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普段、産業保健分野で働き世代の健康管理をしているのですが、ここ数年で毎日の食事にプロテインを取り入れている方が増えている印象があります。健康管理の対象となっているのは、若い女性社員から定年が近いメタボ対象の男性社員まで、幅広いのですが、「ちょっと待った!」を出すことがよくあります。
プロテインは、取り入れ方によってはかえって不健康になってしまう可能性があるので、健康のために、正しく利用していただきたいのです。
先日、日本テレビ「ZIP!」にて、正しいとり方についてお伝えさせていただきましたが、限られた時間内での情報となってしまいましたので、改めて整理していきます。

プロテインとは

プロテインは、日本語で「たんぱく質」を意味する言葉です。たんぱく質は、筋肉や内臓、血液、ホルモンなどを作る栄養素で、炭水化物や脂質とならぶ三大栄養素です。ですから、プロテインは厳密には栄養素の名前ということになりますが、日本では一般的に栄養補助食品の名前として使われることも多くあります。

今回は、この栄養補助食品としてのプロテインについてお話していきます。
主にたんぱく質を取り入れるために利用するのが、プロテインの役割です。毎日の食事では、魚や肉、卵、大豆製品、乳製品などがたんぱく質源となる食材のため、これらの代用としてプロテインを上手に利用することで、バランスのいい食事を保つことができます。

プロテインを利用するメリット

食事に利用する食材には、さまざまな栄養素が含まれているため、複数の食材を使うことで、より多くの栄養素を摂ることができます。また、噛むことによって消化吸収を促し、食欲を上手にコントロールすることにもつながります。ですから、健康な身体を作るためには、食事として摂ることが基本です。

では、栄養補助食品を利用するメリットはどんなことでしょうか。

○手間がかからない
プロテインは粉末を液体で溶かすだけのタイプや、そのまま飲める液体タイプなどが多く、調理の手間はほとんどありません。忙しい方や調理ができない環境でも、手軽にたんぱく質を補うことができます。

○食欲が低下していても摂りやすい
体調不良や運動後では、食欲が低下することがありますが、そのような状態の時こそ、たんぱく質をきちんと摂ることは大切です。プロテインなら、通常の食事よりも負担なく栄養補給をすることができます。

○糖質、脂質、塩分を抑えやすい
たんぱく質源である魚や肉、卵、大豆製品には、素材自体に脂質が含まれます。また、食事として摂る場合には、ほとんどの場合味付けが必要です。
糖質や脂質、塩分は身体に必要な栄養素ですが、過剰摂取は生活習慣病の誘発など、健康を害してしまいます。食事全体でこれらの栄養素が過剰気味であるときに上手に利用すれば、糖質、脂質、塩分を抑えてバランスを整えることができます。

プロテインを上手に取り入れるポイント3つ

次にお伝えしたいのは、プロテインを上手に取り入れるポイントです。主に3つあります。

(1)摂取量を守る
日本人の食事摂取基準2020年度版では、1日のたんぱく質摂取推奨量を成人男性で65g、成人女性で50gとなっています。体格や活動量によって必要な量は異なりますが、この量を目安に、1日3食で1回20g程度の量を摂ることが適切です。

(2)バランスのいい食事の中に取り入れる
プロテインを摂るだけで身体にいい効果があるということではありません。体内ではさまざまな栄養素が相互作用により働いているため、たんぱく質だけをたくさん取り入れても効果的ではありません。
バランスのいい食事を目指す中で、たんぱく質補給のひとつとして取り入れるのがよいでしょう。主食、主菜、副菜をそろえることを目標にし、主菜のメイン食材である魚や肉、卵、大豆製品が摂れないときに、プロテインを代用するという具合です。

(3)運動とセットで増やす
筋肉量アップのためにプロテインを摂る方も多いのではないでしょうか。実際には、筋たんぱく質の合成という点では、摂れば摂るほど合成量が増えるわけではありません。
(公財)日本体育協会「アスリートのための食事・栄養」では、瞬発力・筋力系競技では体重1kgあたり1.7~1.8g程度、持久系競技では1.2~1.4g程度としています。日常生活での活動や毎日の運動習慣レベルでは通常の摂取量を守り、運動の負荷によって追加することが大切です。

