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- 給食・大量調理
- 2016.12.09
食の安全と微生物①
私たちの身のまわりにいる微生物
日本人の食卓に欠かせない調味料であるお味噌やお醤油、お酒。私たちの食卓をおいしく豊かにしてくれるこれらの調味料は目に見えない微生物の働きによって、作られます。しかし、私たちのまわりには、ありがたい働きをする微生物だけでなく、逆に困った働きをするものもいます。その困った働きの一つが食中毒です。
例えば、微生物を原因とした食中毒は毎年発生しています。厚生労働省が公表している平成27年の「食中毒統計調査」によると、食中毒の発生件数の88%は、原因が微生物によるものでした。
食中毒の原因になる微生物には、細菌、菌類、ウイルス、微細藻類、原生動物などがあり、目に見えず、空気中、水中、土の中、海、動物や植物、私たちの体内と、いたるところに存在します。それぞれに適した環境があり、その環境にあるときに増殖をします。腐敗している場合は、においや、見た目で微生物の増殖に気づくことができますが、少ない菌数でも発症する場合には、見た目やにおいなどで微生物の増殖に気づけないことが多くあります。
食中毒の原因となる微生物とは?
近年、件数が多い食中毒は、ノロウィルスとカンピロバクターです。どちらも少ない菌数で食中毒を引き起こし、見た目やにおいなどの人間の感覚では判断ができません。鮮度も大切ですが、残念ながら鮮度は安全性の根拠にはなりません。 平成28年のゴールデンウィークに実施された食イベントで、加熱が不十分な鶏肉を原因としたカンピロバクターによる食中毒が発生しました。こちらの事例は、十分に加熱するなど適切に衛生管理がされていれば、防ぐことができたケースのひとつです。
また平成28年の10月には、冷凍メンチカツにより17件もの腸管出血性大腸菌の疑いのある食中毒が発生しました。これらメンチカツから腸管出血性大腸菌O157が検出され、商品は自主回収されました。これらは未加熱のメンチカツを凍結した製品で、家庭で加熱調理するものでした。腸管出血性大腸菌O157は、牛ひき肉中では凍結しても生残することが報告されています。死滅させるには、中心部まで75℃で1分間加熱することが必要です。
肉の生食による食中毒のリスク
日本では、以前から肉の生食や十分な加熱に関して様々な注意喚起が行われてきました。平成23年に、ユッケ等が原因とされた焼き肉チェーン店の食中毒事件が発生し、平成24年7月、安全性が確保されるまで生食用牛レバーの販売・提供が禁止されました。
しかし、その後豚レバーを生食用として提供する飲食店が現れました。豚肉やレバーなどの生食は、E型肝炎ウイルスや食中毒菌、寄生虫によるリスクがあることから、平成27年6月、豚の肉や内臓(レバーなど)も生食用としての販売・提供が禁止になりました。
現在も引き続き、食品安全委員会、農林水産省、厚生労働省から、生肉についての情報提供や注意喚起がされていますが、相次いで生豚レバー、生牛レバーを提供した飲食店経営者の逮捕者がでています。
また、最近では野生鳥獣の食利用が進んでいることから、厚生労働省では、野生鳥獣についても同様に注意喚起を行なっています。
食中毒を防ぐためには、食材の生産地、処理加工場、流通、調理、そして食卓に並び、私たちが食べるまで、食品に関わるすべての人が、微生物に対し適切な知識を持ち、対策を行う必要があります。食に関わる人は、人の命を奪ってしまうかもしれないということを意識すべきでしょう。食中毒から、自分の健康、家族の健康を守るためのボーダーラインは、正しい知識の習得と毎日の衛生管理にあるのではないでしょうか。
参考資料
厚生労働省 HP 食中毒統計資料 平成27年(2015年)食中毒発生状況
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
厚生労働省
冷凍メンチカツによる腸管出血性大腸菌食中毒(疑い)事案について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000141776.pdf
食安発0 7 0 6 第1 号 生食用牛レバーの取扱いについて
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syouhisya/110720/dl/120625_01.pdf
食安発0602第1号 食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/150602hp_1.pdf
食安発1114第1号 野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000065509.pdf
厚生労働省 腸管出血性大腸菌Q&A
http://www1.mhlw.go.jp/o-157/o157q_a/index.html
食品安全委員会 食品健康影響評価のためのリスクプロファイル 牛肉を主とする食肉中の腸管出血性大腸菌(平成22年4月改訂)[PDF]
https://www.fsc.go.jp/sonota/risk_profile/risk_ushi_o157.pdf
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中本 絵里
日本糖尿病療養指導士・シニア野菜ソムリエ
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