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健康な歯の維持と健康寿命

健康な歯を保有し口から食べることは、栄養状態の維持や改善に大切です。歯や口の状態は、栄養状態にどのように影響するのでしょうか。これまでの研究結果から情報を整理してみます。

加齢に伴い歯の状態は変化する

年齢を意味する「齢(よわい)」という言葉。「歯」という文字が入っているのは、歯の生え方で年の違いがわかることに由来するとされています。古くから、歯は老化の指標とされてきました。
成人の歯は全部で28本(親知らずを含めると32本)あります。歯の本数は加齢とともに個人差が大きくなり、平均的には減少していきます。「8020運動」の達成者(80歳で20本以上の歯が残っている人)の割合が過去最高となった平成28年でも、80歳以上で20本の歯を残している人は約5割、85歳以降では3割を下回る結果となっています。
歯が少なくなると、噛むことにも支障が出ます。“高齢になると20本以上の歯を保有する人が減少し、「何でも噛んで食べることができる」人も減少する”という事実は国民健康・栄養調査からも明らかになっていますね。

健康な歯の維持と健康寿命

歯の状態と健康寿命

歯の数と死亡率の関係を調べた研究は多く、年齢や経済状況、喫煙など死亡率に影響する因子を調整した上で「歯が少ない方が短命」であることがわかっています。
さらに健康寿命についても、①歯に支障がある、②かかりつけ歯科医がない、③歯が19本以下である人は、そうではない人に比べて要介護状態になる人が多くなります。
さらに、歯が19本以下かつ義歯を利用していない高齢者は、歯が20本以上の高齢者に比べ身体機能障害の発生が多いこともわかっています。
寿命だけでなく、自立して暮らすための健康寿命においても、歯は「20本使える」ことが一つの目安になっています。

歯が減ることにより起こる栄養の偏り

さて、歯の病気が直接の死亡原因になることはないにも関わらず、寿命に影響するというのはどういうことなのでしょうか。この背景として注目されているのが栄養状態との関連です。 歯数が減ると摂取する食品や栄養のバランスに以下のような変化が起きることがわかっています。

歯数の減少に伴い摂取が減る食品 歯数の減少に伴い摂取が減る栄養素
・野菜、果物類 ・タンパク質
・乳製品 ・カロテン、ビタミン類
・ナッツ類 ・食物繊維


歯数の減少に伴い摂取が増える食品 歯数の減少に伴い摂取が増える栄養素
・米 ・総摂取エネルギー
・菓子類 ・炭水化物

こうした変化から、歯が減って咀嚼能力が低下すると、糖質・エネルギー過多、タンパク質や微量栄養素、食物繊維等の不足が起こり、結果としてがん・糖尿病・循環器疾患といった非感染性疾患のリスクが上昇すると考えることができます。
また、義歯の使用者で「義歯が合わない」と感じている場合、「義歯が合っている」と感じている人や18本以上歯がある人に比べて野菜の摂取量や食品の多様性、ビタミンCやカロテンの摂取量が少なくなるという報告があるほか、多様な食品を摂取できている人はよく噛むことができ、身体機能低下や認知機能低下のリスクが抑制されるという報告もあります。

歯の治療だけでは栄養状態は改善しない!

歯の数を保持することや口腔内の痛みを解決することが低栄養のリスクを軽減するという結果がある一方で、歯の治療単体を行ったことによる栄養摂取状況の改善効果はほとんどなく、歯の治療後に管理栄養士が関わることによって行動変容を伴う健康的な食事摂取と栄養状態の改善が導かれたとする報告もあります。
オーラルフレイル対策において食事や栄養を専門とする管理栄養士の関わりは重要といわれていますが、噛めない人に対して歯の治療を促すだけでなく、その後も栄養の改善をフォローすることが重要と言えます。

歯や口も視野に入れた関わりを

施設入所者を対象とした研究では、体重やBMI、タンパク質摂取量を増やすには、栄養・運動・口腔の3点セットでの介入が効果的だったという結果もあります。多職種連携が大切なのは言うまでもなく、仮に多職種がすぐそばにいなくても多角的な視点をもって関わることが大切です。保険制度上職種別の役割が明確にされると、役割以上のことに尻込みしてしまうこともあるかもしれません。しかし、職種同士で重なる部分こそ、対象者を全人的に見る上で重要なポイントであるようにも思います。
専門である食事の内容を大切に考えるのはもちろんのこと、食事をとるために大事な健康な歯の維持にもぜひ注目してみてください。

参考文献
・池邉一典:「高齢者の口腔機能が,栄養摂取に与える影響」『日本静脈経腸栄養学会雑誌』31(2):681-686:2016    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/31/2/31_681/_pdf
・深井護博:「健康長寿のための口腔保健と栄養をむすぶエビデンスブック」、医歯薬出版、(2019)
・公益社団法人日本歯科医師会:「健康長寿社会に寄与する 歯科医療・口腔保健のエビデンス 2015」2015 年3月13日
・平成29年国民健康・栄養調査結果

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「30年先にも“噛める口”でいるには?」
「あなたのお口は健康ですか?歯周病について解説します!②」

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      99日前

      健康な歯の維持と食の関係について歯科領域に活躍されている管理栄養士の道盛法子さんに全3回にわたって解説していただきます。

      拍手 1

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WRITER

健康な歯の維持と健康寿命

道盛 法子

予防歯科で働く管理栄養士です。 新卒で3年ほど出版社で編集・記者として勤務し、その後予防の活動に現場で関わりたいとの思いから転職しました。歯科は、すべてのライフステージに関わることができ、食を切り口にした予防活動にも最適な場だと感じています。 管理栄養士の視点で歯や口のあれこれをお伝えできればと思います!

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