• COLUMN

2024年7月13日、14日に第11回 日本在宅栄養管理学会学術集会が愛知県名古屋市のウインクあいちにて行われ、在宅医療・介護の従事者が延べ1200名集いました。

医療・介護の複合ニーズが高まる現場

今学会は『在宅医療にかかわる栄養専門職として未来を築こう〜すべての人々のしあわせを栄養・食事のちからで持続可能に〜』をテーマに開催されました。
団塊の世代が75歳以上となる2025年をまもなく迎えます。また、人生100年時代の到来で「治す医療」から「支える医療」へとパラダイム転換を迫られています。そんな中、住み慣れた地域等で最期まで暮らすためには「栄養・食事」が鍵となります。しかし、在宅患者訪問栄養食事指導(または管理栄養士による居宅療養管理指導)は多職種と比較できないほど、算定回数が少ない現状があります。実践する管理栄養士をいかに増やし、地域で展開し、多職種連携を行って行くことが求められています。

6年に1度のトリプル改定

令和6年度、診療・介護・障害福祉サービスの同時改定が行われました。2040年に生産年齢人口(現役世代)の急減を迎えるとともに、日本における死亡者数のピークとなることで、医療・福祉の人材も不足することが予想されています。医療においてはより「生活」に配慮した質の高い医療を、介護においてはより「医療」の視点を含めたケアマネジメントが必要とされ、今回の診療報酬改定では患者が可能な限り早く、住み慣れた自宅・施設に復帰できるよう機能分化・強化と、効果的・効率的な提供体制の整備がされました。
「今後、在宅医療や訪問栄養食事指導の需要の増加が見込まれる中で、人材育成とエビデンスの構築が急務」と厚生労働省保健医療課の日名子課長補佐は話されました。また「国が訪問事業に力を入れ、今回の診療報酬改定では在宅訪問栄養の歴史を変えるきっかけになりうる。食べる問題をあらゆる角度から本人に寄り添って考えることができる管理栄養士に強く期待している」と日本在宅ケアアライアンス武田副理事長が話されていました。

高齢者の現状

要介護者の7割が低栄養または低栄養のリスクがあるとの報告があります。また、近年高齢者の緊急搬送が増えています。その原因には肺炎や骨折が多い現状があり、そのどちらにも低栄養が関わっていると言っても過言ではありません。高齢者は10日間の入院で7年の老化をすると言われ、入院関連機能障害がおこり高齢者にとっては入院自体がリスクとなります。医療法人社団悠翔会の佐々木医師は「在宅で管理栄養士ができることは、一次予防としての食事の支援が重要でそれにより急変を減らすことと、退院してきた後の早期介入が必要で退院直後の2週間がポイント。日本人は食に対する投資をもっと行ってほしい」と話されました。

ACP と食支援

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、将来の変化に備え、将来の医療およびケアについて患者さんを主体に、そのご家族や医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。ACPの中で欠かせないのが食の選択です。ACP決定の流れには「ホップ・ステップ・ジャンプ」の3段階があり、日常の会話(ホップ)で信頼を作り、対話(ステップ)を行い、議論・ACP(ジャンプ)と一つずつステップを重ねていくことが大切です。急にACPを持ち出しても患者さんやご家族は混乱して決められないため、日頃の会話からはじめ、ステップアップする必要があると社会福祉法人四ツ葉会の大河内主任ケアマネージャーは話されていました。「お食い初め」の反対語として、「お食い締め」があるとも話され、口から食べることができなくなった時に患者さんもご家族も受け入れやすい言葉だなと感銘を受けました。
医療法人かがやき総合在宅医療クリニックの安田管理栄養士からは「そもそも何が好きなのか、どんな食習慣があるのかの人生における食の物語があります。『いーとかーど』と呼ばれる食行動・習慣が記載されたカードを用いて、ゲームを通じて価値観を共有し、継続的に何度もACPについて話し合って行く事が大切」とお話がありました。

在宅訪問栄養に関わる管理栄養士の課題

静岡県立大学の新井教授は「管理栄養士の業務でもスキルや知識の向上以上に、“ニーズ”への対応力が大切で、マネジメントやマーケティングの視点も今後は必要」と話されていました。「他職種連携が大きな鍵となるが、その前に地域の管理栄養士間の同職種連携も欠かせない」と日本栄養士会の中村代表理事会長の言葉が印象的でした。「最期まで地域で暮らすための食支援のために地域、他職種と連携・協働して栄養ケアマネジメントができる管理栄養士の育成が喫緊の課題。本当に、今やらなければいつやるの!」と日本在宅栄養管理学会の前田理事長は声を大にして会場に投げかけていました。

在宅栄養にかかわる栄養専門職としての未來につながる内容の2日間の学会でした。
次回の第12回日本在宅栄養管理学会は2025年6月21日(土)、22日(日)に東京の大妻女子大学で開催されます。




関連コラム
第27回日本病態栄養学会年次学術集会 参加レポート
【学会レポート】第44回日本肥満学会・第41回日本肥満症治療学会学術集会



コメントを送ろう!

「コメント」は会員登録した方のみ可能です。

みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      4日前

      24年7月に開催された日本在宅栄養管理学会学術集会の様子を管理栄養士の沼倉真宝子さんに教えていただきました。

      拍手 1

WRITER

第11回 日本在宅栄養管理学会学術集会に参加して

沼倉 真宝子

1日3回、1年で1000回 ​栄養を摂るためだけの食事ではなく、 日常に密着した食生活を一緒に考える。 気軽に相談できる場を創りたい。 個々に合ったライフステージごとの食事を提案します。 病院管理栄養士として14年勤務。総合病院、療養型病院、リハビリ病院、産婦人科病院を経験し様々なライフステージや臨床栄養を習得。栄養管理、給食管理、NST、在宅訪問栄養指導など幅広い業務経験あり。延べ3000人以上の栄養指導を実施。また、離乳食教室を8年主宰し、3500人以上の離乳食相談の経験を積む。指導媒体の作成や、セミナー講師も経験豊富。 プライベートでは、小学生の姉妹を育てるママ。自身の手術、癌で家族を亡くしたこともあり、「育児・闘病・自宅で家族を看る」当事者として同じ目線で、頑張り過ぎない方法を一緒に考えられるのではないか…。そんな経験から、疾病・介護予防や日常の食生活を共に考えられる仕事がしたいと思い2021年夏 独立。 フリーランスとして食育、栄養相談、在宅訪問、料理教室、SNS発信、地域活動など身近な栄養士として活動しています。 気軽に相談ができる場を創り、充実した食生活を送るお手伝いをします。 肩の力を抜きながら、無理なく続けられる食事。一緒に考えてみませんか?

沼倉 真宝子さんのコラム一覧

関連タグ

関連コラム

"イベント報告"に関するコラム

もっと見る

ログインまたは会員登録が必要です

会員登録がお済みの方

ログイン

まだ会員登録をされていない方

新規会員登録

ページの先頭へ