みなさんはリステリアという細菌をご存知ですか? リステリアは食品を介して感染する食中毒の原因菌の一つです。ただ、潜伏期間が24時間〜3か月と長いために、原因となった食品の特定が難しく、国内では食中毒としての報告事例がないこともあって、一般的には認知されていないのが現状です。
また国内では、リステリアは感染症法上の報告義務がないため、実態を把握することは困難です。ですが、妊婦が注意すべき食中毒菌でもあるので、ここでご紹介したいと思います。
妊婦が注意すべき細菌、リステリア
リステリア・モノサイトゲネス(以下「リステリア」)は、河川水や下水、飼料、動物の腸管内など環境中に広く分布する細菌です。広く分布しているため、じつは様々な食品が汚染されている可能性があります。
サイズは長さ0.5〜2マイクロメートル、幅が0.5マイクロメートルで、形は棒状、周りに1〜5本の鞭毛をもっています。発育温度は0〜45℃と幅広く、その中でも30〜37℃が最も繁殖しやすい温度条件です。
健康な人はリステリアに感染して重症化することはまれですが、妊婦、高齢者の方は注意が必要です。食品由来によるリステリア症は年間100万人あたり0.1〜10人が発症しているといわれています。感染数は多くありませんが、重症化すると致死率が高い疾患のため、世界保健機関(WHO)においても注意喚起が行われています。
リステリアによる食中毒の発症リスク
リステリアは、他の一般的な食中毒菌と同様に熱に弱く、加熱によって死滅しますが、4℃以下の低温や、12%食塩濃度下でも増殖できる点が特徴です。
一般的には食品を冷蔵庫で保存したり、塩漬けにすれば、食中毒菌が増えないと思われがちですが、このような条件でもリステリアは増殖し、食中毒の原因になる恐れがあります。
ただ、健康な成人では、多くのリステリアを摂取しなければ発症しないため、消費期限や保存方法を守っていれば、食中毒が発生するほどの菌数にはなりません。
また発症しても、軽症で自然に治るとされていますが、リステリアに感染したときの症状の重篤度には個人差があります。悪寒、発熱、筋肉痛などインフルエンザなどの他の感染症と区別が難しい場合や、敗血症、髄膜炎、中枢神経系症状などを引き起こす場合(リステリア症)もあるため、注意が必要です。
妊婦は、免疫力が通常よりも低下しているため、リステリアへの感染リスクが高まります。また、感染した場合は胎児へも影響がでることがわかっています。
次回は、妊婦におけるリステリア感染の影響と予防方法についてご紹介します。
次回のコラム>>妊娠中に注意したい食中毒②〜リステリア感染の予防法〜
参考文献
食中毒 伊藤武 汐文社 2014
リステリアによる食中毒について 食品安全委員会
イラスト図解 見て読んで納得!!!ウイルス・細菌・カビ−微生物の働きや影響がわかる!ミクロの世界で暗躍する生命のフィクサーを徹底解剖!−畠山昌則 日東書院 2013
リステリア・モノサイトゲネスに関するQ&Aについて 厚生労働省
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