落ち葉が風に舞い、冬の訪れを感じさせる季節。山々の頂は、うっすら雪化粧を始め、冬がかけ足で近づいてくる今日この頃。その頃になると、理由もなく気分がふさぎがちになり、日常生活に支障をきたしてしまう場合があります。それはもしかすると季節性うつが原因かもしれません。
季節性うつとは
季節性うつ病(SAD)は、反復性うつの一種です。SADは季節性感情障害:Seasonal Affective Disorderと呼ばれます。どの季節でもおこりうるのですが、秋に日照時間が短くなるころに始まり、日が長くなる春にはよくなる事が多いと言われています。一般的には、女性が多いのですが、日本では男性にも多いとされています。SADになると、暗い冬のあいだは元気がなくて不安な気持ちで、無気力状態になりやすく、おまけにイライラもしてきます。日中でも眠気が強く、甘いものをたくさん食べる事が多くなります。
反復性うつについても説明しておきましょう。文字通り、うつ病を繰り返す障害です。うつ病を比較的短期(2週間以下)で繰り返します。躁とうつを繰り返す双極性障害(躁うつ病)と比べると、反復の頻度も少ないとされています。
季節性うつの原因とは
原因は日照時間が短くなることで、脳の中のセロトニンのバランスが崩れ、セロトニンが少なくなり、脳の働きが低下して、情報の伝達がうまくできなくなるためだといわれています。梅雨時や曇りの日が続いただけでも、調子が悪くなることがありますよね。
普通の人でも、朝はぼんやりしていても、昼間になれば、シャキっとしてきます。それはセロトニンの分泌がだんだん盛んになっているからなのです。
セロトニンの分泌を増やすには
冬の長いヨーロッパでは、古くから日光が不足することで、季節性うつが起きることが知られています。そのため、療養のためにイタリアや地中海で一週間から二週間ぐらい日光を存分に浴びることで、調子を良好に戻すこともされています。
セロトニンの生成が外からの刺激で大きく左右されるのは日光です。網膜に入る日の光の刺激で、セロトニンは活性化するのです。セロトニンを生成するためには、目から光が入ってくるのが必要なのです。ですから、明るい家から暗い家に引っ越した時だけでもセロトニンの生成に影響があります。
しかし、セロトニンには、ちょっと複雑な性質があり、やりすぎるとかえって減ってしまいます。例えば、セロトニンを増やそうと運動をやりすぎたり、日光を浴びすぎたりすると逆効果になってしまいます。
夏の場合は強い日差しだけで充分にセロトニンが活性します。その上、運動をすると、疲労をまねき、セロトニンは減ってしまいますので、激しい運動は控えましょう。冬の場合は、運動をするとセロトニンの増え方が大きいとされていますので、軽い運動を取り入れるのがいいでしょう。日光は15分から30分浴びれば充分とされています。朝起きたら、5分でいいので、朝日を浴びる習慣からスタートもよさそうですね。
冬型のうつは冬の数か月に食欲と睡眠がもっとも増えて、体重の増加も著しいですが、夏になると、食欲と睡眠が減り、体重も減少がみられようです。夏型は、調子が悪くても、過食、過眠、体重増加はみられないのが特徴のようです。
セロトニンを増やす食事
セロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸から作られます。トリプトファンは、リラックスするアミノ酸といわれることもあります。必須アミノ酸は、体内で十分な量が合成されないため、食事から摂る必要があります。
トリプトファンの含有量が多い食品は、大豆製品が代表選手といわれています。しかし、大豆製品ばかりを食べていれば、いいというわけではありません。まずは、日々の食生活を見直し、主食とおかずをそろえることからはじめてみましょう。バランスの良い食生活を心がければ、通常の食事量で、トリプトファンは充分に補うことができます。
甘いものを食べるとイライラがおさまる?
確かにそうなのですが、大きな落とし穴があるのです。甘いものを食べるとインスリンが分泌されます。すると、バリン・ロイシン・イソロイシンが減って、トリプトファンが上昇します。その結果、セロトニンが作られますが、この流れは瞬間的なもので、継続的にセロトニンが作られる訳ではないのです。さらに、甘いものが欲しくなり、甘いものを頻繁に食べると血糖値の上下が激しくなり、自律神経にも悪影響が出てしまいます。甘いものでイライラがおさまるのは、その場しのぎと考えておくのがいいでしょう。
心や体の不調はいつなんどき起こるか分からず、思うようにならないストレスに悩むこともあります。しかし、心や体の不調がどのような仕組みで起こるのかをきちんと理解することができれば、自分の生活習慣を見直すためのいいきっかけにもなります。一人で悩まずにお近くの病院などに相談してみてはいかがでしょうか。
参考文献
季節性うつ ノーマン・E・ローゼンタール 講談社 1992
厚生労働省 働く人のメンタルヘルス こころの耳
うつ病-どうやって見わけて、助けてもらうのか-
ジュディス・ピーコック 大月書店 2004
かくれ躁うつ病が増えている-なかなか治らない心の病気-
岩橋和彦・榎本 稔 法研 2010
セロトニン「脳」活性法-簡単にできる!- 有田秀穂 大和書房 2007
「セロトニン脳」健康法-呼吸、日光、タッピングタッチの驚きべき効果-
有田秀穂・中川一郎 講談社 2009
時間遺伝子ダイエット-なぜ午後6時の夕食は太らないのか?-香川靖雄 集英社 2012
イラストレイテッド生化学 石崎泰樹・丸山 敬 丸善 2007
「うつ」は食べ物が原因だった!-図解でわかる最新栄養医学-溝口 徹 青春出版社2011
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