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平成31年1月11日、12日、13日の3日間、パシフィコ横浜にて、第22回日本病態栄養学会学術集会が開催されました。本大会長は、横浜市立大学大学院医学研究科 分子内分泌・糖尿病内科学 寺内康夫先生でした。学会中は、さまざまな職種が集い、多岐にわたる知見を得ることができ、視野を広げることで、即実践できる内容が盛りだくさんでした。今回は、大会で得た情報をノート式で皆さんにもシェアしたいと思います。

『第21回のレポートはこちらから』

1日目:日本栄養療法協議会合同パネルディスカッション1 疾患をふまえた高齢者の栄養管理

●基調講演:高齢者の栄養管理に求められるパラダイムシフト
京都大学 糖尿病・内分泌・栄養内科学 稲垣暢也先生

・65歳以上の高齢者では認知症、転倒・骨折、高齢による衰弱(虚弱)が要介護の主な原因。
中でも、虚弱や転倒・骨折はサルコペニアと密接に関係している。
・高齢者糖尿病ではサルコペニアを来しやすい(高齢者肥満症診療ガイドライン2018 日本老年医学会 参照)。
・75歳以上の高齢者ではBMI25以上で死亡率が下がる。…パラダイムパラドックス
・ウエスト周囲長やウエストヒップ比はBMIよりも脂肪のリスク指標となる。
・中年期の肥満は高齢期の認知症発症のリスクである。
・高齢者の肥満は認知症発症のリスク低下となる。
・高齢者の肥満と心血管疾患の発症率リスクの関係について、十分なエビデンスはない。

・高齢者肥満の指標
① BMI高値
② ウエスト周囲長またはウエストヒップ比高値
③ メタボリックシンドローム
④ サルコペニア肥満

・中年から高齢期にかけて、生活習慣病予防からサルコペニア予防へのシフトが必要。
・エネルギー摂取はたんぱく質節約作用があり、エネルギー不足はたんぱく質の利用効率を低下させる。また、運動は食事性たんぱく質の利用を高める。
・糖尿病治療ガイドの方法を用いた初期エネルギー摂取支持量の設定にはやや難がある。…標準体重はBMI22が使用されている
 これには年齢の視点が欠如しており、標準体重を用いるとエネルギー不足が生じる。
 よって、国立健康・栄養研究所の式に身体活動量をかける京都大学の基礎代謝量の式がおすすめ
・BMI25の維持には、標準体重よりも実体重×30kcalのほうが合理的だろう。
・中年の場合、実体重×30kcalだと体重減少は見込めないため、25kcalが望ましい。
・現状の摂取エネルギーから設定する方法として、肥満者においては現状の摂取エネルギーから300-500kcalを引いて、5%の体重減を目指す。
・適切なカロリーを設定し、運動を併用することが重要。

●日本骨粗鬆症学会:骨折防止のための栄養管理
藤田医科大学 内分泌・代謝内科 鈴木敦詞先生

・骨粗鬆症予防のためには毎日食品から700-800mgのカルシウムを摂取することが望ましい。また、治療を考えると1000mgが望ましい。
・年齢とカルシウム吸収能を考えるとき、年齢が上がると吸収が下がる。
・たんぱく質、脂質摂取量がカルシウム摂取量に影響する。
・カルシウム単独負荷での骨折予防は難しい。…骨折しないことはないという研究結果が出ている
・日本人のビタミンD摂取量は推奨摂取量を満たしていない。
・ビタミンD摂取量は、副食摂取量と関連が多い。
・ビタミンDによる転倒予防は確立されている。

●日本サルコペニア・フレイル学会:サルコペニアに対する栄養治療
熊本リハビリテーション病院 リハビリテーション科 吉村芳弘先生
・“サルコペニア“はICD-10に疾患として登録されている。
・サルコペニア診療ガイドラインは2017に発行されている。
・EWGSOPが最新のサルコペニア診療を出している。
 筋力ダウン…Probableサルコペニア
 筋力ダウン+筋肉量ダウン…サルコペニア確定
 筋力ダウン+筋肉量ダウン+身体機能ダウン…重度サルコペニア
・医原性サルコペニアが問題。
 …イタリアのデータでは、入院中に高齢者の15%にサルコペニアが新規発症したという結果が出ている
・サルコペニアの予防と治療の推奨
予防:適切な栄養摂取、たんぱく質(>1.0g/kg/日)
治療:必須アミノ酸を中心とする栄養介入

