私達が当たり前のようにおいしく食事ができ、笑顔で楽しく話せるのは、「しっかり噛める健康な口」があるからです。ところが、50代以
降になると噛む機能に支障をきたす人が増え始めます。噛んで食べることのできる人の割合は60代で80%を切り、70代では約60%、80代では約40%にまで下がります。ただし、これは“年を取ったら人は噛めなくなるものである”ということを表す結果ではありません。健康な口は、取り組み次第で長く維持することができます。
歯を失う大きな原因、歯周病
噛むことに支障が出てくる背景には、歯の本数の減少があります。年代別に見ると、抜歯数が急激に増えるのは、50~60代。20~40代の抜歯原因の半数がむし歯であるのに対し、50~60代から増える抜歯の原因は、約3分の2が歯周病です。歯周病は自覚症状なく進むため、歯や噛むことに不自由なく働き盛りを過ごしている間に歯周病が進行し、50代以降に“歯茎がむずがゆい”“歯が揺れる”と気づいて歯科にかかった時には、抜歯するしかないほど悪くなっているということも少なくありません。
定期的なむし歯、歯周病ケアで歯を残す
では、自分の歯をより長く、多く残すためにはどうすればいいでしょう? 日頃からのよく噛む食事、規則正しい生活など、気を付けることは盛りだくさんのように思われるかも知れません。それらも大切ですが、まずは健診やクリーニングに力を入れている歯科医院に足を運ぶことをお勧めします。
そして、定期的なケアで歯周病などお口の問題点を早期発見することです。近年は地域に根差した歯科医院の予防的な取り組みが評価されるような流れになっており、「かかりつけ」の役割を掲げる歯科医院も増えています。80代で歯を残すには、少なくとも40代から行動することです。また、抜歯になっても、その後ブリッジや入れ歯を入れ、かみ合わせや食べる機能を回復することが重要です。研究ではかみ合わせがきちんとしていると転倒のリスクが低いことが明らかになっているほか、かかりつけの歯科医院がある人の方が認知症のリスクが低いこともわかっています。
歯科医院で働く私の実感としても、「歯があり、しっかりと噛めている人」は高齢であっても自立した生活を送り、自分の足で定期健診にいらっしゃる方が多いです。噛むことに問題が出てくると、それが引き金のようになって生活全体の自立度が落ちてくる印象があります。高齢者の栄養問題の中心である低栄養も、その上流に歯や口の問題が存在していると感じています。管理栄養士がお口の状態にも目を配る時代が来ています。
参考文献
平成25年国民健康・栄養調査報告 第4部生活習慣病調査の結果
日本歯科医師会:健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス2015
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