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- 歯科と栄養
- 2021.02.08
フレイル予防は口から!「オーラルフレイル」の重要性②
前回のコラムに引き続き、オーラルフレイルの重要性について解説していきます。
オーラルフレイルがフレイル対策の最重要課題と位置づけられているのは、口腔の問題が低栄養に陥るきっかけになっていることが多いためです。「歯の喪失」と「摂食嚥下機能」の2つの視点から低栄養リスクを考えます。
フレイルと口腔機能
「フレイル」とは、加齢に伴い心や体が徐々に弱り、病気になりやすくなり、要介護の状態へ近づいていく途中の状態をいいます。フレイル高齢者の割合は、65~74歳の前期高齢者では5%にも満たない割合ですが、75~84歳では15%を超え、85歳以上になると30%以上が該当すると言われています。
フレイルの原因の一つに口腔機能の低下があると言われています。口腔機能の低下により、食事摂取量が低下し、栄養量が減ったり、偏ったりすることで低栄養となり、体重減少、サルコペニアを経て、基礎代謝の低下、歩行速度の低下といったフレイルサイクルに陥り、要介護状態に至ると考えられています。
「歯の喪失」によって起こる栄養の偏り
「口腔機能の低下」は、具体的にはどのように低栄養と関連するのでしょうか。ここでは咀嚼能力に影響の大きい「歯の喪失」と、食塊形成や飲み込みといった「摂食嚥下機能」との関連について考えてみます。
「歯の喪失」すなわち歯の本数が少なくなると、栄養摂取バランスが悪くなり、過栄養や低栄養を引き起こします。ある研究では、歯の本数が19本以下の人は20本以上ある人に比べて、肉や魚、野菜、果物の摂取が少なくなり、米や菓子類の摂取は多くなるという結果が得られています。食事でのたんぱく質、ビタミン類の不足、炭水化物や脂質の過多が常態化し、高カロリー、低たんぱく、低ビタミンの栄養状態となることにより、肥満やサルコペニア、フレイルを招いてしまうのです。
歯は、前歯から奥歯まで全部で28~32本あります。そのうち、先に失われることが多いのは奥歯(臼歯)です。歯の本数が少ない人が噛みごたえのある肉や魚、野菜、果物といった食品の摂取が少なくなるのは、食べ物を咀嚼しすり潰す役割をもつ臼歯の有無が影響していると考えられます。
噛めない食品が増えることによる食欲や食品の多様性の低下、それに付随して口腔機能の低下(噛む力の低下、舌や頬の機能低下など)が進むこともまた、低栄養やサルコペニアのリスクを高めることになります。
摂食嚥下機能と低栄養
摂食嚥下機能に障害がある場合も、低栄養のリスクが高まることがわかっています。国内外の複数の研究から、在宅、施設入所のいずれの現場でも、摂食嚥下機能の障害は低栄養の重要なリスク因子となっており、食事摂取量や水分摂取量を調整しても、そのリスクは有意に高いとされています。したがって、摂食嚥下機能を維持することは低栄養予防に重要といえます。
摂食嚥下機能に低下が見られる段階では、その人の口腔機能などの状態に応じて、噛みやすく安全に飲み込める形態に配慮する必要があります。ただし、噛みやすい、飲み込みやすい食形態になるにつれて、料理の水分量が多くなるため、料理そのもののエネルギーや栄養素の量は常食に比べて少なくなります。そのため、無理なく食べられて、必要なエネルギーや栄養素を満たすには、栄養補助食品の利用など専門的な工夫をしていくことが大切です。
「よく噛み食べる機能を維持する」栄養ケア
オーラルフレイルの初期段階である関心の低下や軽微な変化などは、当人や周囲の家族には見過ごされがちです。食事もとれていて口のことで困ってもいないため、特に問題ないと考えられることが多いです。歯の喪失や、食べこぼし、むせといった口腔機能の低下を「年齢によるものだから仕方がないこと」と捉えている人も少なくありません。
また、後期高齢者であってもなお体重を2~3kg減量しなければいけないと考えている人もいます。そういった場合も、食べる量が減ってきたことに対する危機感が持たれにくいと考えられます。高齢期のフレイル予防の考え方は、中年期のメタボ予防とは考え方が異なるため、栄養管理の方向性も適切な時期に“ギアチェンジ”が必要です。
健康に対する意識や概念は人によってさまざまで、なかには誤認されていることもあります。指導の場では、個人の認識を踏まえたうえで正しく導くことが求められます。
さらに、高齢者に栄養的なアプローチをする際、せっかく栄養バランスを考えた食事を作っても「食べられない」という問題に直面し、歯がゆい経験をされた方はいないでしょうか。高齢者のかみ合わせ、入れ歯の具合のほか、舌の動きや舌の力、唾液の分泌などの状態は多様で複雑なことが多いです。フレイル対策における栄養と歯科の連携の強化は急務だと言えます。
栄養と「噛む機能」の維持
オーラルフレイルは、その段階に応じた取り組みや専門職の適切な介入によって改善することも可能です。口腔機能の低下は、加齢により起こりやすいことは確かですが、「自然な老化現象」と思って放置せず、普段から①口の健康に気をつける、②歯医者での定期的なチェックを受ける、③食事の栄養バランスに気をつける、④よく噛める食事の工夫、といった日頃からの心がけを伝えていくことが大切です。
食事をとり、栄養を摂取することは、生命を維持して生活を送るために欠かすことはできないものであり、フレイル予防の根本とも言えます。口腔機能を維持し、よく噛めるようにすることは、栄養士・管理栄養士が伝える健康的な食生活の実践を支える土台となります。オーラルフレイルにおける栄養の取り組みは、歯科との連携に鍵があると言っても過言ではありません。
参考文献
・日本歯科医師会:「歯科診療所における オーラルフレイル対応マニュアル 2019 年版」、日本歯科医師会HP、https://www.jda.or.jp/dentist/oral_flail/pdf/manual_sec_01.pdf(閲覧日:2021年1月9日)
・牧迫飛雄馬:「老化とフレイル―早期発見と効果的介入をデータから考える―」『理学療法の歩み』、2017年 28 巻 1 号3~10ページ
・深井護博:「健康長寿のための口腔保健と栄養をむすぶエビデンスブック」、医歯薬出版、(2019)
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・嚥下障害の方への指導 -より効果的な時間にするために-
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みんなのコメント( 1 )
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- Eatreat 編集部
- 1382日前
オーラルフレイルの重要性についてイートリスタの道盛さんが解説するシリーズ第二回目です。今回は、「歯の喪失」と「摂食嚥下機能」の2つの視点から低栄養リスクを考えます。
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WRITER
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道盛 法子
予防歯科で働く管理栄養士です。 新卒で3年ほど出版社で編集・記者として勤務し、その後予防の活動に現場で関わりたいとの思いから転職しました。歯科は、すべてのライフステージに関わることができ、食を切り口にした予防活動にも最適な場だと感じています。 管理栄養士の視点で歯や口のあれこれをお伝えできればと思います!
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