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昨今、口腔機能はフレイルの予防における重要なキーワードとして注目されています。フレイルサイクルに陥る入り口に低栄養がありますが、それ以前に口腔機能の低下が存在することも少なくありません。介護予防、フレイル予防の実践の土台となる新たな視点、「オーラルフレイル」について理解を深めましょう。

オーラルフレイルとは

「オーラルフレイル」という言葉は、管理栄養士のみなさんであれば一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
オーラルフレイルとは、滑舌の低下や噛めない食品の増加、むせなど、日常の中で起こる口に関する”ささいな衰え”がきっかけとなります。そして、口腔機能が低下し、食べる機能が落ちることによって低栄養やサルコペニアのリスクが増大し、最終的には心身の機能の低下にまでいたる一連の現象及び過程をいいます。
オーラルフレイルは、その段階によって4つのレベルに定義されています。概念は幅が広く一見捉えにくいですが、レベルごとにそれぞれのアプローチの場や適切な関わり方を整理すると、理解しやすくなります。

オーラルフレイルの「4つのレベル」

当初オーラルフレイルは、Linda FriedのFrailtyモデルをもとに「社会性/心のフレイル期」「栄養面のフレイル(オーラルフレイル)期」「身体面のフレイル期」「重度フレイル期」の4つのフェーズから構成される概念でした。その後、議論を経て、「歯科診療所における オーラルフレイル対応マニュアル2019年版」では以下の4つのレベルで表現されるようになりました。

第1レベル:口の健康リテラシーの低下
第2レベル:口のささいなトラブル
第3レベル:口の機能低下
第4レベル:食べる機能の障がい


それぞれのレベルに応じて、歯科医療現場に限らず、さまざまな場所であらゆる職種が適切に関わることが重要とされています。

各レベルの定義と必要なアプローチ

「第1レベル:口の健康リテラシーの低下」の多くは、生活範囲の狭まりや精神面の不安定がきっかけとなります。高齢期には社会的な環境も変化し、職場での役割から新たに地域での役割を求められる中で孤立してしまう「社会的フレイル」が起こることがあります。こうしたことをきっかけに、自分の健康への興味が薄れていく段階をいいます。社会的な役割や孤立の問題などは、地域でのアプローチが可能です。
「第2レベル:口のささいなトラブル」は、例えば滑舌の低下や噛めない食品の増加、食べこぼし、むせなど、日常生活の中でちょっとした口の機能低下が現れる段階です。しかし、この口の機能低下はささいであることから、自覚なくいつも通りの日常生活を送っていることが多いです。
「第3レベル:口の機能低下」は、第2レベルが進行することにより、口腔機能の低下がはっきりと現れてくる段階です。サルコペニアやロコモティブシンドローム、栄養障害に陥る段階でもあります。この段階は「口腔機能低下症」と診断名がつく可能性があり、歯科医院での対応が主となります。
「第4レベル:食べる機能の障がい」は、摂食嚥下機能低下や咀嚼嚥下機能不全から、要介護状態、運動・栄養障害にいたるレベルです。「摂食嚥下機能障害」と診断がつく段階であり、専門的な知識をもった医師や歯科医師の対応が必要になります。

要介護や死亡にも関連

オーラルフレイルが盛んにいわれるようになった理由は、オーラルフレイル予防が身体的なフレイル予防にも大きな意味を持つからです。
ある調査では、オーラルフレイルに該当する人は、2年間の身体的フレイルの発生が2.41倍、サルコペニアの発生が2.13倍、45ヶ月間の要介護認定が2.35倍、死亡の発生が2.09倍になることが明らかになっています。つまり、口の機能低下を予防することは、フレイルやサルコペニア、要介護状態や死亡の発生を抑えることにもつながる可能性があるということです。身体的フレイルが、要介護や死亡リスクとなることはすでに報告されていますが、全身のフレイルや身体能力の低下に先立って、オーラルフレイルが要介護や死亡に関連することがわかり、その重要性はますます注目されるようになりました。

多職種が「口の機能の衰え」を拾う目をもつ

もともとオーラルフレイルの概念は、さまざまな医療・介護の現場において「口腔のささいな機能低下を見逃さない」ことを目標に作成された経緯があります。オーラルフレイルは各レベルで、適切な対応を取れば改善が可能です。これまで老化、廃用と捉えられていた口の機能低下に多職種が気づき、改善できるように対応していくことで、フレイルサイクルに陥りかけている人を救出できるとしたら、素晴らしいことではないでしょうか。中でも、「食べる」ことについて専門的な知識を持ち、地域から医療現場まで幅広いフィールドにいる管理栄養士は、オーラルフレイルを予防するうえで鍵となる存在だといえるでしょう。

 

参考文献
・日本歯科医師会:「歯科診療所における オーラルフレイル対応マニュアル 2019 年版」、日本歯科医師会HP、https://www.jda.or.jp/dentist/oral_flail/pdf/manual_sec_01.pdf(閲覧日:2020年12月9日)
・Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018.10;73(12):1661-1667.

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      1409日前

      口腔機能はフレイルの予防における重要なキーワードとして注目されています。オーラルフレイルと栄養のシリーズでは、介護予防・フレイル予防の実践の土台となる新たな視点のオーラルフレイルについてをイートリスタの道盛さんに解説していただきます。

      拍手 1

WRITER

フレイル予防は口から!「オーラルフレイル」の重要性①

道盛 法子

予防歯科で働く管理栄養士です。 新卒で3年ほど出版社で編集・記者として勤務し、その後予防の活動に現場で関わりたいとの思いから転職しました。歯科は、すべてのライフステージに関わることができ、食を切り口にした予防活動にも最適な場だと感じています。 管理栄養士の視点で歯や口のあれこれをお伝えできればと思います!

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