COLUMN

在宅療養者を訪問し、食の面から療養生活を支援する訪問栄養食事指導。本コラムでは4回にわけて、訪問栄養食事指導の概要、現場の流れ、多職種連携、スキルアップなどについてご紹介いたします。

訪問栄養食事指導の種類

訪問栄養食事指導には 、医療保険を利用する「在宅患者訪問栄養食事指導」、介護保険を利用する「(管理栄養士が行う)居宅療養管理指導」があります。
保険外では、各市町村が主体となって行う「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)訪問型C」があり、実施の有無、サービス利用の負担は各市町村によって異なります。
さらに最近では、認定栄養ケア・ステーション、薬局、歯科医院などが保険外の独自の事業や行政と連携して実施している事例も出てきています。

対象者の概要と特別食など

医療保険や介護保険を利用して訪問栄養食事指導を行う場合、算定要件にあてはまる対象者であるかをまず確認する必要があります。要介護認定を受けている対象者は介護保険の居宅療養管理指導が優先となります。

対象者の概要
医療保険 「在宅患者訪問栄養食事指導」 介護保険「(管理栄養士による)居宅療養管理指導)」
通院による療養が困難な患者。保険医療機関の医師が特別食を提供する必要性を認めた場合または次のいずれかに該当するものとして医師が栄養管理の必要性を認めた場合
 ア がん患者
 イ 摂食機能または嚥下機能が低下した患者
 ウ 低栄養状態にある患者
指導対象は本人または家族など
通院又は通所が困難な利用者。医師が特別食を提供する必要性を認めた場合または当該利用者が低栄養状態にあると医師が判断した場合
指導対象は本人または家族など



対象となる特別食など
医療保険 「在宅患者訪問栄養食事指導」 介護保険「(管理栄養士による)居宅療養管理指導)」
腎臓食、肝臓食、糖尿食、胃潰瘍食、貧血食、膵臓食、脂質異常症食、痛風食、特別な場合の検査食(単なる流動食及び軟食を除く)、心臓疾患などに対する減塩食、十二指腸潰瘍の患者に対する潰瘍食、ク ローン病および潰瘍性大腸炎による腸管機能の低下に対する低残渣食、高度肥満症食(肥満度が40%以上または BMIが30以上)、高血圧に関する減塩食(食塩6g以下)
てんかん食、フェニールケトン尿症食、楓糖尿食、ホモシスチン尿食、尿素サイクル異常症食、メチルマロン酸血症食、プロピオン酸血症食、極長鎖アシルーCoA脱水素酵素欠損症食、糖原病食、ガラクトース血症食、治療乳、無菌食 、がん患者、摂食・嚥下機能が低下した患者、低栄養状態にある患者
経管栄養のための流動食、嚥下困難者(そのために摂食不良となった者も含む)のための流動食、低栄養状態




管理栄養士の所属

管理栄養士は常勤または非常勤のどちらの働き方でも実施することが可能です。
1、2およびⅠ、Ⅱの所属の違いにより料金が変わります。

医療保険 「在宅患者訪問栄養食事指導」 介護保険「(管理栄養士による)居宅療養管理指導)」
1、かかりつけ医と同一の保険医療機関に所属する常勤または非常勤
2、当該診療所以外に所属
日本栄養士会または都道府県栄養士会が運営する栄養ケア・ステーション※1、または他の保険医療機関
Ⅰ、居宅療養管理指導事業所に所属する常勤または非常勤
Ⅱ、当該居宅療養管理指導事業所以外に所属
医療機関、介護保険施設※2、日本栄養士会または都道府県栄養士会が運営する栄養ケア・ステーション※1

※1介護報酬、診療報酬の要件に該当する栄養ケア・ステーションは、(公社)日本栄養士会もしくは都道府県栄養士会が設置して運営する「栄養ケア・ステーション」であり、「認定栄養ケア・ステーション」は該当しません。
※2介護保険施設は「栄養マネジメント強化加算の算定要件として規定する員数を超えて管理栄養士を置いているものまたは常勤の管理栄養士を1名以上配置しているものに限る」との要件があります。

