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栄養相談やカウンセリングで、相手の方の歯や咀嚼の問題に直面したことはありませんか。「噛めない」「歯がない」などの制限があるなかでの栄養管理も栄養士・管理栄養士の専門性ですが、今回は歯科的な視点から「噛めない」段階に至る前の「健康な歯を維持する」ことを目的とした食事アドバイスのポイントをご紹介します。

むし歯と食習慣の関係

歯科領域で食事アドバイスを行ううえで抑えておく必要があるのは、主要な歯科疾患である「むし歯」と「歯周病」です。
むし歯はご存知のように、口腔内の細菌が出す酸によって歯が溶かされる病気です。甘いものを食べるとむし歯になりやすくなることが知られていますが、実際砂糖の摂取があるのとないのとではプラーク(歯垢)※の付き方も変わります。そのため、むし歯予防には日々の歯磨きはもちろん、間食や嗜好飲料といった習慣的な糖の摂取がある場合はその摂取を控えることや、規則正しく食べることが大切です。

※プラーク(歯垢)とは…歯に付着した細菌が繁殖してできたかたまり。

歯周病と食習慣の関係

一方の歯周病菌は、鉄分やタンパク質を栄養源としています。歯周病の栄養管理については一つ前の記事で詳しくお伝えしたように、基本的には栄養バランスを整えつつ、免疫力を高めたり、炎症を抑えることに働く栄養素を積極的にとるとよいでしょう。
むし歯とは違い、菌の栄養源を食生活で絶つことが対策にはなりません。歯周病菌は嫌気性菌のため歯の表面に居着くことはできませんが、歯の表面に他の菌の存在(プラーク)があるとその下に潜って生き続けることができます。そして、歯周ポケットに潜り込んだ菌は歯茎に炎症を起こし、血液成分から栄養を得ます。

口腔内細菌叢のバランスを整える

むし歯も歯周病も、現在は特定の菌の存在を原因とするよりも、口腔内の細菌叢のバランスが崩れることによって起こるという考え方がされています。細菌叢のアンバランスがおこるきっかけが「砂糖」の存在です。
砂糖を好む一部の菌が増えることでプラークが増えやすくなり、むし歯が発生しやすくなるとともに、プラークを足場とする別の菌が増えるため歯周病の発症などにもつながりやすくなります。実際、砂糖の摂取量が多い人が摂取量を減らすとプラークの付き方が改善し、歯茎の炎症の改善が見られることは少なくありません。こうした背景から、歯科領域では、患者に食生活について聞く場合、甘いものの摂取状況について尋ねることが多いです。

砂糖の摂取基準

砂糖の摂取量については、WHOのガイドライン「成人及び児童の糖類摂取量」が基準となっています。これによると遊離糖質の1日の摂取量は、総エネルギー摂取量の5%以下にすることが推奨されています。
遊離糖質とは単糖類(ブドウ糖・果糖など)および二糖類(しょ糖・テーブルシュガーなど)のことで、蜂蜜、シロップ、果汁、濃縮果汁も含まれます。そのため、おおむね砂糖の量としては、ティースプーンに5杯程度に留めることが勧められます。もちろん、口腔内の状態に影響する要因は食生活以外にも多数あり、砂糖をそれほど多くとっていない場合でもむし歯ができやすい人はいます。現場で指導する際には口腔の特徴、生活などを全体的に見て何が改善に有効なのか、個々人に合わせた話をすることになります。

歯科領域での食事指導の魅力

多くの栄養指導で指標となるものは、体重や腹囲、血液検査数値など成果が出るのに時間がかかるものや本人の実感が伴いにくいものが多く、これは栄養指導の難しい点でもあります。その点、口腔内の状況は1~2週間程度、早ければ数日間の食生活の状況でも反映することがあります。また、プラークの付き方は、プラークの染色(染め出し)で直接見せることができ、歯茎の出血の状況も数値化できるため比較がしやすいなど、本人が行動変容の成果を実感しやすいという特徴があります。
アウトカムが見えやすいと、小さい改善を拾ってポジティブなフィードバックをしたり、モチベーションを維持することに有効であり、カウンセリングや指導の成果も実感されやすくなります。

管理栄養士の専門性を活かす場としての歯科領域

歯科で行う食事アドバイスは、医療現場の栄養指導よりも予防的です。「砂糖」や「間食」などわかりやすいものにフォーカスし、それを切り口にその先の栄養バランス、食生活のあり方までを改善する道筋を作ることができるという点で、予防活動として歯科は非常に魅力的な場であると感じます。
管理栄養士は間食に限らず、食事全体や種々の栄養素の摂取バランス、全身と生活を見る視点を持っています。歯科領域でもオーラルフレイルなどの重要性が叫ばれ、従来の「むし歯」「口腔」にとどまらず、「全身をみる」との考え方が浸透しつつあります。今後、管理栄養士の専門性が、歯科やその他の口腔を切り口とした場で活かされることがますます増えてくるのではないでしょうか。

 

参考文献
・世界保健機関(WHO)、ガイドライン「成人及び児童の糖類摂取量」
http://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/149782/9789241549028_eng.pdf;jsessionid=1231040C8ED5A73E29DAAB8218BA4900?sequence=1(閲覧日:2022年10月15日)
・Audrey Sheihamら「特集 21世紀の口腔保健戦略の確立に向けて」『歯界展望』、2016年 Vol.127 No.3
・厚生労働省、e-ヘルスネット「プラーク/歯垢」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-031.html

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      716日前

      管理栄養士の道盛法子さんに解説いただく連載記事「健康な歯の維持と食の関係」。最終回は、歯科的な視点から「噛めない」段階に至る前の「健康な歯を維持する」ことを目的とした食事アドバイスのポイントをご紹介していただきます。

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WRITER

健康な歯を維持するための食生活のポイント

道盛 法子

予防歯科で働く管理栄養士です。 新卒で3年ほど出版社で編集・記者として勤務し、その後予防の活動に現場で関わりたいとの思いから転職しました。歯科は、すべてのライフステージに関わることができ、食を切り口にした予防活動にも最適な場だと感じています。 管理栄養士の視点で歯や口のあれこれをお伝えできればと思います!

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