・運動療法
・意図しない体重減少に対して食品強化として、たんぱく質・エネルギーの検討
 たんぱく質は量から質へ…エネルギー、たんぱく質よりも質の高いアミノ酸摂取のほうが有効かもしれない
・リハ×BCAAの介入研究
(低負荷レジスタンストレーニング)
・重要なことは、栄養単独では筋量は増えない!
 …リハをしていないと脂肪、浮腫が増えている可能性ある
・低負荷でも運動回数を増やすと高負荷と同等のトレーニング効果がある
  筋肥大の効果=総負荷量(運動負荷×運動回数×セット回数)
・筋量維持には筋出力30%が必要(階段昇降・ステップ、スクワット、起立運動程度)

●日本糖尿病学会:高齢者糖尿病に対する栄養管理
東京都健康長寿医療センター 内科(糖尿病、代謝・内分泌内科)荒木厚先生

・高齢者糖尿病は個別差が大きい。
・JDCSとJ-EDITに登録された2型糖尿病患者の検討では、高齢者のフレイル予防のためには30-35kcalとしてエネルギー摂取量の維持に配慮することが検討されている。
・タンパク質最高摂取群(>1.2g/kg)は下肢機能が良好といわれている。
・たんぱく質摂取が少ないと死亡率が増える。エネルギー調整すると75歳以上のみで起こる。

■日本動脈硬化学会:高齢者の動脈硬化性疾患治療における栄養処方
静岡市立静岡病院 内分泌代謝内科 脇昌子先生

・動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017が発刊されている。
・高齢者脂質異常治療の注意点
①エネルギー制限については慎重にすべき
②肥満パラドックス
③食生活の実情・食習慣への配慮

●日本老年医学会:高齢者の低栄養・カヘキシアに対する栄養管理
大阪大学 老年・総合内科学 杉本研先生

・栄養障害は転帰の悪化に関連する。
・低栄養のGLIM基準というものが発表された。
・脂肪減少+筋委縮…カヘキシア
・悪液質の栄養管理
 たんぱく質1.5g/kg EPA2-3g/日 六君子湯7.5g/日
・がん患者の血中アミノ酸濃度はがんの種類によって異なる。
・透析患者においてフレイルは性別、年齢、内服薬数、栄養状態などに関連する。
まとめ:高齢者の必要栄養量は実体重×25—30kcalなのでは?

特別企画2「横浜から未来を考える」AI診療の進化に管理栄養士はどう関わるか

●人工知能は栄養指導にどう活かせるか
藤田医科大学 内分泌・代謝内科 牧野真樹先生

・医療とAIの関わりは6つ
ゲノム、画像診断、診療・治療支援、医療品開発、手術支援など
・Artficial intelligence(AI)のPubmedでヒット数は84,146件と爆発的に増加している。
・特に、画像診断、がんの分野で多くの研究がなされている。
・慢性疾患や栄養管理分野は不十分。
・Watsonで検査データを解析する際、画像データとして評価する。
・AIは画像データ処理に強い。
・現状でのキーデバイスはスマートフォン。
・元のデータがなければAIは何もできないのが現状。

●栄養指導報告書に対するテキストマイニング
日本IBM 東京基礎研究所 大野正樹先生

・電子カルテ約13万人、栄養指導報告書約7000人を使って研究した。
・テキストマイニングとは、知識の抽出・発見のこと。
・FDA(審査機関)は2017にAIによるヘルスケアに特化した部署を立ち上げた。

