso oxaca(ケソ・オアハカ:オアハカ地方のチーズ)と組み合わせてQuesadilla(ケサディージャ)具に使われているのをよく見かけます。
首都圏の食事情と共に…
しかし、これだけ多彩なケリーテスも、時代の流れと共に使われる種類は徐々に減っているそうです。最初の写真でご紹介した中でも、著者が生活しているメキシコシティではほぼ見かけないものが半分以上あります。日本同様、国の発展と共に食にも時短が求められ、手間暇のかかる伝統的なメキシコ料理を作る家庭が減り、若者を中心に伝統的なメキシコ料理離れの傾向があるように感じます。少し残念な気もしますが、時代の流れに逆らうのは難しいのかもしれません。ただ、首都圏から少し離れた地方の町ではまだまだ残っているようなので、機会を見つけて食体験を重ねていきたいと思います。
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・メキシコの食材紹介~唐辛子~ 前編
・メキシコの食材紹介~唐辛子~ 後編