前編はこちら。『自分らしくいられる「食」を全ての人に① - 木下利枝子さん』
完全ユニット食への挑戦
その後、特別養護老人ホーム、介護老人福祉保健施設、障碍者支援施設の3つの機能が盛り込まれた施設の新規施設立ち上げに参加することになりました。ここで取り入れられたのがユニットケアという手法です。
「ユニットケア」とは、自宅に近い環境の介護施設で、ほかの入居者や介護スタッフと共同生活をしながら、入居者一人ひとりの個性や生活リズムに応じて暮らしていけるようにサポートする介護手法のことを指します。食事・入浴・洗濯・お茶の間など、暮らしの場を一つのユニットとします。単位は10人前後で、その人たちが暮らしの仲間となります。※1
このユニットごとに食事を組み立てるというのが私たちの挑戦でした。施設内に厨房を持たない完全ユニット調理というのは全く経験のない手法だったので、軌道に乗るまでは悩んだり壁にぶつかることもたくさんありました。
決まっているのは基本的に、その日に使うべき食材のみ。それをすべて使ってもらえばどんな料理にしてどう食べるかは各ユニットにお任せするのです。入居者の方が参加して献立を決めることもあるので、同じ日に同じ施設内でユニットごとに全く違った献立になるということもあります。
調理スタッフはできるだけ地元の方を採用し、入居者の方により身近な献立になるように工夫しました。私は給食マネージャーとして、食事を残さずに食べてもらえる様に食材を探したり、食堂で昔話を聞きながら思い出の食事を聞き取ったりする盛り上げ担当でした。
介護というのは身体的なことだけではありません。命を支える食事のケアも大切な介護の一部です。自分の食べる物に能動的に関わり、美味しく楽しく食事をするというのがどれだけその方の生きる力に結びつくか。それに少しでも貢献したいという気持ちで取り組みました。
食支援スーパーバイザーとして
現在は、千葉県にある社会福祉法人で介護施設の食支援をしています。この施設は「誰もがありのままにその人らしく地域で暮らしていくことができる」を目標にしています。そのために、管理栄養士として一人一人の体調や体重などの状況に合わせての栄養ケアマネジメントや本当に食べたい食事のメニュー作成に取り組んでいます。嚥下・口腔ケアや季節のイベントなど、各担当者や専門家との連携を取ったり、家庭や施設で使用する介護食の開発も行っています。
これからは、今まで私が取り組んできた様々なプロジェクトで得た知識を、若い栄養士さんや調理スタッフの方にどんどんお伝えしていきたいと考えています。「食」を通じて、小さい子供から高齢者まで地域のすべての人がつながり、それぞれが地域に貢献していけるようお手伝いをしていきたいと願っています。
編集部注※1
一般社団法人日本ユニットケア推進センター http://www.unit-care.or.jp/about-unitcare/