私たちは何かを食べたときに、「うま味がある、コクがある」と感じることがあります。「うま味」と「コク」は同列で語られることがよくありますが、その違いとは何なのでしょうか。今回のコラムでは、「うま味」と「コク」の定義を解説したうえで、「うま味」と「コク」をあたえるため、加工食品にどのような原材料が使われているかをご紹介します。
「うま味」と「コク」の違いとは
「うま味」は5つの基本味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)のひとつです。うま味成分としては、一般的にグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸)、イノシン酸(核酸)、グアニル酸(核酸)などが知られており、ツオ節や昆布の他にも、さまざまな食品に含まれています。一方、「コク」は味、香り、食感に関する複数の刺激がバランスよく与えられた時の感覚であるといわれています。
人が「おいしい」と感じるには、味だけではなく、匂いや食感や体調などたくさんの要因が関係している。うま味もコクも、必ずしも「おいしい」と同義ではありませんが、「おいしい」と感じるために必要な要因といえます。
添加物使用の食品に「うま味」と「コク」を出すには
食品にうま味やコクを出すため、グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウムなどのうま味調味料が使用される場合があります。しかし、うま味調味料は添加物として扱われるため、添加物不使用の食品には使用することはできません。
添加物不使用の食品の原材料表示を見てみると、うま味調味料の代わりにたんぱく加水分解物と酵母エキスが使われている場合があります。この2つの原材料はどういったものでしょうか。
1. たんぱく加水分解物とは
たんぱく加水分解物とは、肉・大豆・とうもろこし・小麦などのたんぱく質を分解して作られるアミノ酸やペプチドのことです。アミノ酸やペプチドは食品の「うま味」をつくる重要な要素です。加工食品に対して、味の幅の広がりやコクを与え、加工食品の製造過程で減少する風味を補う役目があります。
たんぱく加水分解物の原料
使用するたんぱく質には、植物性と動物性があります。植物性たんぱく質として、もっとも一般的に使われるのは大豆や小麦です。大豆は、油を採った後の残渣(脱脂加工大豆)が多く使用されています。動物性たんぱく質としては魚粉や動物の皮膚や骨などのゼラチンを使用します。
たんぱく加水分解物の製造方法
たんぱく加水分解物の製造方法には2種類あります。ひとつは酵素を使用してたんぱく質を分解する方法。もうひとつは、塩酸を使用してたんぱく質を分解する方法です。塩酸は強酸のため、分解後は水酸化ナトリウムで中和します。中和されていないと塩素が残留するので安全性を確保するために塩素の残留がないか確認が必要です。また、塩酸を使用する方法では、製造過程で発がん性物質の疑いがある※「クロロプロパノール (略称3-MCPD等)」が微量生成されますが製造方法の見直し等により現在では健康リスクは無視できるほど小さくなっています。
※国際がん研究機関(IARC)は、ヒトの発がん性に関する証拠はないものの、動物試験の結果、発がん性について十分な証拠があったとして、「ヒトに対して発がん性があるかもしれない」と評価しています。
このようにしてできたたんぱく加水分解物は、単体では味がなく、しかも独特のにおいがあります。しかし、鰹節エキスやとんこつエキスなどと合わせることで、うま味が効いた味に変わります。
2. 酵母エキスとは
酵母エキス(こうぼエキス、Yeast extract)とは、酵母の有用な成分であるアミノ酸やペプチド、核酸などの成分を自己消化や酵素、熱水などの処理を行うことによって、抽出したエキスです。化学調味料では出すことが難しい自然なうま味、コクや風味を付与することができます。
酵母エキスの原料
酵母エキスの原料となる酵母は、英語でイースト(yeast)といいます。パンを作るときに活躍してくれるイースト菌も酵母の仲間です。酵母は、自然界の植物や果物など、いろいろなところに生息する「菌(微生物)」のことです。酵母エキスの原料には、パン酵母の他にビール醸造過程の副産物であるビール酵母(Saccharomyces pastorianus, Saccharomyces cerevisiae)や、もともと食糧資源として開発されたトルラ酵母(Candida utilis)が使用されます。
酵母エキスの製造方法
酵母エキスはほとんどの場合、酵素の働きによってたんぱく質を分解して製造されます。酵素処理については、酵母自身が持つ酵素によって、自己消化する方法と別途、酵素を添加する方法があります。
興味を持つことが大事
たんぱく加水分解物と酵母エキスは、いずれも添加物ではなく「食品」に分類されるため、加工食品で多く使われています。うま味やコクが増して食品がおいしくなることはいいことではありますが、次第に舌がこのような味に慣れてしまい、天然のうま味では物足りなさを感じるおそれもあります。結果として、濃い味を好む傾向になってしまい、成人病や肥満のリスクが高まることも考えられます。加工食品を手に取る際には、意識して原材料表示を確認してみてはいかがでしょうか。
参考:「日本うま味調味料協会」
https://www.umamikyo.gr.jp/knowledge/umami_oishisa.html
参考:「コク」の最新状況
http://info.nissyoku.co.jp/seminar_pdf/150925.pdf
参考:「酵母エキスの魅力」
http://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9202/9202_biomedia_3.pdf
参考:「食品添加物・機能性素材 市場レポート2016」(食品化学新聞社)
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