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動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年度版が5年ぶりに改訂されました。本コラムでは前編・後編に分けて改訂点とそのポイントについて解説します。

高脂血症→脂質異常症など、これまでの改訂について

日本動脈硬化学会では、1997年に高脂血症診療ガイドラインを発表して以来5年ごとにガイドラインの改訂を重ねてきました。その間、高脂血症の脂質異常症への名称変更、脂質異常症の診療項目のうち総コレステロールをLDLコレステロール(LDL-C)に変更、動脈硬化性疾患のリスク評価方法を冠動脈疾患の相対リスクから絶対リスクへの変更が行われました。前回の2017年版では、絶対リスク評価方法として吹田スコアを採用するなどの改訂が行われました。
今回の改訂版のPDFは日本動脈硬化学会のHPからダウンロード可能です。序章P.11に改訂点がまとめられています。改訂点について、次の項より詳しく解説していきます。

随時のトリグリセライド基準値がはじめて設定

トリグリセライド(TG)は食事の影響を受けやすく、食後上昇します。また空腹時でも非空腹時でもその値が高いと将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症・死亡を予測することが国内の疫学調査で示されています。国内の疫学研究の結果やESC/EASガイドラインとの整合性も考慮して、空腹時採血:150mg/dL以上または随時採血:175mg/dL以上を高TG血症と診断します。高TG血症を含め脂質異常症の診断は従来空腹時採血で行われてきましたが、食後のTG高値が動脈硬化性心血管リスクとして注目されています。冠動脈疾患予防の観点から脂質異常症の診断基準値を表1のように設定しています。

 

*基本的に10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。空腹時であることが確認できない場合を「随時」とする。

 

**スクリーニングで境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。

 

●LDL-CはFriedewald式(TCーHDL-CーTG/5)で計算する(ただし空腹時採血の場合のみ)。または直接法で求める。

 

●TGが400mg/dL以上や随時採血の場合はnon-HDL-C(=TCーHDL-C)かLDL-C直説法を使用する。ただしスクリーニングでnon-HDL-Cを用いるときは、高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。

 

●TGの基準値は空腹時採血と随時採血により異なる。

 

●HDL-Cは単独では薬物介入の対象とはならない。

  
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」を基に執筆者にて作成

 

吹田スコア→久山町研究のスコアへ

脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究スコアが採用されました。前回の吹田スコアの場合、研究アウトカムが心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症で脳卒中が含まれていませんでした。久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中で特にLDL-Cとの関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされています。

糖尿病や二次予防のLDL-C管理目標値

糖尿病がある場合のLDL-Cの管理目標値は、末梢動脈疾患や細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時または喫煙ありの場合では100㎎/dL未満、これらを伴わない場合は従来通り120㎎/dL未満となります。
二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も追加され、LDL-Cの管理目標値は100㎎/dL未満となります。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞」を合併する場合には、LDL-Cの管理目標値は70㎎/dL未満に変更になりました。
これは、国内でのアテローム血栓性脳梗塞が増加傾向であり、再発予防が重要になるためです。また二次予防の場合、糖尿病の合併がプラーク退縮の阻害要因となることなどから、これまで厳格なコントロールは合併症などがあるハイリスクの糖尿病のみが対象でしたが、今回より糖尿病全般においてLDL-C 70mg/dL未満となりました。(表2)

 

●*糖尿病において、PAD、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合に考慮する。(第3章5.2参照)

 

●**「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞(明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞を含む)」の4病態のいずれかを合併する場合に考慮する。

 

●一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、いずれの管理区分においてもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮する。家族性高コレステロール血症の可能性も念頭に置いておく。(第4章参照)

 

●まずLDL-Cの管理目標を達成し、次にnon-HDL-Cの達成を目指す。LDL-Cの管理目標を達成してもnon-HDL-Cが高い場合は高TG血症を伴うことが多く、その管理が重要となる。低HDL-Cについては基本的には生活習慣の改善で対処すべきである。

 

●これらの値はあくまでも到達努力目標であり、一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30%も目標値としてなり得る。

 

●***10時間以上の絶食は「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。それ以外の条件を「随時」とする。

 

●****頭蓋内外動脈の50%以上の狭窄、または弓部大動脈粥腫(最大肥厚4mm以上)

 

●高齢者については第7章を参照。

 
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」を基に執筆者にて作成

 

参考文献
・日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」


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脂質異常症の食事について① コレステロールと食事の注意点
脂質異常症になりにくい食事の工夫①

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      730日前

      今年5年ぶりに改訂された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年度版」、改訂点とそのポイントについて管理栄養士の大塚綾さんに解説していただきます。

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WRITER

動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂のポイント前編

大塚 綾

総合病院の管理栄養士をしています。 糖尿病専門外来の療養指導などを担当しています。 フリーの活動では地域の方を対象に栄養講座や栄養相談会を実施しています。

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