●ICT医療の進歩と遠隔栄養指導
徳島大学 先端酵素学研究所 糖尿病臨床・研究開発センター 松久宗英先生

・市町村保健センター、かかりつけ医、栄養ケアステーション、連携病院/専門病院がチームになって糖尿病性腎症の患者をフォローした。
・平成30年度にオンライン医学管理料の新設(100点/1月につき)がされた。
・EHR(電子健康記録)・PHRの時代になっていく。
・遠隔栄養指導をするための必要条件
①汎用性の高いシステム
②簡便なシステム
③質(画・音質)の高いシステム
④患者の自己操作可能
・問題点
①食品サイズの把握 ➡手のひらサイズで落ち着いた
②紙媒体の提供方法は?

●ICTを用いた食事管理と生活習慣病予防
東京大学 健康空間情報学講座 三宅加奈先生

・FADではICTシステムを医療機器として取り扱っている。
・DialBetics
・データ通信モジュール:血圧、体重、歩数、血糖
・スマートフォンからサーバーに飛んで、フィードバックが届く仕組み。
・運動判定モジュール
・食事摂取量判定モジュール:写真のみで判定は難しい状態…食品、量を入力してもらって判定している
・リスクの低いデータは自動応答、リスクの高いデータはドクターコールとして医師に連絡される。
・有用な指導には計測に基づくフィードバックが重要。
・フィードバックは人間がコメントをしている。

イートリートのブースも出展していました!

2日目:教育講演6 運動・サルコペニア

●サルコペニア予防に向けた運動と栄養摂取
立命館大学スポーツ健康科学科 藤田聡先生

・サルコペニアを緩やかにするには運動と栄養しかない。
・筋肉量とインスリン抵抗性の関連
 ➡筋肉量の低下はDMの発症リスクを増加させる
・大腿と全身の筋肉量は比例する。
・筋肉は食後、運動後に合成優位になり、栄養不足(空腹時)の状態だと分解優位になる。
・時間帯によって血中アミノ酸濃度は増減している。
・しかし24時間出納バランスは±0になるように調整されている。
・アミノ酸摂取は筋肉の合成を刺激する。
・高齢者は若年者と同量のたんぱく質摂取でも5-10gの少量でなく、30-40gなど大量に摂取してもらうと若年者同様の同化作用は起こる。たんぱく質摂取の中でも、アミノ酸、BCAA、特にロイシンを摂取させるとmTORが発生してたんぱく質合成能が働く。
・食事のたんぱく質摂取量と筋肉量の変化は、摂取量に比例して徐脂肪体重の減量は抑えられる。
・大学生を対象とした研究(0-3、4-6、7Times/week)で、朝食欠食をする学生は筋量が少ない。
・朝食中のたんぱく質量も関係するが、そもそも食事によるたんぱく質合成刺激が1日3回のうち1回がなくなって、筋肉量減少につながっていることが考えられる。
・1回の運動(筋トレ:レジスタンストレーニング)による筋たんぱく質の同化作用は約48時間維持される。通常筋トレをしていない人ほど、効果が長くなる。アスリートでは24時間程度。
・最大筋力の70%強度を10回×3セット。

・高強度運動の問題点
①動作のコントロールが困難
②筋繊維の損傷は強度に依存して増加
③高強度運動の参加者の維持率は70%以下

・レジスタンス運動における運動強度は筋肥大の決定因子ではない。
・ボーグスケール13-15(RP40-50%)程度のレジスタンス運動が目安。
・主観的運動強度を用いた強度設定がよい。
・筋肥大起きやすい人とそうでない人がいて、原因を分析したところ、mROMの発現量(遺伝的なもの)に違いも見つかったし、栄養摂取の影響もあるようであった。
・合成能:空腹時<運動3時間後<食事摂取<運動+食事摂取

・若年者でも高齢者でも、たんぱく質を摂取するのみよりも、レジスタンス運動後のたんぱく質摂取でより筋たんぱく質合成がより高まる。
①3食の食事の総量(RDA)
②1食ごとの摂取量(特に朝食)