プロテインを摂りすぎる弊害

手軽に摂ることができ、健康的なイメージがあるプロテインを摂りすぎると、どうなるでしょうか。たんぱく質の過剰摂取により生じる健康障害は、その許容上限量を設定し得る明確な根拠となる報告が見当たらないことから設定されていません。しかし、健康を維持する上で次のようなことに注意しなければいけません。

○カロリーオーバー
三大栄養素のひとつであるたんぱく質にもカロリーがあります。そのため、たんぱく質を取り過ぎれば、食事全体としてカロリーオーバーになってしまうかもしれません。継続的にそのような食生活が続くと、肥満や生活習慣病を引き起こしてしまいます。

○内臓に負担をかける
たんぱく質には「窒素」が含まれます。窒素を代謝するためには肝臓や腎臓が働きます。ですから、たんぱく質摂取量が多ければ、そのためにたくさん働かなければならず、腎臓に負担をかけてしまうことになります。長期的にそのような生活を続けることで健康な人が腎臓病を起こすという明確な根拠はありませんが、すでに腎臓病の場合には、過剰摂取により進行が加速する、摂取量を制限することで進行を抑える、ということが示唆されています。

○カルシウム不足を引き起こす
たんぱく質の代謝にはカルシウムが関わり、たんぱく質の代謝産物とともにカルシウムも排泄されます。そのため、過度なたんぱく質摂取はカルシウム不足を引き起こす可能性があります。

月並みですが、どんな食品もバランスのいい食事の中に取り入れることが基本です。そのことを広く認知してもらったり、食生活の実践につなげてもらったりするために、管理栄養士・栄養士が正しい知識を持っておくことが大切ですね。

参考文献
日本人の食事摂取基準(2015年度版)
日本人の食事摂取基準(2020年度版)
アスリートのための栄養・食事ガイド

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栄養素について知ろう「たんぱく質」とは?
①スポーツ選手の食事の基本

※2020.05.28 食事摂取基準の改定により、コラムを一部リライトしました。

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みんなのコメント( 2

    • 川口 由美子
    • 川口 由美子
      1732日前

      スポーツジムで1人いつもロッカールームでプロテイン飲んでいる、ちょっと気になる体形の方がいるので、こっそりこの記事をお渡ししたい気分です。プロテインは「プロテイン信仰」が強い方が多いので指導が難しいですよね…

      拍手 5

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      1733日前

      Eatreat編集部です。今回のテーマは筋トレブームで注目のプロテインです。正しい摂り方をしたいものですね。

      拍手 2

WRITER

プロテインを正しく活用するために知っておきたいポイント

薦岡 ともよ

卒業後は痩身教室での栄養指導業務に従事。10~80代までの女性のべ200人ほどとカウンセリングを行い、食生活のヒアリングや食事指導・運動指導を行いました。 ダイエット目的ではなく健康を目的とした栄養指導を行いたく、転職。 転職後、運動施設や院内薬局併設の糖尿病治療を主とした内科医のもとで、生活指導に重点をおいた生活習慣病治療に携わり、食事指導・糖尿病教室実施のほか、MRによる勉強会や学会にも多数参加。 現在は、産業保健における健康管理に携わり、企業および健康保険組合とともに栄養改善に取り組む。特定保健指導は現在6年目に入り、のべ500人以上の社員と面談を行いました(情報提供・動機付け支援・積極的支援)。 企業・健康保険組合とともに、健康経営の一環として、食堂メニュー改善、全事業所への健康情報提供、栄養セミナー、栄養相談などを実施。健康診断結果の改善につなげています。会員向けサイトや健康情報サイトでの健康情報やレシピ開発、調味料メーカーでのレシピの栄養計算(ホームページ、書籍、Facebookなど)も。 プライベートでは一児の母で、地域施設にて離乳食座談会、離乳食講座などを実施しています。 保有資格 管理栄養士、日本臨床栄養協会認定サプリメントアドバイザー、THP産業栄養指導者 母子栄養指導士、妊産婦食アドバイザー、離乳食アドバイザー、幼児食アドバイザー

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