東京都足立区にて、離乳食として乳児に与えていたジュースに“はちみつ”を混ぜていたことが元で、乳児が死亡する事故が発生したという報道がありました。今回は、なぜ赤ちゃんにはちみつを食べさせてはいけないのかを解説します。
一体何が原因だったのでしょうか?
赤ちゃんの痛ましい死を招いたのは、はちみつに含まれるボツリヌス菌を原因菌とする食中毒“乳児ボツリヌス症”でした。ボツリヌス菌は土壌中に多く含まれ、酸素のない状態下では、高温や乾燥に強い“芽胞”とよばれる状態で存在しています。この芽胞は発芽して増殖すると、毒素を発生します。ボツリヌス菌が産生する毒素は大変強力で、地球上で最も強い毒素とも言われています。
乳児がはちみつを摂取すると、はちみつに含まれるボツリヌス菌芽胞が、酸素の少ない乳児の腸管内で毒素を産生します。この毒素を吸収したことで、乳児は便秘や筋力低下によってぐったりする、泣き声が小さくなるといった症状が生じる乳児ボツリヌス症を発症したのです。
どうすれば防げたのでしょうか?
食中毒の三原則は、“つけない“”増やさない“”やっつける“ですが、芽胞を形成したボツリヌス菌は高温に強く、通常の加熱では死にません。120℃で4分以上の加熱殺菌が必要となりますので、家庭で行える通常の加熱調理では”やっつける”ことができないのです。
ボツリヌス菌は、土壌にも川や海にも自然の中に広く存在しています。はちみつには、自然の中にある植物や蜂を介して、ボツリヌス菌が混入すると考えられています。はちみつは糖分が高いため、他の細菌等は存在できませんが、ボツリヌス菌は芽胞形成することにより、はちみつ内に存在することができるのです。また芽胞形成したボツリヌス菌は、腸内細菌叢が未発達の乳児の腸管ではどんどん増えてしまいます。
そこで、乳児ボツリヌス症を防ぐ一番の対策は、”つけない”=「摂取しない」ことになります。乳児に、はちみつやはちみつ入りの食品を一切与えないことが、乳児ボツリヌス症の予防となるのです。
母親たちへの行政の指導は?
日本では1986年に千葉県で初めて乳児ボツリヌス症が報告されました。以降、はちみつ製品には“1歳未満の乳児には与えないで下さい。”という表示がされるなど、注意喚起がなされてきました。今回の事故を受けて厚生労働省では、情報提供を強化するとともに、関係事業者や消費者に対して、注意喚起を行うよう、各都道府県自治体の保健所等へ通達を出しています。
多くの母子手帳には1歳児未満の乳児へはちみつを与えてはいけない旨の注意が記され、健診では保健師等からの離乳食の指導があります。今回このような事故が起こってしまったことを受けて、今後も継続的にこうした行政による正しい知識を得るための指導が、すべての母親へなされる必要性が再認識されました。
このような痛ましい事故が二度と起こらないようにしていきたいものです。
参考文献
厚生労働省 生活衛生局 蜂蜜を原因とする乳児ボツリヌス症による死亡事案について
改訂版 食中毒学入門 予防のための正しい知識 大阪大学出版 2012
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