「赤ちゃんができたのはうれしいでのですが、病院で妊娠糖尿病と診断され、どうしたらいいかわかりません。家族にも話せません。」
栄養指導室にはじめていらっしゃる妊娠糖尿病のお母さんたちは、現状が受け止めきれないけれども、自分が何とかしなくてはいけないと、責任を全部背負っています。その気持ちがなによりも母親になった証です。なんでもむずかしく考えすぎると、好きなことも嫌いになってしまって苦しくなります。相談にいらっしゃったお母さんには、まずは肩の力を抜いてもらい、ゆっくりと妊娠糖尿病について理解していただく必要があります。
それでは、妊娠糖尿病はどういう病気なのかをみていきましょう。
妊娠糖尿病とは?
妊娠糖尿病はGDM(Gestational diabetes mellitus)と呼ばれます。母親が食べたり飲んだりしたものは、胃で消化されたあと、小腸で栄養が吸収されて血液に入り、胎盤から臍帯を通じて赤ちゃんに運ばれていきます。母親が摂取したブドウ糖も赤ちゃんのエネルギーとして使われます。母体は赤ちゃんに効率よくエネルギーを運ぶために、胎盤からのホルモンなどの作用によって、母体がブドウ糖を取りこみ過ぎないように調整しています。その結果、血液中のブドウ糖が多くなってしまうのです。
通常であれば、血糖値が上がってもインスリンというホルモンの作用で、血液中のブドウ糖は体に取り込まれ、一定の数値でコントロールされていますが、妊娠すると、インスリンの働きがおさえられ、血糖値の調節がうまくできないことが出てくるのです。
ブドウ糖をエネルギーに変換する能力のことを耐糖能と呼びます。妊娠糖尿病とは、妊娠をきっかけとした軽度の耐糖能異常のことを指します。重度の耐糖能異常の場合には、妊娠中に診断された糖尿病として区別されます。
75gブドウ糖負荷試験※による妊娠糖尿病の診断基準
※75gのブドウ糖水溶液を飲み、空腹時から血糖値がどのように推移するかを調べる検査
①空腹時血糖:92mg/dL以上
②負荷後1時間の値:180mg/dL以上
③負荷後2時間の値:153mg/dL以上
この①~③のいずれか1つに当てはまる場合に、妊娠糖尿病と判断されます。
妊娠糖尿病の赤ちゃんへの影響
母親の血糖が高くなると、母体だけでなく、赤ちゃんにも影響がでやすくなります。
母親:羊水過多症・妊娠高血圧症候群・流産・早産など
赤ちゃん:巨大児・低血糖・高ビリルビン血症・糖尿病・肥満など
母体の血糖が上手にコントロールできれば、赤ちゃんへの影響もずっと少なくなります。
妊娠中の血糖基準値
空腹時血糖値:70~100mg/dL
食後2時間値血糖値:120mg/dL未満
HbA1c:6.2%未満
妊娠糖尿病の場合の食事
妊娠糖尿病では食後の高血糖が起こりやすいとされています。このため、食べる量は変えず、1日に5~6回に分けて食べる、『分割食』が有効な場合があります。食事の間の時間は2時間半ぐらいあけるのが理想的です。朝食が7時の場合、間食は9時半~10時、昼食は12~12時半、間食は15時ごろ、夕食は19~19時半、間食は21時ごろといった具合に組み立てていきます。食事の時間を決める際に重要なのが、『いつ起きるか』ということです。まずは、朝の起床時間が不規則にならないように計画を練ることが必要です。
妊娠糖尿病の食事 〜間食〜
間食での食事はクラッカーやビスケット1袋、ふかし芋や、小さいおにぎりでもOKです。朝・昼・夕の食事では、主食やいも類、そして乳製品や果物を控えめにして、その分を間食として補います。間食1回のエネルギー量は80~120キロカロリーにすると分かりやすいでしょう。
80~120キロカロリーの目安量
9時半~10時:クラッカーまたはビスケット1袋やコーンフレーク20gに牛乳100ml
15時頃:おにぎり40gを2個、ふかし芋90g、そうめん30gのいずれか
21時頃:レーズンロール40g、レーズン玄米ブラン(クリームが入っていないもの)1袋のいずれか
※ここに示してあるのは、ほんの一例です。
最近は、糖がゆっくり吸収される低GI食品がたくさん販売されています。商品の表示をみて、新しい商品を探してみてください。
妊娠糖尿病の食事 〜朝・昼・夜〜
朝・昼・夕の食事も、はじめはシンプルなものでかまいません。食事の基本は、一汁三菜とよく言われますが、まずは、主食のご飯と具だくさんのおかずを揃えてみることからスタートしてみましょう。そして余裕がでてきたら、主菜、副菜と揃えていきます。そうすると、だんだん食物繊維も取れてきます。『栄養のバランスが良い食事』というと、専門的な知識が必要と思われがちですが、彩りのきれいな食卓にするだけでも大丈夫です。赤・黄・緑・白・茶の5色がそろえば完璧です。毎回の食事を彩りよく揃えるのは無理でも、常に心がけておくということが重要です。
食べる順番も血糖のコントロールに有効です。食物繊維が多い野菜類から食べはじめ、続いて主菜、主食とすすめていくことで、糖の吸収が緩やかになります。
妊娠糖尿病の食事 〜コンビニ・外食〜
妊娠中も働いている場合には、外食が多くなってしまいますが、コンビニでは、雑穀米や蒸し鶏や卵の入っているサラダを選びましょう、汁物は汁を半分残して減塩対策をしたりするだけでも大丈夫です。菓子パンは高カロリーで栄養は少ないので控えた方がいいでしょう。
きちんとごはんやパンを食べられる時は、春雨スープを豆腐の味噌汁へ変えてみてください。サンドイッチは野菜たっぷりのミックスサンドイッチを選び、カットフルーツやヨーグルトをあわせるといいでしょう。外食の場合、イタリアンではペペロンチーノよりもペスカトーレを選び、サラダをあわせてください。そば屋さんでは鴨南蛮を選ぶのがおすすめです。外食は、どうしても栄養が偏りがちです。特に、良質なたんぱく質やミネラル・ビタミンが不足しやすくなります。
妊娠糖尿病で気をつけてほしいこと
妊娠糖尿病で一番気をつけて欲しいことは、血糖が上がるのが怖くて食事量が少なくなってしまうことです。赤ちゃんは母親の食べたもので育ちます。必要以上に食事の量を減らし過ぎないように気をつける必要があります。
妊娠中のお母さんは精神的に不安になることが多くなりますので、お父さんの家事の支援も重要となります。具だくさんの料理を1品マスターしてもらえるだけでもありがたいものです。妊娠中のお母さんにとっては最高のプレゼントになるでしょう。
最後に、妊娠糖尿病のお母さんは、将来、糖尿病になりやすい傾向があります。お母さんは自分の身体を、二の次三の次にしてしまいがちですが、出産後も食生活に気をつけながら、健康診断は定期的に、継続して行うことをおすすめします。
科学的根拠に基づく糖尿病治療ガイドライン2013 南江堂
妊娠糖尿病の定義と診断基準 日本産科婦人科学会、日本糖尿病・妊娠学会
糖尿病治療ガイドライン 2014-2015 日本糖尿病学会編
糖尿病ライブラリー 糖尿病と妊娠 アークレイ 2013
妊娠中の食事 細川モモ・宇野 薫 主婦の友社 2016
赤ちゃんすくすく時期別妊娠中の食事 笠井靖代・佐藤真之介 西東社 2016
妊娠&授乳中のごはん150-おいしい症状別レシピ- 岡本正子 日東書院 2009
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