今回お話を伺ったのは、現在社会福祉法人で、「食支援スーパーバイザー」として活躍されている木下利枝子さんです。
百貨店での企画営業から介護の世界に入るまで
大学で栄養学を学び、管理栄養士の資格を取得したのち、新卒では大手デパートに就職。食品関連の催事や食品フロアの企画などを担当していました。全国の美味しいものを求めて飛び回り、大きな企画も次々と成功させることができ、とても充実した毎日を過ごしていました。
その後、出産を機に退社。育児が一段落したところで、今度は管理栄養士として働こうと肛門科クリニックの立ち上げに参加しました。消化器系の病気を扱うので、食事についても様々な制約がある方が多くいます。資格は持っていても実務経験は全くなかったので、日々勉強しながら毎日30人前後の入院患者さんへ食事を提供しました。
この管理栄養士としてのキャリアの最初から私がとても重視していたのは、実際に食事を食べている患者さんとのコミュニケーションをしっかりと取るということです。食べ物が人に与えるエネルギーはとても大切なものです。少しでも美味しく楽しく食事を提供することを心がけました。おかげで、退院してからも来院のたびに「ここの食事がまた食べたい」と言ってくださる患者さんも何人もいたんですよ。
デイサービス施設での気付き
その後、もっと大きな食数管理をしてみたいと思い、給食委託会社へ転職しました。デイサービスの施設に勤務し、利用者の方の昼食約50名分と配食サービス1日約100食分、計約150食を提供していました。大量調理には必要とされるスキルがたくさんあるので、最初のうちは現場の先輩方にずっと張り付いて技術を吸収することに懸命でした。
高齢者向けの施設では様々なレクリエーションが行われることはご存知だと思いますが、私はそこに「料理」を取り入れることを提案しました。ホットプレートでみんなで料理したり、一緒に包丁を握ったりと、料理に関わることで今までに見たことのないような生き生きした表情を見せてくれる方がたくさんいらっしゃいました。
また、糖尿病で厳しい食事制限のある方にどうしても天ぷらが食べたいと言われて、提供したこともありました。そのときの笑顔は忘れることができません。ただダメと言うのではなく、できる限り要望をくみ、前後の食事で調整することを考えるなど、その方が笑顔になれる方法を探すのがどれだけ大切かということを多く学びました。
後編に続きます。