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メキシコの肥満対策③

メキシコ政府の肥満予防・改善対策をご紹介する連載第3回目です。
第1回目はこちら。
第2回目はこちら。

砂糖税/ソーダ税

前回の記事では主に超加工食品に対するメキシコ政府の政策についてお伝えしましたが、これら超加工食品にはさらに「砂糖税/ソーダ税」と呼ばれる税金も課せられています。これは2015年3月14日、肥満や虫歯を予防するためにWHO(世界保健機構)から発表された「成人及び児童の単純糖質摂取量を1日ティースプーン6杯未満に抑える」という新指針と、COVID-19のパンデミックが追い風となり採用する国が増えています。
メキシコは2014年からIEPS(Impuesto Especial sobre Producción y Servicios:製品とサービスに対する特別な税金)として国内で販売される砂糖入り飲料(炭酸飲料・乳製品・果物ジュース)への1㌷/L(1㌷≒7.3円)の課税がスタートし、2022年には約1.4㌷/Lにアップしています。またアルコール類も、アルコール度数14度までは26.5%、14~20度までは30%、20度以上は53%、そして275kcal/100g以上の菓子パン、スナック、クッキーなどの菓子や加工食品にも8%の税金が課されます。

メキシコの肥満対策③
ファミリータイプのペットボトルは3リットル入りで販売

課税導入後のメキシコ

課税は多くのメキシコ国民に砂糖入り飲料ではなく、水を飲む習慣を普及させることを目的に行われています。税収は学校や公園など公共施設への水飲み場の設置や、糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防や治療を行うクリニックの建設費用などに充てられているそうです。
現時点ですでに課税によって値上がりしている砂糖入り飲料の消費が減り、水を購入する人が増えている傾向があるようです。このように消費者への恩恵はありそうですが、加工食品を製造・販売する企業は、今後は利益だけでなく消費者の健康に与える影響を考慮した商品の製造・販売を意識せざるを得なくなりそうです。


食品以外での肥満予防・改善対策

第1回、2回に続き、メキシコ政府の超加工食品や砂糖入り飲料、アルコールなど飲食への対応を中心にご紹介してきましたが、メキシコ政府は肥満解消や生活習慣予防のために、運動習慣を持つことも推奨しています。
日本よりも明確に経済力によって生活圏に差が出るメキシコでは、一定以上の経済力のある人々は地下鉄やバスなどの公共交通機関は利用せず、自家用車を使う傾向があります。しかしこれが、運動不足や慢性的な渋滞と空気汚染の一因にもなっています。
2010年2月、ラテンアメリカで初めて16歳以上の成人で事前登録した人は、誰でも利用できる公共の自転車Ecobici(エコビシ)のシステムがスタートしました。開始当初は、84カ所のサイクルステーションと1200台だった自転車ですが、10年経過した2022年にはサイクルステーションは480カ所、自転車も6500台まで増設され、自転車の機能も年々レベルアップしています。車道脇に設けられた自転車走行用の専用道路の建設もCovid-19のパンデミック以降急ピッチで進められていて、現在メキシコシティに200㎞以上ある専用道路は今後も増設される予定とのことです。数字で見ても確実に日常的に自転車を利用しやすい環境が整備されていることがわかりますが、実生活でも自転車の利用者が以前よりずっと増えていることを感じます。

メキシコの肥満対策③
街中のエコビジステーション
メキシコの肥満対策③
車道脇に整備されている自転車専用道路

また、在メキシコ日本大使館やメキシコ独立記念塔が立つReforma(レフォルマ)周辺の大通りは、毎月最終日曜日の8~14時までは歩行者天国になり、大勢の人々がジョギング・ウォーキング・サイクリングなどさまざまな活動を楽しんでる姿が見れます。そこでは同じ時間帯に、血液検査や管理栄養士からの食事アドバイスを受けられるブースも設置されているようです。

メキシコシティは富士山の五合目に相当する高地ですがマラソン人口も多く、8月最後の週末にはメキシコ最大規模のメキシコシティマラソンが毎年開催され、メキシコ各地から多くのランナーが参加します。

メキシコの肥満対策③
2022年に開催されたメキシコシティマラソン

全3回に渡りメキシコ政府の取り組みについてご紹介してきました。これらの多方面からの働きかけを通じ、一人でも多くの人の健康が守られる環境が整っていくことを心から願います。

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「メキシコの肥満対策」
「メキシコの肥満対策②」

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      764日前

      管理栄養士の宮内千奈美さんがご紹介するメキシコ政府の肥満予防・改善対策をご紹介する連載第3回目です。

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WRITER

メキシコの肥満対策③

宮内 千奈美

2004年-2006年まで中米ホンジュラスで栄養士隊員として活動し、日本では主に病院を中心に臨床栄養に携わってきました。 現在はメキシコシティの恵光日本文化館(恵光寺)に勤務しながら、心も身体も健やかに保てるような食と栄養に関わる情報発信を継続しています。

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