COLUMN

メキシコ政府の肥満予防・改善対策の連載第2回目です。

メキシコ政府の肥満対策

第1回目の記事の通り、メキシコでは子どもや若年層の肥満が大きな社会問題になっています。そこでメキシコ政府は、「国民の肥満率」と「肥満によって引き起こされる可能性のある疾患の発症率」の低減を目的に2019年10月保険一般法の改正を行い、一年後の2020年に施行されました。

「警告表示マーク」提示の義務付け

具体的には、「超加工食品」(ジュース・加糖乳飲料・菓子・加糖シリアル・エナジーバーなど)の国内およびメキシコへ商品を輸出している海外企業に対し、以下のような義務を課しました。

① 保健省が慢性的な疾患を引き起こす要因と判断した「カロリー・糖分・飽和脂肪酸・トランス脂肪酸・ナトリウム」の5種類の指定栄養成分のうち、基準値を超える栄養成分は、消費者にはっきり分かるよう商品の表面に警告表示マークを明記する。
甘味料・カフェイン」を含む商品は、子どもには推奨できない商品であることを明記する。
② 1つでも警告表示マークがついている商品は、子どもが好むキャラクターや有名人(俳優やスポーツ選手など)の写真やイラストの採用・おまけは禁止する。

加えて「上限値を超えているのに警告表示を明記していない」などの不正が発覚した場合、莫大な罰金を課すことも定められています。

本コラムのトップ画像が警告表示マークです。
上部左から、カロリー過多(固形製品:275kcal以上 液体:全体が70kcal以上/加糖分が10kcal以上)・糖分過多(10%以上が加糖由来)・飽和脂肪酸過多(10%以上が飽和脂肪酸由来)・トランス脂肪酸過多(1%以上がトランス脂肪酸由来)・ナトリウム過多(全含有量が350㎎以上・0カロリー飲料に45㎎以上)(※糖分・飽和脂肪酸・トランス脂肪酸は全エネルギーに対しての割合)
中央長方形表示マークは「カフェインを含んでいるので、子どもは避けてください」、下部長方形表示マークは「甘味料を含んでいるので、子どもには推奨しません」と記載されています。

メキシコの大手企業「BIMBO」、メキシコ国外の中南米にも同社の菓子パンや菓子が多数輸出されています。
左:政策実施直後の商品。実施直後は、この企業のオリジナルキャラクターである白い熊を包装から削除することに企業側から抵抗があったようで、警告表示マークと白いクマのイラストが一緒に描かれていることもありました。
右:約2年後の現在は、警告表示マークがついているので、白いクマのキャラクターは描かれていません。
約2年後の現在
警告表示マークがついていない右側の商品には、白いクマのイラストが描かれています。

政策のメインターゲットは子どもと若年層の国民

超加工食品の中でも加糖シリアル・エナジーバー・菓子パン・加糖乳飲料は、近年子どもや若年層の朝食に利用されることが多く、肥満の大きな要因の一つとされています。企業が作り上げた「手軽で朝食に最適な健康的な食品」というイメージに、子どもはもちろん多くの保護者も惑わされていたことが想像できます。今回の政策は外国人の私には少々荒療治に感じる面はあるのですが、消費者が偽の情報に踊らされず、より健康的な選択を促すために最適な方法のように見えます。実際INSP(国立公衆衛生研究所)の研究によると、この政策により5 年後に国内で 130 万件の肥満を予防し、肥満に対する公的支出に関連する 180 万ドルを削減できると予想されています。

いっけん、健康的なイメージがある、食物繊維入り(左)とたんぱく質強化(右)が強調されているエナジーバー。
健康効果を謳っている商品ほど、警告表示マークによって正しい栄養情報を消費者に伝える責任は大きいと感じます。

企業努力

政策がスタートした10月は、クリスマス期間限定のお菓子類が販売され始める時期と重なり「愛らしいサンタクロース」と「真っ黒な8角形」から受けるギャップは、強烈なインパクトがありました。子どもを含む消費者はできるだけ警告表示の数の少ない商品を選ぶようになり、売り上げに大きな影響を与えるので、多くの企業が指定栄養成分の配合を見直しています。企業は大変な負荷を強いられますが、ある会社の消費者へのアンケートでは、70%以上の国民がこの制度を好意的に受け入れているとされています。

政策実施から約2年経過して

2021年の調査では、加糖シリアルの11%から警告表示が削除されているという報告があります。警告表示マークが一つでもついている商品はキャラクターの使用を禁じられているため、キャラクター付きの商品は上限値を超える指定栄養成分が含まれてないことを表します。この政策は第3フェーズまであり、第2フェーズが始まる来年2023年10月にはナトリウムの上限値がさらに厳しくなります。第3フェーズが始まる2025年10月までに基準値内に収まらなかった指定栄養成分は、警告表示マークと併せて上限値も明記しなければならないことになっています。厳しいですね。

次回はソーダ税とメキシコ政府のスポーツ振興への取り組みをご紹介していきます。




関連コラム
・メキシコの肥満対策
・人はなぜ太るのか ②「太りやすさ」と体質の関係

みんなのコメント( 2

    • ID: 49047
      648日前

      ありがとうございます。
      大変興味深い内容でした。
      ちょうどシティを訪問しているのですが、15年前に来た時には表示は無かったので不思議に思っていました。

    • Eatreat 編集部
      800日前

      メキシコ在住の管理栄養士、宮内千奈美さんに紹介していただくメキシコ政府の肥満予防・改善対策シリーズの第2弾です!

WRITER

宮内 千奈美

2004年-2006年まで中米ホンジュラスで栄養士隊員として活動し、日本では主に病院を中心に臨床栄養に携わってきました。 現在はメキシコシティの恵光日本文化館(恵光寺)に勤務しながら、心も身体も健やかに保てるような食と栄養に関わる情報発信を継続しています。

宮内 千奈美さんのコラム一覧

関連タグ

関連コラム

"社会問題と栄養"に関するコラム

もっと見る