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先日、「国民皆歯科健診」の導入を検討する方針が政府から発表されました。国民皆歯科健診には、歯の健康を維持して他の病気の誘発を抑え、健康寿命を延伸させるという狙いがあります。他の病気と関係している歯科の病気といえば「歯周病」、そこで今回は歯周病と食の関連について取り上げます。

歯周病は治らない

歯周病は、中高年層の過半数が罹っているとされる国民病で、以前は「歯槽膿漏(しそうのうろう)」とも言われていました。歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)から細菌が侵入して歯茎に炎症を引き起こし、重症になると歯を支えている骨が減り、歯が抜け落ちてしまう病気です。中高年層が歯を失う原因は、歯周病が最も多くなっています。一度歯周病によって失われた骨はもとには戻りません。そのため、悪化・進行させないようにコントロールすることが基本的な治療となっています。

歯周病の全身への影響

進行した歯周病は、歯のグラつきなど口腔内の症状も問題ですが、全身にも慢性的な炎症状態をもたらします。それが2型糖尿病などの代謝性疾患や動脈硬化性疾患、自己免疫疾患、がんなど、全身のさまざまな疾患の発症・進行リスクを高める原因になっていると考えられています。特に2型糖尿病については双方向の関連性、すなわち糖尿病が歯周病の進行を促進し、逆に重症化した歯周病が糖尿病を悪化させるという関係があるとされています。歯周炎治療によって糖尿病患者のHbA1cが改善することもわかっています。

歯周病を食い止めるには

歯周病の進行を抑えるためには、まずは禁煙、そして歯科医院で定期的にチェックを受けることや日々のホームケア(歯磨きなど)を上達させることなど、口腔内へのアプローチが大切であることは言うまでもありません。
さらに、歯周病によって引き起こされる炎症状態は、全身の免疫状態にも左右されます。そのため、歯周病の予防においては適度な運動、十分な睡眠、そして私たちの専門分野である「栄養」といった、健康のための基本的な要素が重要であると考えられているのです。

歯周病の栄養管理

歯周病に対する栄養管理はまだ確立していないものの、基本は5大栄養素をベースに栄養バランスを整えることにあり、中でも歯周病の管理においては以下の2つが有効と考えられています。

①タンパク質不足に陥らないこと
タンパク質は唾液や免疫機構の主成分です。これらが不足すると唾液や免疫系が機能不全を起こし、歯周病の発症リスクが高まると考えられています。

②抗酸化物質の摂取
歯周病で炎症が起こると好中球が過剰に分泌され、その酸化ストレスで生体組織もダメージを受けるため、酸化ストレスから組織を守るために抗酸化物質が必要とされています。体の抗酸化物質は生体内にも備わっていますが加齢とともに減少するため、歯周病を有している年代では特にビタミン・ミネラル、ポリフェノールの十分な摂取が勧められます。

歯周病と食事の関連はまだ研究途上にありますが、普段の食生活で野菜や魚を多くとる人は歯周病の重症化リスクが少なかった、という報告もあります。近年は腸内環境との関連も注目されており、歯周病に対して栄養面からのアプローチを考える時には「免疫」や「炎症」がキーになりそうです。

口腔と全身、双方からのアプローチを栄養で

歯周病菌が歯周病を発症させるには“他の菌の存在”が必要だと考えられています。したがって歯周病菌が活動しやすい環境を作らないようにするという点では、口腔内のプラークやバイオフィルムをなるべく抑制するような食習慣――すなわち甘いものを控えたり繊維質のものを食べたりーーーといったことも有効と言えるでしょう。
栄養バランスを整えることを基本に、タンパク質、ビタミン、ミネラルを十分にとる食生活は歯周病の予防にもつながると考えられます。

 

参考文献
・池邉一典:「高齢者の口腔機能が,栄養摂取に与える影響」『日本静脈経腸栄養学会雑誌』31(2):681-686:2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/31/2/31_681/_pdf
6) Ansai T, Takata Y, Soh I, et al. Relationship between chewing ability and 4-year mortality in a cohort of 80-yearold Japanese people. Oral Dis 13: 214-219, 2007.
7) Ansai T, Takata Y, Soh I, et al. Association of chewing ability with cardiovascular disease mortality in the 80-yearold Japanese population. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil 15: 104-106, 2008.
・厚生労働省「歯周病」、eヘルスネット、https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth-summaries/h-03(2020年10月5日)
・特定非営利活動法人日本歯周病学会:「歯周病と全身の健康」、2016 年 3 月25日 第 1 版第 1 刷発行、制作協力 医歯薬出版

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      514日前

      管理栄養士 道盛法子さんが紹介する「健康な歯の維持と食の関係」シリーズ第2回目は歯周病と食の関連についてです。

      拍手 1

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WRITER

歯周病と食の関係

道盛 法子

予防歯科で働く管理栄養士です。 新卒で3年ほど出版社で編集・記者として勤務し、その後予防の活動に現場で関わりたいとの思いから転職しました。歯科は、すべてのライフステージに関わることができ、食を切り口にした予防活動にも最適な場だと感じています。 管理栄養士の視点で歯や口のあれこれをお伝えできればと思います!

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