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2023年11月25日(土)から26日(日)の2日間に渡り、宮城県仙台市にある仙台国際センターで第44回日本肥満学会・第41回日本肥満症治療学会学術集会が開催されました。
コロナ禍は、延期になったりオンライン開催、オンラインと現地のハイブリッド開催となったりしましたが、コロナ禍が一段落した今年は、フル現地開催で行われました。
今回は、管理栄養士・栄養士として知っておきたい話題をピックアップしてご紹介したいと思います。

合同学会の共通テーマは「叡智の結集で解明と解決に挑む肥満学」

2019年以降、日本肥満学会と日本肥満症治療学会の合同開催となり、今年で5回目の開催でした。今回、学会長を務められたのは東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝内科学分野 教授の片桐秀樹先生(日本肥満学会)と岩手医科大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科分野教授の石垣泰先生(日本肥満症治療学会)です。
肥満の成因には、エネルギー摂取や消費に関わる各臓器や臓器をつなぐメカニズムなどの代謝学だけでなく、生理学・脳科学・分子生物学・運動学、減量・代謝改善手術など、各分野の「叡智が結集」することで解明につながるとして深い多彩な議論が展開される場となるようなテーマを持って開催されました。

学会2日目のランチョンセミナーで提供されたお弁当です。

ダイエット目的で使用されるGLP-1受容体作動薬の実態と見解

▶GLP-1受容体作動薬とは
GLP-1受容体作動薬は、糖尿病の治療に使用される薬で、すい臓からのインスリン分泌を促し、血糖値を下げる働きがあります。GLP-1アナログ製剤といわれることもあります。
注射薬が中心でしたが、2021年経口投与可能な「リベルサス錠(一般名:セマグルチド)」が発売され、糖尿病治療の選択肢が広がりました。
また、「ウゴービ皮下注(セマグルチド)」は、肥満症治療薬として2023年3月に医薬品として承認され11月に保険適用となっています。

インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬 一覧表(日本糖尿病学会HP)
https://fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/insulin_list.pdf  外部サイトへリンクします

▶GLP-1受容体作動薬の不適切使用の実態
今、「GLP-1ダイエット」「らくやせ外来(薬を飲むだけでやせる)」「GLP-1メディカルダイエット」などと謳ったダイエットが広がっています。このようなGLP-1受動態作動薬の保険適応外の目的での取り扱いについてマスメディア、医師、管理栄養士、行政の4つの視点から議論されました。

まず、GLP-1ダイエットの流行には、韓流ブームに伴い、若年層にとって美容整形が身近なものになっていることが理由として挙げられます。Youtuberやインフルエンサーが美容動画で発信し、大きな反響を得ている現状があります。その影響で若年層の痩身願望が強くなり、特に20代のやせ型の女性の使用が目立つようです。実際に「SNSの時間が長ければ長いほど理想の体型が細い」といった調査結果もあるようです。
GLP-1受容体作動薬の入手方法は、インターネット販売や美容クリニックで処方されることが多く、薬価の倍の価格で販売されている実情も見られています。

▶GLP-1受容体作動薬の不適切使用によるデメリット
若い健康な非肥満(特にやせ型)の人が、GLP-1受容体作動薬を美容目的で使用することでもっとも懸念するべき点は、健康被害です。
主には、副作用(消化器症状が多い)、痩せすぎによる骨粗しょう症、月経不順、不妊、低血糖(意識障害などの重篤なものも含む)があります。

GLP-1受容体作動薬を適応外使用し副作用が起こった場合、「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となります。
現時点では、消費者側がこのようなダイエットのリスクについての知識を身に着け、ダイエット目的で使用しないようにすることが予防策となっており、行政側からは、ネットパトロール事業の範囲で広告規制を行うなどの対策が取られています。今後、適応外で薬を処方する医療機関に対しての取り締まりを強化できないかという議論もありました。

▶GLP-1受容体作動薬不適切使用に対する見解
しばしばメディアでは、在庫不足によりGLP-1受容体作動薬を必要とする糖尿病患者の手に渡らなくなることがニュースで取り上げられていますが、実際の問題点は、在庫不足ではなく、消費者の健康被害にあると訴えかけられていたことに強く胸を打ちました。

