COLUMN

メキシコで生活をしていると、嬉しいことに「日本が好き」と言ってくださるメキシコ人にお会いする機会は珍しくありません。
「日本の何が好き?」と質問すると、「日本文化、日本食、マンガ・アニメ…」と人それぞれですが、日本のマンガ・アニメは人気が高く、今では日本文化の1つとして欠かせないと感じます。

日本マンガの歴史

歴史を辿ると、12世紀半ばから13世紀前半にさかのぼり、持ち味の違う複数の画家の作品を寄せ集めた「平安・鎌倉期の戯画集成」「鳥獣人物戯画」が、日本最古のマンガとされています。擬人化されたサル・カエル・ウサギなどの姿を滑稽に描いたもの、人物戯画も収められていて、既に古代から中世にかけて「マンガ的表現」が日本で登場していたことを意味するものとして名高く、明治32年に国宝指定されています。
戦国時代が終息した江戸時代以降、日本人の識字率や読書欲の高まりと共に出版業界が活発化し、江戸時代の戯画・浮世絵、明治時代の風刺一枚絵、大正時代の4コマまんがなど、時代ごとの主流が現代のストーリーまんがに合流していきました。

日本アニメの海外進出

日本のテレビアニメの海外進出は北米からスタートしました。1963年から「Astro boy(鉄腕アトム)」が全米のネット局で放映され好評だったことから次々と作品が輸出され、欧米各国、アジア・南米・サウジアラビア・ロシアなど世界中で放映されるようになりました。
1990年代のはじめ、フランスではテレビの子ども番組の9割が日本のアニメだった時期があったそうです。
最近40歳のメキシコ人から、幼い頃テレビで「キャンディキャンディ」を観ていたと聞き、身近なアニメが世界中で放映されていたことを知って驚きました。

日本マンガを翻訳する難しさ

アニメから少し遅れてマンガも海外進出しますが、多言語に翻訳する際「タテ書き右開きの日本マンガをヨコ文字左開きのフォーマットにどう落とし込むか」「日本独特のオノマトペ(擬音語・擬声語・擬態語)をどのように翻訳するか」「その時代の流行語を、日本語や日本文化を理解しながら多言語の読者にどう伝えるか」など、一筋縄ではいかない作業の繰り返しがあったそうです。
確かに普段何気なく使っている日本語を意識してみると、「雨音」を表す擬音語ひとつ取っても「しとしと」「ぽつぽつ」「パラパラ」「ザーザー」など多彩な表現があることに気づきます。

メキシコでも年々一般的になる日本アニメ

紆余曲折を経て、2014年にイタリアの出版社Panini Comics社によりメキシコで日本のマンガの販売がスタートし、軌道に乗りました。同時期にメキシコで生活を始めた10年前と比較すると、年々日本の漫画本や食材コーナーのスペースを広げる店舗が確実に増えています。
「アニメのキャラクターが食べる日本食を実際に食べてみたい!」というニーズに応えて串団子、たこ焼き、たい焼き、ソフトクリーム、ラーメン、おにぎり、ラムネなども人気があるようです。

日本文化や日常生活を伝える有効な手段として

ドイツのケルン日本文化会館(国際交流基金)の手塚館長(任期2011‐13)が「日本の旧来の伝統文化の紹介では少数の上流階級や知識階級が中心だった観客が、マンガ・アニメをテーマにすると幅広い大衆層へと広がり、親子連れを中心に多くのヒトがイベントに押し寄せる」と言われた通り、メキシコでも日本のマンガ・アニメは食だけでなく、日本の文化や生活を伝える有効なツールになっていると感じます。アニメのキャラクターを通して日本に興味や好感を持ち、「日本語を学びたい」「いつか日本に行ってみたい!」というメキシコ人は少なくありません。

クール・ジャパンのひとつとして

1990年創刊「NARUTO」の主人公のナルトは、2006年10月17日号特集「ニューズウィーク日本版・世界が尊敬する日本人100」の中で唯一選出されたアニメキャラクターとして話題を呼びました。
海外から見た日本の魅力を積極的に発信することで日本の市場価値を高め、国全体の成長に繋げる経済政策「クール・ジャパン」でも、アニメ・マンガが採用されています。日本生まれのマンガ・アニメのキャラクター達は日本や日本人のイメージアップに貢献し、私たち日本人がメキシコで生活しやすい環境作りに貢献してくれているのかもしれません。



参考文献
・澤村修治:「日本マンガ全史」「鳥獣戯画」から「鬼滅の刃」まで、平凡社新書(2020年6月15日)
・メキシコにおけるマンガの旅とパニーニの登場
El recorrido del manga en México y la aparición de Panini Artes (elciudadano.com)
・メキシコにおけるマンガとその普及
Redalyc.El manga y su divulgación en México





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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
      19時間前

      メキシコ在住の管理栄養士 宮内千奈美さんにメキシコにおける日本のアニメ文化の影響について教えていただきました。

WRITER

宮内 千奈美

2004年-2006年まで中米ホンジュラスで栄養士隊員として活動し、日本では主に病院を中心に臨床栄養に携わってきました。 現在はメキシコシティの恵光日本文化館(恵光寺)に勤務しながら、心も身体も健やかに保てるような食と栄養に関わる情報発信を継続しています。

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