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2021年12月7日(火)~8日(水)の2日間、東京栄養サミットが開催されました。
これまでの栄養サミットは、飢餓をはじめとする「低栄養」が中心でしたが、今回は「過栄養」も対象とし、「栄養不良の二重負荷」の根絶に向け、5つのテーマを中心に議論されました。
「東京栄養サミット2021」と公式サイドイベントとして開催された日本栄養士会主催「Japan Nutrition Action2021-2030」についてご紹介します。

栄養サミットとは

栄養サミット(Nutrition for Growth Summit )とは、英国が開始した栄養改善に向けた国際的取り組みです。
2012年のロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会最終日に当時のキャメロン英首相が開催した「飢餓サミット」をきっかけに、2013年にロンドンで初めて開催され、2016年には、リオ(ブラジル)でリオオリンピック・パラリンピックの機会に第2回栄養サミットが開催されました。

現在、世界の3人に1人が低栄養、肥満、微量栄養素の欠乏などの栄養不良を抱えており、2025年までには2人に1人が栄養不良に陥ると予測されています。
東京栄養サミットでは、2030年までにこれらを根絶することを掲げた東京栄養宣言(コミットメント)が発表されました。

東京栄養サミット~コミットメント5つのテーマ~

①健康:栄養のユニバーサル・ヘルス・カバレッジへの統合
保健システム強化が栄養不良改善に不可欠。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage :UHC)
全ての人が適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態のこと

②食:健康的な食事の推進と持続可能な食料システムの構築
栄養を確保する強固な食料システムを構築する必要性。

③強靭性:脆弱な状況や紛争下における栄養不良に対する効果的な取り組み
良好な栄養は、人々とコミュニティーの存続の中核。
栄養に加え、保健、社会保障、水と衛生、教育、農業などの強靭なシステムが必要不可欠。

④説明責任:データに基づく説明責任の促進
透明性の向上とデータに基づく説明責任の強化。

⑤財源:栄養の財源への新たな投資の動員
国内外の資金による持続可能な方法での資金調達が必要。

日本栄養士会 公式サイドイベント 「Japan Nutrition Action 2021-2030」

日本栄養士会は、公式サイドイベントで、「世界の栄養課題の撲滅」に向けたコミットメントを発表しました。

【日本栄養士会のコミットメント】
持続可能な栄養改善基盤構築のための、食・栄養の専門職の養成と配置


①アジアを中心に正式な依頼があった国に対して、管理栄養士、栄養士などの教育、養成、栄養士制度の創設、持続可能な栄養改善の基盤を構築することを支援します。

②既に栄養士制度が存在する国には、研修、留学等による人材のスキルアップを支援します。

【Japan Nutrition Action2021-2030のシンボルマーク】
コミットメントの「人材」「仕組み」「教育」がイメージできるように3色に分けてあります。この3色は、三色食品群のカラーにもちなんでおり、日の丸を背景にあしらわれています。

ラオス人民民主共和国の栄養改善に向けてスタート

日本栄養士会は「Japan Nutrition Action2021-2030」で、正式にラオス人民民主共和国より依頼を受け、栄養改善に向けてスタートしました。

【ラオス人民民主共和国の栄養改善プロジェクト案】
第1期(2022年~2024年)
ラオスの情報収集と両国の人材交流

第2期(2022年~2025年)
自立した学校給食制度の創設

第3期(2025年~2029年)
教育機関における栄養士養成

第4期(2029年~2030年)
卒業生(栄養士)の就業

現在、ラオスの公立小学校には給食がなく、持続的な実現に向けて、このプロジェクトには大きな期待が寄せられています。

ベトナムに栄養士制度を創設した実績

2014年ベトナムのハノイ医科大学、ベトナム国立栄養研究所、神奈川県立保健福祉大学、十文字学園女子大学とともに、日本栄養士会は、ベトナムの栄養士制度創設に貢献した実績があります。
サイドイベントでは、ハノイ医科大学栄養学科1期生で、現在は神奈川県保健福祉大学大学院で栄養学を学ばれているのダン・チィ・トゥ・ハンさんから「日本で学んだことをベトナムに持ち帰り、ベトナムの食生活に合わせて栄養課題に取り組んでいきたい」というメッセージがありました。

このように、日本の栄養士制度100年の歴史と成果が世界へ発信され、アジアを中心とする諸外国の栄養課題改善の一助となっています。

まとめ

今、世界では「低栄養」と「肥満」のような「栄養不良の二重負荷」が起こっています。
また、新型コロナウィルスの影響で、こどもの栄養不良はより深刻化しています。
これらを2030年までに根絶することを目指し、東京栄養サミットでは5つのテーマをもとにコミットメントが発表されました。
また、日本栄養士会も世界の栄養課題撲滅に向け、100年の歴史と過去の実績を生かして「Japan Nutrition Action2021-2030」をスタートしています。

今回の東京栄養サミットでは、日本の管理栄養士・栄養士としてやるべきこと、できることに気づかされました。一つひとつ、課題に対して挑戦する気持ちを大切にしたいですね。

 

参考文献
・東京栄養宣言(コンパクト)骨子
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100270083.pdf、(閲覧日:2021年12月16日)
・外務省HP 東京栄養サミット2021結果概要
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ghp/page6_000636_00001.html、(閲覧日:2021年12月16日)
・国際連合広報センターHP すべての人に健康を
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/social_development/universal_health_coverage/、(閲覧日:2021年12月16日)
・コミットメント作成ガイド
https://nutritionforgrowth.org/wp-content/uploads/2021/10/Commitment-making-guide_Apr2021-ver_Japanese.pdf、(閲覧日:2021年12月16日)
・日本栄養士会HP 【東京栄養サミット2021 レポート #01】
https://www.dietitian.or.jp/features/commitment/20211208.html、(閲覧日:2021年12月16日)

  

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みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      839日前

      昨年12月に開催された「東京栄養サミット2021」と公式サイドイベントとして開催された日本栄養士会主催「Japan Nutrition Action2021-2030」について、松岡喜美子さんにご紹介していただきます。

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WRITER

【レポート】東京栄養サミット2021・日本栄養士会公式サイドイベント「Japan Nutrition Action2021-2030」

松岡 喜美子

循環器病予防療養指導士 かがわ糖尿病療養指導士,ベーシックインストラクター(JCCA)、貯筋運動指導者、歯科栄養アドバイザー2級 大学卒業後、糖尿病クリニックでの栄養指導に従事しながら健康運動指導士を取得。 2008年よりフリーとしての活動を開始。 特定保健指導の立ち上げからスタッフ育成などにも携わり、これまでの指導件数は1万件以上。 生活習慣病予防セミナーの講師や企業やスポーツクラブでの運動指導なども行っている。 その他、企業HPのコラム執筆なども担当し、健康情報の発信や商品マーケティングなども行っている。 「栄養不良の二重負荷」という問題に対して、世界に貢献できる管理栄養士を目指しています。 ★2023年7月~ 訪問栄養指導をスタートしました。 プラダ―ウィリー症候群(PWS)の症例に関わられたご経験がある方、情報共有できたらうれしいです。

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