訪問栄養食事指導の実施内容

どちらも医師の指示が必要で、30分以上の実施、給付限度は月2回とされています。特に介護保険は、栄養ケア・マネジメントのプロセス(栄養スクリーニング、栄養アセスメント、栄養ケア計画、実施・チェック、モニタリング、評価等)を経ながらの実施が要件とされていることが大きな特徴です。

医療保険 「在宅患者訪問栄養食事指導」 介護保険「(管理栄養士による)居宅療養管理指導)」
医師の指示に基づき、管理栄養士が患家を訪問し、患者の生活条件、し好等を勘案した食品構成に基づく食事計画案または具体的な献立等を示した栄養食事指導箋を患者またはその家族等に対して交付するとともに、当該指導箋に従い、食事の用意や摂取等に関する具体的な指導を 30 分以上行う
給付限度は月2回まで
医師の指示に基づき、管理栄養士が利用者の居宅を訪問し、作成した栄養ケア計画を患者またはその家族等に対して交付するとともに、当該栄養ケア計画に従った栄養管理に係る情報提供及び栄養食事相談または助言を 30 分以上行う
栄養ケア・マネジメントのプロセスを経ながら実施する
給付限度は月2回まで

診療報酬・介護報酬改定により算定要件等は変更になります。所属機関内で訪問栄養食事指導を担当する管理栄養士は1名という職場環境は少なくありません。管理栄養士が関わる分野の制度は改訂の都度、関連して発表されるQ&Aも含め、自身で確認・対応が必要です。

生活の場に訪問する管理栄養士

訪問栄養食事指導の対象者は治療食が必要というだけでなく、在宅での療養や介護が必要になった何らかの原因を抱えています。生活の場では栄養状態の改善はゴールではありません。病状、水分および栄養摂取の状況だけでなく、心身の状況、買い物や調理能力、介護力、金銭面など生活のアセスメントをし、多職種と連携して生活の質の向上を支援します。生活の場に訪問する管理栄養士は、食卓にある食事を見て摂取栄養量を数字で示す、必要な栄養素をよく食べる食品の量で示す、適切な食事形態にするための調理方法や食品の手軽な購入方法の情報提供など、それぞれの生活に適した具体的な食支援が求められています。

次回は、訪問栄養食事指導の実際についてご紹介します。



参考文献
・厚生労働省:『令和4年度診療報酬改定について 第3関係法令等 【省令・告示】(それらに関連する通知・事務連絡を含む。)(2) 1診療報酬の算定方法の一部を改正する件「令和4年厚生労働省告示第54号」別表1』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html
(閲覧日:令和5年5月30日)

・厚生労働省:『令和4年度診療報酬改定について 第3関係法令等 【省令・告示】(それらに関連する通知・事務連絡を含む。)(2)2診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)令和4年3月4日「保医発0304第1号」別添1』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html
(閲覧日:令和5年5月30日)

・厚生労働省:「令和3年度介護報酬改定について 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について(平成12年3月1日老企第36号)(抄)』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00034.html
(閲覧日 令和5年5月30日)

・厚生労働省:「令和3年度介護報酬改定について 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の一部を改正する告示厚生労働省告示第七十三号」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00034.html
(閲覧日 令和5年5月30日)

