COLUMN

ここ数年、減量効果をもつ薬剤が急速に普及し、肥満症治療の選択肢は大きく広がりました。一方で、本来の医療目的ではなく“ダイエット”や“美容”を目的とした適応外使用が拡大し、健康被害や誤用をめぐる社会的課題も顕在化しています。本コラムでは、2回に分けて「ダイエット薬」と呼ばれる薬剤についての基本的な知識や使用時の注意点について詳しく解説します。

「ダイエット薬」と呼ばれる薬剤の現状

SNSなどを中心に「ダイエット薬」と呼ばれる薬剤は、本来、肥満症や糖尿病などの治療を目的として開発された医療用医薬品が中心です。中でも注目されているのが、GLP-1受容体作動薬。従来の食事・運動を基本とする生活習慣介入だけでは十分な減量効果が得られなかった患者に対しても、体重減少をもたらしやすいことが示されています。

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ウゴービ®の適応
高血圧、脂質異常症又は、2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する肥満症
・BMIが27 kg/㎡以上であり、2つ以上の肥満関連の健康障害を有する
・BMIが35 kg/㎡以上

インクレチンホルモン~GIPとGLP-1の作用~

食後、血糖値が上がると、小腸からインクレチンと呼ばれるホルモンが分泌されます。インクレチンには、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の2種類があり、それぞれ小腸のK細胞とL細胞から分泌されます。
インクレチンは、すい臓のβ細胞にあるGIP受容体とGLP-1受容体と結合すると、血糖値を下げる働きを持つインスリンの分泌が促されます。逆に、血糖値を上げる働きを持つグルカゴンの分泌が抑制されます。

GLP-1は、視床下部でレプチン感受性を高めて食欲を抑えるほか、胃排出を遅らせることで食後の満腹感を持続させます。これらの作用により食事量が自然と減り、体重減少効果が得られることが分かっています。

GIPは、主に脂質代謝の調整に関わるホルモンです。インスリンと協調して脂肪を蓄える(エネルギーをためる)ほか、空腹時や運動時には脂肪を分解し(エネルギーを作る)、さらに分解した脂肪を燃焼する(エネルギーを使う)働きを持ちます。
近年の研究では、GIPも「レプチン‐満腹神経系」を活性化し、過食や肥満の改善に寄与する可能性が示されています。ただし、このレプチン系への作用は、ヒトでのデータが少なく、今後の検証が期待されています。

GLP-1受容体作動薬とは?

GLP-1受容体作動薬とは、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)が本来持つ働きを高めることで、血糖値の上昇を抑え、食欲を調整する薬です。
主に以下のような効果が得られます。

・食欲抑制作用
・胃排出遅延による食後血糖の上昇抑制
・血糖依存的なインスリン分泌促進


これらの効果により、結果として 食事量の減少や体重減少、血糖コントロールの改善につながります。
また、2022年9月には、GLP-1受容体に加えてGIP受容体にも作用する 「GIP/GLP-1受容体作動薬(商品名:マンジャロ®)」が、 2型糖尿病を適応として製造販売承認を取得しました。GIPはGLP-1とは異なる経路から食欲や代謝に働きかけるため、両者を同時に刺激するマンジャロ®は、従来のGLP-1単独薬よりも強力な体重減少効果や血糖改善効果が期待され、臨床現場でも注目されています。
その一方で、ダイエットや美容目的での適応外使用が社会問題となっており、本来必要とする患者さんへの供給不足や、不適切な使用による健康被害のリスクも指摘されています。医療従事者としては、正しい適応と安全性に関する知識を持ち、患者に対して適切な情報提供と指導を行うことが求められます。

まとめ

今回は、「ダイエット薬」として注目を集めるGLP-1受容体作動薬の基本的なメカニズムや作用について解説しました。
次回は、自由診療や美容目的での適応外使用という、社会で注目されている課題についてさらに深く掘り下げていきます。



参考文献
・坪井貴司他、腸内細菌叢と消化管内分泌細胞との機能連関、自律神経 59巻(2):226-229、 2022年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/59/2/59_226/_pdf/-char/ja (閲覧日:2026年3月)



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WRITER

管理栄養士

松岡 喜美子

循環器病予防療養指導士 かがわ糖尿病療養指導士,ベーシックインストラクター(JCCA)、貯筋運動指導者、歯科栄養アドバイザー2級 大学卒業後、糖尿病クリニックでの栄養指導に従事しながら健康運動指導士を取得。 2008年よりフリーとしての活動を開始。 特定保健指導の立ち上げからスタッフ育成などにも携わり、これまでの指導件数は1万件以上。 生活習慣病予防セミナーの講師や企業やスポーツクラブでの運動指導なども行っている。 その他、企業HPのコラム執筆なども担当し、健康情報の発信や商品マーケティングなども行っている。 「栄養不良の二重負荷」という問題に対して、世界に貢献できる管理栄養士を目指しています。

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
      2時間前

      ダイエット目的の薬剤に関して、基本的な知識や使用時の注意点を管理栄養士の松岡喜美子さんに解説していただきました!

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