動脈硬化性疾患予防ガイドラインが、前回の2012年版から5年ぶりに改訂されました。
その背景には、現在の日本に境界領域の方々を含めて約2,200万人もの脂質異常症の方がいるとされる状況があります。これほど脂質異常症の方が多いのに、その中で自覚している方は3割、そもそも脂質異常症のリスクについて、わからないという方が4割近くいると言われて
います。今回は、脂質異常症の基礎知識と予防のための食事について解説します。
放っておくと怖い脂質異常症
職場の健診で、最も多く見つかっているのが脂質異常症です。特に身体の変化を感じないため、大したことはない、とそのまま放置するケースが多いのが現状です。ところが、脂質異常症は放置しておくと動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞といった疾患を引き起こす要因になります。このことから、脂質異常症予防は、動脈硬化予防にもなると言えます。
コレステロール値が高めだったり、中性脂肪値が高めだったりしたら、すぐ薬を飲むことをお勧めしているわけではありません。医師にお任せするだけでは、改善が難しいのが脂質異常症であり、重要なのは自らが毎日の生活を改めていくことです。
日本女性(60代)の3人に1人は高中性脂肪血症⁉
もともと日本人は、世界の中でも総コレステロール値が低い国民でした。ところが、1960年代から2000年代の40年の間に、日本人の総コレステロール値は米国とほぼ同レベルになってきました。
中性脂肪は、男性では30代~50代にかけて、女性では50代から増え始めます。また、男性では、50代で2人に1人、女性では60代で3人に1人が高中性脂肪血症と言われています。
女性の場合はホルモンの関係で、閉経後はLDLコレステロール(以下LDL)が多くなり、HDLコレステロール(以下HDL)が少なくなってきます。血中脂質※は生命を維持するのに必要不可欠なもので、身体の組織を作る材料のほかに、エネルギー源としても重要です。
※血液の中に溶け込んでいる脂質のこと。悪玉コレステロールや善玉コレステロール、中性脂肪などがある。
コレステロールについて
コレステロールは、身体を構成する細胞膜やホルモンを作る材料になります。コレステロールが不足すると、細胞の代謝が弱まり、血管も弱くなります。中性脂肪は体内にストックされているエネルギー源としての役割があります。体温を保ち、臓器を外部の刺激から守る働きをしているのです。
以前は、血液中の脂質が高い状態をすべて高脂血症と呼んでいました。そして、脂質が総コレステロール値(LDLとHDLの合わせた値)と中性脂肪の2つを診察基準にしていました。しかし、LDLが高く、HDLが低い状態が動脈硬化の発症リスクが高い状態です。総コレステロール値を見るだけでは、リスクの少ないHDLが高い人まで含んでしまい、リスクを正確に知ることができませんでした。
そこで、2007年の日本動脈硬化学会でガイドラインの改定時に、LDL値・HDL値・中性脂肪値の3つを診断基準値に定めました。病名も「高脂血症」では動脈硬化のリスクになる、HDLが低い状態を指す場合には適当な表現ではありません。そのために脂質の代謝とバランスの異常を表す、「脂質異常症」へと変更したのです。
ただ、高脂血症という疾患名が廃止されたのではなく、総コレステロール値が高い高コレステロール血症や、高中性脂肪のように、血液中の脂質の値が高くなる病態については、必要に応じて今でも診断名として使われています。
参考文献
日本動脈硬化学会 http://www.j-athero.org/publications/
『脂質異常症<コレステロールと中性脂肪>─最新の食事療法─<患者のための最新医学>』寺本 民生 高橋書店 2016
『きょうの健康』2017年2月号 NHK出版 2017
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