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
      512日前

      訪問栄養食事指導の現場でご活躍されている管理栄養士の吉田美代子さんに、訪問栄養食事指導の実際をご紹介していただくシリーズです。

WRITER

吉田 美代子

女子栄養大学栄養学部栄養学科実践栄養学専攻 卒業後、管理栄養士として病院、高齢者施設にて勤務。 2002年よりフリーランス。 食生活・料理・『食&色』講座などの講師、糖尿病外来の食事相談、レシピ提供、執筆などを通して健康で豊かな生活のサポートを行ってきました。 2016年(医社)龍岡会にて管理栄養士の居宅療養管理指導部門立ち上げ、2018年よりローソン千駄木不忍通店内に介護・栄養相談窓口として認定栄養ケア・ステーションを立ち上げるなど、医療法人、企業、行政等と連携した地域活動を行っています。 (医社)龍岡会 龍岡栄養けあぴっと 認定栄養ケア・ステーション 所長 (医社)龍岡会 大森内科医院 居宅療養管理指導 東京誠心調理師専門学校「カラーコーディネート」非常勤講師(2007年~) 東京栄養食糧専門学校「デザイン色彩演習」非常勤講師(2015年~) 文京区高齢者料理サークル「茗台ダイニングクラブ」講師(2010年~) 新宿区立薬王寺ささえあい館「おとこのおつまみ講座」「料理超初心者講座」講師(2018年~) 文京ホーム栄養士連携会 世話人(2019年~) 【主な講座講師】 ・日本介護食品協議会様「「食を通してつながる・つなげる~すぐそこにいる管理栄養士~」 ・本富士地域包括支援センター様主催「食から始めるフレイル予防」 ・東京都栄養士会様主催「地域を栄養士のフィールドに」 ・ナースステーション東京様主催「管理栄養士の訪問栄養食事サポート」 ・全国高等学校長協会様主催 家庭科部会研修会「おいしさのカラーコーディネート」 ・ICD国際カラーデザイン協会様主催特別セミナー「食&色の世界」 ・大学様、栄養士団体様「栄養士の未来を彩るカラーコーディネート」 ・大学様、栄養士団体様、他職種団体様「高齢者の住み慣れた地域での生活を支援する」 ・「介護予防講座」 ・「生涯現役の『食事力』磨き方・楽しみ方」 ・「男の介護めし」 ・「認知症予防の食生活」 ・「40歳からの健康セミナー」 ・「食の地図を持って楽しい人生を歩く」 ・「ホームヘルパーのための料理教室」 ・「見て楽しい、食べておいしい彩り野菜」       ほか 【資格・免許】 管理栄養士 認定在宅訪問管理栄養士 健康運動指導士 ホームヘルパー2級 パッククッキングインストラクター ISAK認定国際身体計測技師Level 1 文部科学省認定AFT色彩能力検定1級 【執筆・監修】 2017年2月すばる舎『健脚寿命を延ばして一生歩ける体をつくる!』石部基実著/栄養監修  2021年9月号 医歯薬出版(株)『臨床栄養』活動レポート栄養CS 龍岡栄養けあぴっと認定栄養ケア・ステーション 2022年5~9月号連載 医歯薬出版(株)『臨床栄養』巻頭カラー「管理栄養士の未来を彩る「食&色」コーディネート」 2023年5月号『日本栄養士会雑誌』 連載 知っておきたい情報発信のルールとテクニック第2回「色が広げる豊かな食生活」 2023年6月 女子栄養大学出版部『たんぱく質早わかり』監修 【取材協力】 2018年12月号『日本栄養士会雑誌』トップランナーたちの視点 「自然と開拓されたフリーランスの道 認定栄養ケア・ステーションでさらなる一歩」 2019年2月20日『日経新聞』「栄養ケア・ステーション コンビニに併設」 2021年6月18日『読売新聞オンライン 在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活』「コンビニで栄養相談? あなたの街の「顔の見える管理栄養士」 2021年7月『高齢者住宅新聞』「コンビニで栄養・介護相談 低栄養、早期発見に」 2021年10月号食品産業新聞社『月間メニューアイデア』「介護食品の販売状況と課題・地域包括ケアを食でつなぐ」 2021年10月7日(木)『食品産業新聞』高齢者食特集インタビュー「地域包括ケアを食でつなぐ」 2022年1月号環境新聞社『月間ケアマネジメント』QOL向上を目指す食支援レポート第7回「気軽に立ち寄れ、通える栄養相談窓口」

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