COLUMN

4回にわたり、食事摂取基準(2025年版)の変更点について解説する本コラムシリーズ。
2回目は各論における変更点のポイントについてです。

食物繊維

食物繊維の目標量は、WHOのガイドラインなどを踏まえて、少なくとも1日当たり25g摂取した方が良いと考えられ、この値と日本人の摂取量との中間値を参照値とした上で算定されました。
日本食品標準成分表(八訂)では、食物繊維の測定法が変わったことにより成分値が高くなりました。しかし、目標量の根拠とした研究のほとんどでは七訂相当の食物繊維測定法が用いられたと考えられるため、八訂を用いて栄養価計算を行い、食事提供や摂取量評価を行う際には、食事摂取基準の目標量と同等、あるいは少し超える値を提供(摂取)できていたとしても、生活習慣病予防の観点からは不十分である可能性があるので注意が必要です。

ビタミン

【ビタミンD】
ビタミンDの目安量の設定には、紫外線暴露による皮膚での合成も加味した北欧の基準を参照して設定されました。

【ビタミンE】
ビタミンEの目安量の策定は、2020年版では血中α-トコフェロール濃度と日本人の摂取量(中央値)を基に設定されていましたが、2025年版では多価不飽和脂肪酸の摂取量に対して適切なα-トコフェロールの摂取量をもって確認するように変更されました。

【ビタミンB1
ビタミンB1の推定平均必要量・推奨量は、2020年版ではビタミンB1摂取量と排泄量との関係から算出されていましたが、2025年版ではビタミンB1の不足、欠乏に鋭敏に反応する赤血球トランスケトラーゼ活性とビタミンB1摂取量との関係に基づいて推定平均必要量が算定されました。

【ビタミンB12
ビタミンB12は、2015年版以降悪性貧血患者の治療に要したビタミンB12投与量に基づいて推定平均必要量・推奨量が算定されてきましたが、ビタミンB12の栄養状態を表す生化学的指標の知見の蓄積と共に、これまでの推奨量はビタミンB12の適切な栄養状態を維持するには少ない可能性が指摘されてきました。よって、科学的根拠が十分ではないことから、推定平均必要量を設定せず、適正なビタミンB12の栄養状態を維持できる摂取量として目安量が設定されました。

【ビタミンC】
ビタミンCの推定平均必要量は、2020年版では心臓血管系の疾病予防効果及び有効な抗酸化作用が期待できる量として策定されていましたが、2025年版では不足の予防の観点からビタミンC栄養状態を維持するための摂取量として、推定平均必要量が設定されました。

ミネラル

【鉄】
鉄の推定平均必要量・推奨量は、策定において考慮されている鉄吸収率が2020年版では妊娠女性を除く全ての年齢区分にFAO/WHOが採用している吸収率の15%が適用されていましたが、2025年版では鉄吸収率は鉄栄養状態の影響を受けることから、鉄栄養状態が適正な場合の吸収率を用いて、月経のある女性では18%、それ以外で16%と設定されました。また、月経のある女性及び女児の推奨量算定において、2020年版では個人間の変動係数を10%と見積もり、推定平均必要量に推奨量算定係数1.2を乗じた値としていましたが、2025年版では、基本的鉄損失の変動に加え、月経血による血液損失(95パーセンタイル値60.2ml/回)に伴う鉄損失を考慮して設定されました。

【亜鉛】
亜鉛の推定平均必要量と推奨量は、2020年版までは整数値で示されてきましたが、尿中排泄量に関して、2025年版より日本人の数値を採用したことにより精度が向上したと判断され、鉄と同様に0.5mg刻みで示されるようになりました。

【ヨウ素】
ヨウ素の推定平均必要量の算出時、2020年版では甲状腺への蓄積量をそのまま推定平均必要量としていましたが、2025年版では日本人のヨウ素の最大の供給源は昆布及び昆布のだし汁であり、代表的な昆布製品の削り昆布に含まれるヨウ素の吸収率は約70%と見積もる研究が存在することが分かりました。以上のことから、日本人の食事からのヨウ素の吸収率は約80%と推測され、当該研究参加者の平均体重と性別・年区分別の参照体重の比の0.75乗を用いて外挿し算出されました。
また、小児の耐容上限量の策定においては、2020年版の策定根拠とした研究は、随時尿からヨウ素摂取量を推定していましたが、近年、随時尿は1日の総ヨウ素摂取量を反映しない可能性が示されていることから、成人のヨウ素の耐容上限量を18〜29歳の体重当たりで示した値を参照値として、性別・年齢区分別の参照体重を乗じて、男女の値を平均して設定されました。



参考文献
・厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書、https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html




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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
      5日前

      管理栄養士 横原夢見さんに解説いただく、食事摂取基準(2025年版)の主な変更点シリーズ、2回目は各論の変更点です。

WRITER

横原 夢見

病院勤務を経て、現在はフリーランスとして専門学校の非常勤講師、コラム執筆、地域活動などを行っています。

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