GLP-1受容体作動薬だけでなく、SGLT2阻害薬やメトホルミンのような糖尿病薬も不適切に使用され、尿路感染や正常血糖糖尿病ケトアシドーシスといった健康被害が出ているようです。
このような現状に対し、消費者庁、厚生労働省、国民生活センターが合同で、また糖尿病学会や肥満学会からも注意喚起文が発表されています。(以下参照)

「GLP-1ダイエット」等に関する注意喚起(裏面)詳細版」(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000900187.pdf  外部サイトへリンクします

「GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」(日本糖尿病学会HP)
http://www.jds.or.jp/uploads/files/document/info/jds_statement_GLP-1.pdf  ※外部サイトへリンクします

「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」公開 (日本肥満学会HP)
http://www.jasso.or.jp/data/Introduction/pdf/academic-information_statement_20231127.pdf  外部サイトへリンクします


私たち管理栄養士・栄養士は、やせ願望が強い対象者を支援する際、対象者の想いを受け止めながらも専門的にスクリーニング、アセスメントを行い、寄り添っていかなければならないと感じました。

日本初 内臓脂肪・腹囲を減少する薬「アライ」が要指導医薬品として発売されます

肥満の改善には、食事・運動の生活習慣改善が基本ですが、2024年春、内臓脂肪・腹囲を減少する薬が発売されます。これは、薬局などで販売されるOTC医薬品の内「要指導医薬品」に分類されます。
成分として「オリルスタット60㎎」が配合され、食事から摂取する脂肪を約25%排出する効果が期待できます。
「アライ(販売名)」の使用には、「腹囲:男性85㎝、女性90㎝以上、かつ生活習慣改善に3か月以上取り組んでいる18歳以上の成人」という条件を満たす必要があります。また、定められた研修を修了した薬局の薬剤師が購入チェックシートなどを基に使用可否を判断し、使用後は生活習慣記録を基に定期的な面談を行うなどの条件が定められています。

まとめ

「肥満」には多くの成因が考えられます。単なる食べすぎだけではなく、食べすぎる理由として、脳科学や内分泌異常などが複合的に関連し起こります。長く、肥満症の薬はないと言われていましたが、2023年は「ウゴービ」や「アライ」が医薬品として承認されるなど、肥満症治療も大きく発展しました。一方、このような薬が不適切に使用され、健康被害が多く出ている実情もあり、私たち管理栄養士・栄養士は、正しい知見を持ち、適切に対応する必要性を強く感じました。



参考文献
・厚生労働省HP
「GLP-1ダイエット」等に関する注意喚起(裏面)詳細版」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000900187.pdf
・日本糖尿病学会HP 
インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬 一覧表
https://fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/insulin_list.pdf
・日本肥満学会HP
「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」公開
http://www.jasso.or.jp/data/Introduction/pdf/academic-information_statement_20231127.pdf


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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      101日前

      2023年11月に開催された第44回日本肥満学会・第41回日本肥満症治療学会学術集会の参加レポートです。

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WRITER

【学会レポート】第44回日本肥満学会・第41回日本肥満症治療学会学術集会

松岡 喜美子

循環器病予防療養指導士 かがわ糖尿病療養指導士,ベーシックインストラクター(JCCA)、貯筋運動指導者、歯科栄養アドバイザー2級 大学卒業後、糖尿病クリニックでの栄養指導に従事しながら健康運動指導士を取得。 2008年よりフリーとしての活動を開始。 特定保健指導の立ち上げからスタッフ育成などにも携わり、これまでの指導件数は1万件以上。 生活習慣病予防セミナーの講師や企業やスポーツクラブでの運動指導なども行っている。 その他、企業HPのコラム執筆なども担当し、健康情報の発信や商品マーケティングなども行っている。 「栄養不良の二重負荷」という問題に対して、世界に貢献できる管理栄養士を目指しています。 ★2023年7月~ 訪問栄養指導をスタートしました。 プラダ―ウィリー症候群(PWS)の症例に関わられたご経験がある方、情報共有できたらうれしいです。

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