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第40回日本栄養治療学会学術集会(JSPEN2025)が、2025年2月14日~15日の2日間にわたり、パシフィコ横浜ノース全館、アネックスにて行われました。今回は、栄養治療学会という新名称になって初めての学術集会でした。
このコラムでは、特別企画でも取り上げられたGLIM基準についてご紹介します。

GLIM基準について

世界の主要な臨床栄養学会が協力し「Global Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM)」
として、新しい低栄養の基準が提唱されました。低栄養は治療効果を下げ、合併症のリスクを上げる一因です。医療機関では、低栄養が重大な課題であるにも関わらず、国際的な基準が定まっていなかったため、対策が遅れていました。世界共通で認識できる低栄養基準を設けることで、効果的な栄養治療ができることが期待されています。
診断方法は、栄養スクリーニング(MUST、NRS-2002、MNA-SFなどを使用)を行い、抽出された対象者にGLIM基準に沿って、アセスメントを行います。アセスメント方法は、表現型基準(意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少)に加え、病因基準(食事摂取量減少/消化吸収能低下、疾患負荷/炎症)の両者に該当した場合、低栄養と診断されます。

管理栄養士が取り組む導入事例

講演の中で、管理栄養士による導入事例の紹介がありました。
その病院はNSTでは介入せず、病棟担当の管理栄養士が病棟業務の一つとして行っていました。まず、看護師がMUSTを使い担当患者全員のスクリーニングを行います。その中から、リスクがあると認められた対象者に、管理栄養士がGLIM基準でアセスメントを行います。筋肉量評価には、ベッドサイドでも使用できるポータブル体成分分析装置「ラチェッタ(テルモ株式会社)」を使用し、安静が必要な患者や歩行困難な患者にも測定ができるよう対応していました。低栄養と診断された対象者には早期にONS※1などを開始し、1週間後に再評価をする、という流れで実施していました。

※1 ONS:経口的栄養補助

GLIM基準の課題

・使用するスクリーニングによってばらつきが出る
栄養スクリーニングは、それぞれ特徴が異なるため、何を用いるかによって、抽出にばらつきが出てしまうことが課題です。その病院に沿ったものを使用することが望ましいです。
また、現段階では、スクリーニングとアセスメントが混同している病院も多くあるため、導入には、病院全体でのシステム作りが必要です。

・筋肉量の評価が難しい
筋肉量を評価するためには、CT法、DXA法、BIA法、下腿周囲長などの身体計測法などの方法があります。まずは測定できるデバイスの用意が必要です。次に、デバイスごとのカットオフ値を決めなければなりません。このカットオフ値の設定が課題であると、多くの演題者から聞かれました。GLIM基準では、下腿周囲長の目安として男性<33cm、女性<32cmと記載がありますが、アジア人にそのまま適用してよいか、さらにはその病院の特性を考慮できているか、などを検討する必要があります。急性期、回復期による違いなど、病院によってカットオフ値は慎重な設定が求められています。

まとめ

今回の学会ではGLIM基準に関する演題が多くあり、参加者も多く注目の高さがうかがえました。
GLIM基準という世界共通の低栄養基準が提唱されましたが、人種、さらには病院ごとに適した方法を検討する必要があると感じます。そのために管理栄養士として、院内での低栄養の普及と正しく診断できる体制作りに努めたいと思いました。



参考文献
・一般社団法人 日本栄養治療学会 「GLIM基準値について」
https://www.jspen.or.jp/glim/glim_overview  (閲覧日:2025年3月5日)
・テルモ株式会社 「テルモ、医療用ポータブル体制成分分析装置「ラチェッタ」を発売
https://www.terumo.co.jp/newsrelease/detail/20240430/10281 (閲覧日:2025年3月5日)




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【学会レポート】第40回日本臨床栄養代謝学会学術集会(JSPEN2025)

石坂 貴子

大学を卒業後、食品メーカーに入社し、病院、介護施設向けの栄養補助食品の営業をしていました。その後、急性期・回復期病院にて7年間勤務。栄養相談を通して、もっと食の正しい知識の普及、悩みに寄り添いたい、という思いから、フリーランスに転向。 現在は糖尿病を始めとした生活習慣病の栄養指導、ダイエットの相談、コラム執筆などにて活動中です。

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