2023年7月15日、16日に第10回 日本在宅栄養管理学会学術集会が大妻女子大学千代田キャンパスにて行われ、多くの在宅医療・介護の従事者が集いました。
人生100年時代を在宅栄養が支える
今学会のテーマは『人生100年時代を在宅栄養が支える~多様化するニーズに応えるために、かかりつけ管理栄養士を目指そう!~』とされ、2025年問題(超高齢化社会)、2040年問題(労働力不足、経済成長の鈍化)について触れました。2040年には65歳以上が人口の8割と推測され、日本は世界に類をみないスピードで少子高齢化が進んでいます。そんな時代を迎えるために、最期まで自分が住み慣れた場所で自分らしく暮らす、地域包括ケアの体制づくりが進められています。日本人の平均寿命は令和4年に男性が81.47歳、女性が87.57歳となり、人生100年を見据える時代が到来します。
治す医療から支える医療へのシフト
医療は病気を治すものとされていましたが、これからは病と共に生きる時代となり「治す・闘う医療」から「支える医療」へと、そして「ものから技術、薬から食へ」とシフトしていきます。
令和6年には医療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬のトリプル改定があり、そして第7次から第8次医療計画へ移行する大きな節目の年を迎えます。自立支援、重症化防止を効果的に行うための取り組みの連携が求められ、医療と介護の連携、多職種連携が重要と多くの発表がありました。特に、栄養、リハビリ、口腔ケアが互いに連携し、三位一体でどう在宅栄養に関わるかがポイントであると多くの演者が訴えていました。
地域包括ケアの鍵となるのが栄養と食事
治らない病気や加齢を支える鍵は栄養や食事です。栄養状態を維持・改善することが、在宅で穏やかに過ごすことには欠かせません。食事には栄養学的側面と精神・社会的側面があり、QOLや社会性を高め、食べる日常や食べる喜びを支えることが管理栄養士には求められます。加齢や疾病により「食べられない、食べたくない」をアセスメントして、多職種と連携しながら食支援をすることが大切です。
「適切な食形態の選択や、ポリファーマシー※1 の確認、食べる姿勢の確認など多職種と情報共有を行いながら、『合わせて・整えて・つなぐ』ことを、管理栄養士が主導権を持って介入していくことが重要」と前田理事長が熱くご講演されました。
※1 ポリファーマシー:必要以上に薬が処方されている、あるいは不必要な薬が処方されていることにより、有害事象が発症する可能性が高い状態
介護食セミナーや企業展示とランチョンセミナー
学会中に3つの介護食セミナーが開催され、実際に参加者たちが介護食の調理実習を行いました。また、29の企業出展があり、さまざまな栄養補助食品や嚥下食のサンプルが配布され試食できたほか、使い方や他社との比較などを質問することもできました。
5つ開催されたランチョンセミナーのうち、伊豆保健医療センター 地域医療部ケア部長の北澤Drのご講演では、アドバンス・ケア・プランニングのお話がとても印象的でした。これからどうして行きたいかの「こころづもり」を確認し、時を過ごすことで揺れ動く「こころがわり」をサポートし、そして食べたいのに食べられない物や、やりたいのにできていないことなどの「こころのこり」がないように支援していく大切さと、若いうちから自分自身に向き合う時間やその習慣が必要とお話しされ、心に残りました。
管理栄養士として求められていること
在宅栄養を行う管理栄養士は、利用者の生活状況や価値観を把握し、豊富な知識と経験を持ち、そして患者や家族、多職種と円滑なコミュニケーションをとることが求められます。管理栄養士は在宅で何ができるのか、相手が何を望んでいるのかを「スリムでシャープでクールに伝える」と前田理事長はご講演されました。令和6年のトリプル改定や8次医療計画では他の職種と並び、在宅医療の土俵に管理栄養士が上がる時が来ます。日々の業務の中で実態把握を行い、成果や数値を記録、研究、発表してエビデンスを出すことが、将来より働きやすく、また効果を出す在宅医療の現場を作り上げると、学会最後のシンポジウムでは締め括られました。
栄養ケアステーションがさらに発展し、地域のハブとしての活躍も期待され、地域で顔が見える関係の、かかりつけ管理栄養士がどんどん増えることを願っています。
在宅栄養の未来を見据えた濃厚な内容の2日間の学会でした。第11回日本在宅栄養管理学会は2024年7月13日(土)、14日(日)に名古屋で開催されます。
関連コラム
・日本ビタミン学会第75回大会に参加して
・第7回日本在宅栄養管理学会学術集会に参加して①