・高齢者で、1日あたり1.0g以上のたんぱく質摂取があっても、3食のたんぱく質の摂取に不均衡があるとフレイルの可能性があるとの報告があった。

教育講演7 回復期リハビリテーション

●回復期リハビリテーション治療実験における運動直後のタンパク質摂取効果の検討
和歌山県立医科大学 リハビリテーション医学講座
みらい医療推進センター げんき開発研究所 上條義一郎先生

1. 安静臥床時の生理学的変化
・体力=行動体力、防衛体力
・無重力空間で自転車エルゴメーター、トレッドミル、抵抗運動を行ったら、地球に帰還後も立てた。
・安静臥床による弊害:血液量、新排出量低下、筋委縮、持久力・筋量の低下を起こす。
・2週間以上臥床で骨委縮も始まる。
・持久力は血液量によって決定される。
・よって、ベッドレストによる循環血液量減少。
・10日間で200mlの血液量が減少する研究結果あり。
・1966年ダラス・ベッドレスト研究 3週間ベッドレストで持久力27%低下。
・40年後に持久力測定をしたら、3週間ベッドレスト後と同じくらいの持久力が落ちていた(3w≒40年分に匹敵⁉)。
・高齢者10日間ベッドレストで下肢徐脂肪体重約1kg減少し、たんぱく質摂取のみでは防げなかった。

2. 運動とその直後のたんぱく質摂取の効果
・高齢者において、持久力トレーニングに糖たんぱく質摂取を負荷すると血漿量増加を認めた。また、体温調節反応を改善した。平均血圧はトレーニング期間後に両グループで低下した。血圧を悪化させることはなかった。
・同じエネルギー量で糖質のみ、糖質+たんぱく質で異なる結果が出た。
・運動直後の糖たんぱく質摂取で持久力を高める血液量の増加を認めた。

3. 臨床への応用
・慢性期脳血管疾患患者に応用したら期待する効果が出た。
・がん周術期患者における問題点
 悪液質(カヘキシア):進行がん患者の36%が罹患している。
 中でも、膵、胃、食道がんで罹患率が高い。
・腫瘍体積増加で1770kcal/3か月が消費される。
・炎症増加で白血球産生増加で382kcal/日 特にグルコース、グルタミンが消費される。
・高容量ステロイド、抗がん剤で筋たんぱく質同化が低下し、異化増加させる。
・がんの周術期患者のカヘキシア、サルコペニアを運動と栄養で改善することが可能である。
・術前・強化トレーニング(持久力強化、筋力トレーニング)を行うと、術後の体力が維持される。

ランチョンセミナー2-03

●実臨床から見えてきたインスリン療法の進歩と課題
東邦大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 弘世貴久先生

・以前のインスリン注射は、豚などから抽出して作っていたが、現在ではヒト型を培養して作れるようになった。
・NPH(中間型インスリン)は夜間低血糖を起こしやすいので、早朝血糖は100でなく130くらいを目指して使う必要がある。
・ランタスXR:ランタスを濃くしたもの、夜間・24時間低血糖が少ない
・デグルデグ:42時間効果ある持続型インスリン
 …生活強度が変わる患者には不向きだが、作用不足が起こりにくく血糖が安定する。
・前の晩に投与した基礎インスリンが切れて夕食前に高血糖になるケースだと、基礎インスリンが24時間効いていないことが考えられる。
・女性の場合、プロゲステロンが優勢になっている時期(排卵後~生理前)は基礎インスリン必要量が増える傾向がある。

感想

本学会には毎年参加していますが、毎年取り上げられている話題が異なり興味深いです。また、学会に参加されている知り合いの諸先生方にお会いして刺激を沢山いただくこともできます。皆様も機会があれば、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      2114日前

      Eatreat編集部です。
      今回は、メモ形式でお送りする学会コラム!
      かなりの情報量です。

      拍手 0

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WRITER

第22回日本病態栄養学会学レポート

横原 夢見

病院勤務を経て、現在はフリーランスとして専門学校の非常勤講師、コラム執筆、地域活動などを行っています。

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